不思議のダンジョン 風来のシレン3 ~からくり屋敷の眠り姫~

対応機種・周辺機器
Wii / PSP
ジャンル
ダンジョンRPG
著作・制作
© セガ /チュンソフト/すぎやまこういち

基本情報

 ローグはUNIXなどのテキストベースのOSで人気のRPGだが、文字を使ったマップ表現で音もなく、ただダンジョンを潜っていく地味なゲームでもある。
 そんな地味な部分を大幅強化した上でゲームの本質を損なわず家庭用に作り変えた「ローグライクといったらこれ!」と言われるほどのジャンルの代表である不思議のダンジョン2 風来のシレンから続くシリーズ。
 前作不思議のダンジョン 風来のシレン2 鬼襲来!シレン城!から8年ぶり、外伝の不思議のダンジョン 風来のシレン外伝 女剣士アスカ見参!から数えても6年ぶりとなる待望のナンバリングタイトルが本作。

 本作はセガ×チュンソフトプロジェクトのひとつ。
 少しバランス調整が施されたPSP版もチュンソフト、T&E SOFT開発、発売スパイクでに出ている。
 本レビューはWii版をプレイしてのもの。

 ローグライクらしからぬレベル継続制を採用し、ストーリーを強化した本作、その選択は吉と出たか。

グラフィック

 これまでのシリーズより綺麗だがWiiとしては普通程度。
 しかしターン制のパズル的解法が要求されるローグライクとして必要なグラフィックとしては壊滅的だ。

 まずキャラ(仲間や敵も含め)の頭身が高いのでキャラの立っている位置がわかりにくいし、キャラの向こう側1マスが隠れて何があるのか分かりづらい。
 加えて手前の壁でもマスが隠れて見づらいの、2で問題になってアスカ見参!で修正されたのになんで2よりダメな形で再発してるの?
 クラシックコントローラの右スティックで角度を変えられるという対策がしてあるが、標準コントローラはもちろんヌンチャクでも右スティックはないので使えず、後の祭り感がすごい。

 また満腹度とか通貨(ギタン)とか常に表示されないので、現状確認でいちいちメニューを開く必要があり遊びづらい上に、16:9画面を考慮しておらず左右の幅を合わせると上下が切れて数字が画面外に一部はみ出るという雑さ。
 マップ手前にオーバーレイ表示されるミニマップの視認性が悪く、スクロールするため全体の大きさや現在地を把握しづらい。
 ⊕ボタンを押すと背景を暗くして視認性を高めることができる…付け焼き刃!

チグハグな演出

 アニメーションやメッセージのテンポが極めて悪い。
 例えば、本シリーズは武器を振ると目の前のトラップを発見できるという仕様があるのだが、本作はチェックする気が失せる遅さ。
 レベル継続・持ち込み可のシステムと相待って、トラップはチェックせずにゴリ押ししてしまう。面白いかこれ?もちろん面白くない。
 例えば、敵とトラップが大量に出現するモンスターハウスは、敵が与えるダメージよりも敵の行動が増えてゲーム進行が間延びするほうが嫌、というおかしな状態になっている。
 いくつかはオプションで動作を切れるが、一部でしかない。
 Wiiのリモコンでの誤操作を防ぐ意図もあるのかもしれないが、たぶん「豪華に見えるから」程度の認識で演出が追加されている。
 豪華に見せたいのなら(かなり凝った)ムービーに声が入ってないのは方向性が中途半端だ。個人的にシレンシリーズにボイスもムービーもいらないと思っているが。

 逆に村では家の出入りで画面が完全に固まるとか、話しかけて振り向くのになぜか一拍時間がかかるとか、プレイヤーを不安にさせる。そこは演出入れていいんだよ!
 他もイベントシーンが飛ばせないとか、キャンセルボタンで戻らない選択肢とか、選択のたびに無駄に差し込まれるセリフとか、絶妙に痒いところが痒いままのUIで痒い!!

ストーリー

 風来のシレンシリーズは熱狂的なファンがいて、名作・傑作と称えられている。
 しかし本数的には大して売れておらず、売れたシレン2でも30万本行ってないという話で、アスカ見参!は最高傑作の評価を受けるも5万本しか売れずプレミアソフト化している。
 ここでの判断は30万本最高の予算感で今までの路線を続けるか、別の方向に舵を切って100万本を超える自社IPの柱を目指すかに大まか別れると思う。
 本作は後者を選んでストーリー主導のゲームにし、結果として座礁した。

 チュンソフトが作るなら同社の弟切草のような分岐の多い、あるいはタイトーサイバリオンのような毎回展開が異なるストーリーをつけるかと思ったら、バリバリの一本道。
 そして本編クリアはチュートリアル、追加ダンジョンからが本番なのがシレンシリーズ、と考えるとストーリーが長すぎる。
 喋らない主人公(つまりプレイヤーの分身)であるシレンに対し、シレン自身の物語を展開するのも無理があり過ぎる。
 そもそもプレイ中の偶然と必然の絶妙なバランスにより発生する事象に物語を感じるのがローグライクの面白いところなのに、さらに物語を付加するのは余計なことでしかない。

 メインのストーリーはレベル・ちから・装備が継続されるため、とりあえず敵の能力を無視できるぐらい数値を上げるまでダンジョン潜りを繰り返す。
 十分に強くなったらマップを走って敵が出たら物理で殴り、階段を見つけたら逡巡なしに進み、ボスは巻物・杖・お札が効かないので足を止めて交互に攻撃してクリア、という面白さが雲散霧消したプレイになってしまう。
 レベル継続であるため、レベル1から小気味好くレベルアップを繰り返す楽しさもなく、次のレベルまで地味で事務的なモンスター狩りに終始することになる。
 ストーリーの都合で仲間が増えたり減ったり、拠点に帰る前に別ダンジョンに移ったり、計画を乱されて不快。
 おそらく「どこでもダンジョン」は、ストーリーの都合で移動させられた挙句アイテムをロストした場合、ストーリーダンジョンがクリア不可能になる場合があるので、それの救済策として追加されたものと思われる…対処が雑!
 なお、難易度ノーマルを選択をしてロード不可にもできるが「難しくなるというよりアイテム集めのための虚無の時間が増えるだけ」の地獄が待っているで意味はない。イージー一択。

 結果として、ストーリー進めるボタンを押す代わりにダンジョン攻略をやらされているような状態となり、一本道ストーリーとの食い合わせの悪さの展示場みたいな製品に仕上がっている。
 加えてストーリー自体も唐突感満載で、プレイヤー置いてけぼりでセンセー(仲間キャラ)が勝手に納得していくシナリオでは、もはや何を楽しみにプレイしていいんだかわからない。

ルールの噛み合わなさ

 新規また廃止されたルールがびっくりするぐらい面白さに貢献しておらず、延々ダメな部分を書き出すとあまりに多いので、ざっと紹介するのに止める。

 仲間はAIの頭が悪く(例えば罠にかかりやすい行動をする)似たような性能で面白みに欠け、最大3人の装備の世話をするのが(装備先キャラをいちいち選ぶ必要があることを含めて)面倒臭く、一人でも死ぬとやり直しでこれまた面倒臭い。
 龍脈によるアイテム強化は手順が多く時間がかかる割に応用も利かず面白くない。
 属性は、敵に最初からバフがひとつ付いているようなシステムで、組み合わせで発生する特徴を考えず単純に表を作って割り当てている感じだ。組み合わせによっては最初から凶悪な能力の敵がいる一方、レベルが高いはずなのに属性がしょぼくて脅威でなくなったりもする。
 バフデバフの組み合わせが重なることで難易度が急激に変わるのがローグライクの面白さだが、最初から全ての敵にバフが付いているのピーキーすぎる。
 属性にはベースの敵の能力と被っているものもあり、敵の個性が薄くなっているのも問題。
 ついでに敵の色と属性の対応が中途半端で一見別の属性に見える敵が多い…作ってる途中で属性に対応した色つけるの飽きた?
 そしてレベル継続制は、前述の通り本作の癌。いいところひとつもない!

 逆に廃止された部分では次のようなものがある。
 簡易ダンジョンのような倉庫が拠点になく、いちいちダンジョンに潜って合成など行わねばならない。
 拠点に城が立つとかそういう積み上げ要素もなく、淡白なことこの上ない。
 以前はフェイの問題というパズルがあって、ルールを覚えるのに役立っていたが、これも廃止されている。
 ストーリーにしてもチュートリアルとなるような情報がほとんどなく、上手なプレイ方法がわからないので取り敢えず「意味わからなくても死なないように強くする」というプレイに向かわせてしまっている。

 廃止されたものではないが図鑑の類がないのでコンプリート要素の代表的なものがなく、敵の性質を推測に頼るしかないのも新規プレイヤーを開拓する気があるのか疑問。
 冒険の足跡(トロフィー)はあるが変な偏りがあってなかなか取得されないし、取得するまでどんなものがあるかもわからないし、取得した時にポップアップが出ないから気づかない。
 ストーリーダンジョンをクリアするまで、レベル非継続のダンジョンが「どこでもダンジョン」しかない。
 サブイベントのようなものもあるが、好きなタイミングでやれないし、メインストーリー後しかやれないものも多い。
 というように、ストーリーが楽しめないから他の部分に楽しみを見出そうとしてもできないというのが辛い。

 敵やトラップなどの出現順や組み合わせ、出現頻度や出現場所、特殊能力・属性発生確率も含めたあらゆるバランスが悪く、加えて仲間のAIの頭が悪いため「単調な道中でいきなり一発アウト」みたいなプレイ感となっている。
 そうではなく「慎重に進んでいる途中に気を抜いて死亡」という納得感のある調整にしてほしい。
 というか調整していないんで前者のプレイ感になっているものと思われる。

 杖や巻物を封じる特殊床に関しては、たまに封じられていることを忘れてミスするぐらい存在感がなく、余計な要素感が強い。
 二刀流や腕輪二個に関しては、良し悪しある感じ。お札は、強すぎる感はあるがそう悪くない。
 ただ先に語った新ルールの出来が悪すぎるので、これらは偶然悪い方に転がらなかっただけで、そう深く考えて導入してない気がする。
 2から登場した人気キャラであり主役の外伝まであるアスカが「ござる語尾」でなくなってキャラ崩壊していることまで含めて「変えること自体が目的になって、なんでそう変えるのか考えてない」という雰囲気だ。

まとめ

 もし不思議のダンジョンシリーズ第一弾がこれだったら「ローグを一般向けにプレイしやすく噛み砕いた傑作」と絶賛したかもしれない。
 しかしチュンソフトは本作までにトルネコ、シレン、チョコボ、ポケモンなど2桁を超えるローグライク作品を世に出している。
 まだ書いていない部分でも例えば空振り率が妙に高いとか、アイテムの出現率や値段(未識別のアイテムを推定するのに重要)の被り多すぎ、アイテムの買い取り安すぎなどなど、バランスがひどい。
 数値を決めた段階で頭の中でプレイをシミュレートできるという、ゲーム製作者が持っているべき能力に欠けた人が各種パラメータ設定を行っている。

 もしシミュレート能力がなかったとしても「これやったらつまんなくなる」って知見は十分溜まっていたはずだ。
 しかし本作をプレイすると「驚くべきことに知見が溜まっていたのはプレイヤー側だけで制作のチュンソフト側はその知見を持っていなかった」という結論が導かれてしまう。

 特にレベル継続制は「カレーって辛くて食えないから舌に麻酔打って味覚なくそう!」みたいな異次元の調整だ。
 香辛料抑えて、リンゴとハチミツ加えるとかにしろよ!味がしないんだよ!!
 味がしないものを食べても楽しくないので絵本をどーぞ、じゃねーんだよ!俺にカレーを食わせろ!!
 シレンのストーリーはゲームに彩りを添える福神漬け程度にしてほしい。

 そしてクリア後のダンジョンは麻酔がなくなるので、辛いだけで美味しくないカレーが堪能できる。
 辛いの大好き勢は、多少楽しめるかもしれない。テンポは悪いが。

 全体の感想としては、シレンツクールというツールがあって、ローグライクをよく知らない人たちが画像やシステム、パラメータなど頑張って追加・改変してイベントやストーリーを頑張ったら全部裏目に出た、みたいなソフトだ。
 新曲自体は特に悪いところはないと思うが、新曲に一切すぎやま曲がない(ないよね?)のも、既存のデータを元に追加・改変したという雰囲気を感じさせる。

 むしろアスカ見参!を開発したネバーランドカンパニーのダンジョンARPG仙窟活龍大戦 カオスシードの絵と音だけシレンに変えた方がシレンらしさを感じられたまでありうるぐらい、シレンらしさが消えている。

 ちなみに驚くべきことに本作はファミ通クロスレビューのプラチナ殿堂入りソフトになっている。
 ファミ通がこういうことするから「プラチナ殿堂入り」した傑作、とか書くとゲームレビューにわかみたいな空気でてきちゃうんだよぅ!

参考

 そこで結論。

ローグライクの禁じ手の宝庫 This is 反面教師!