Splatoon(スプラトゥーン)
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基本情報
イカ人間となり、ブキを使って地面を塗り合い、塗った面積が大きい方が勝つ。
…と説明されても、なんだかよくわからない独特な世界観を持ったゲームであるが、プレイを見れば一目瞭然、それがスプラトゥーンだ。
一応、TPSと呼ばれる、キャラの後ろにカメラがあるタイプの、3D空間で敵を撃っていくゲームジャンルに含まれる。
しかし、色々な点で同ジャンルの他ゲームとは異なるゲームとなっている。
システム
ローカルプレイ
本作はチュートリアル的に一人用のゲーム(ヒーローモード)が用意されている。
もし、オンライン対戦ができない状態で入手したとしても、この部分だけプレイする価値はある。
基本的には面クリア型のアクションゲームとなっており、インクを使って敵を倒しつつゴールを目指す。
インクを浴びせると動く仕掛けがふんだんに用意されており、ステージごとに隠しアイテムが用意されているなど、純粋なアクションゲームとしてだけでなく、探索・謎解きゲームとしてもなかなか手応えがある。
なお、イカ、ガール、ボーイのamiiboでチャレンジという新コースを楽しめる。
対戦用のフィールドに一人用で使われた仕掛けが、さほど転用されていないのは残念だ。
多くのボタンやスティックを駆使する複雑な操作をはじめとして、対戦に役立つテクニックは身につくが、ゲームのルール自体は別物である。
ボス戦が、それまで身につけたテクニックの試験場という感じになっていて、イカにも任天堂で安心感ある。
ただ、ラスボス戦が難しくて倒せない、というより倒すまでが長すぎてダレて負けてしまうという感じなのは悪印象。
ラスボス戦を分割して要所に出現させるなどして、切りよく遊ばせて欲しかった。
できれば、オフラインの対コンピュータ戦なんかも欲しかったところだが、AIが難しかったのかオンラインを遊ばせたかったのか、本作には含まれていない。
一応、Wii Uパッドとクラシックコントローラを使っての、オフライン対人戦ができるようになっている。
風船を割った数を競うという別ルールではあるし、おまけの域かとは思うが、ネットワーク不要の対戦モードが用意されているのはありがたい。
シオカラーズ
シオカラーズ(アオリとホタルの二人のユニット)というイカアイドルがナビゲーターとして登場して、冒頭に現在の対戦ステージやアップデートの解説を行う。
これは、負けそうになったら回線を切るプレイヤーがあまりにも多い、という任天堂の過去作の状況を見ての仕掛けかと思う。
要は、回線切ったらしばらく間を置かないとプレイできないよ、ということ。
回線を切った後に「再接続まで20秒かかります」みたいな表示をすると任天堂に対する悪意が集まってしまうが、可愛いアイドルが出てきて前説をやってくれるのだから、悪意を集めず回線切りまくるプレイヤーのプレイ時間を減らせている。
まだ本作でも、負けそうになって回線を切っているプレイヤーがいるように思うが、以前の任天堂のオンライン対戦ゲームに比べると、決着が着くまでプレイできないという状況は減ったという感覚があり、一定の成果を出しているのではないかと思う。
アオリとホタルはオンラインイベントであるフェス(お題に沿った2つの陣営に別れてナワバリバトルを行う)のナビゲーターも行なっている。
フェスはWiiのみんなで投票チャンネルの評判が良かったことを受けてのシステムかと思う。
一定期間、お題について投票で2つの陣営に分かれたプレイヤーたちが戦うという仕掛けは、ゲームシステム的には今ひとつピンとこないが、有名な商品とのコラボなども含め、お祭りとしてはよく機能していたと思う。
彼女たちは、ヒーローモードにも登場しており、周到な顔見せがなされている。
おかげで人気は上々、アミーボはもちろん、アオリとホタルをフィーチャーしたWii U本体とスプラトゥーン+アミーボセットまで作られている。
さらに彼女たちは、Wii Uカラオケ(JOY SOUND)にも楽曲を引っさげて登場するなど、その活躍はゲーム内に止まらない。
アップデータ
ブキやギアのラインナップはおおよそ一年かけて随時アップデートされた。
また、対戦ステージも追加や不具合の修正が行われている。
前述のフェスも含め、話題が途切れず飽きることなく楽しめるようになっていた。
フェスの他のコラボは週刊ファミ通と侵略!イカ娘ぐらいで、若干物足りない気もするが、世界に合おうが合うまいがとにかくコラボみたいなのに比べたら抑制されていて偉い。
対戦システム
多くの対戦TPSは相手のチームのメンバーを倒した数(KILL数)か拠点の占領数を競うルールだが、本作のレギュラーマッチの勝敗は塗った面積(上から見たもので壁を塗った面積は含まれない)で決まる。
なお、ガチマッチでは塗った面積ではない勝利ルールで対戦できる。これはこれで面白いが、地面を塗ることが勝利に直結しているルールではないため、スプラトゥーンらしくないところがあり、個人的にはおまけモードのような感触。
プレイヤーは人とイカ型に変身でき、それぞれの形態にメリット・デメリットがある。
イカ、細かく見ていく。
色を塗ること
陣取り型のゲームは、拠点を占領すると補給ポイントとして機能するようになるパターンが多い。
本作はインクを塗った場所そのものが陣地になり、補給箇所ともなっている。
他のTPSではダメージや行動を遅くするトラップに専用のアイテムが用意されているパターンがあるが、本作はこれらもインクが担っている。
手元のマップを見るとリアルタイムに塗り状況が更新され、インクが行動センサーの役割をも果たしている。
加えて、インク上は垂直方向への移動及び、水平方向への高速移動ルートとなる。
塗るという行為はマップに新たな意味を付加する、というよりリアルタイムにマップを改造する行為でもある。
幾ら何でもインクに機能持たせすぎで混乱しないか? と心配になるが、プレイしてみると「インク=陣地」という基本ルールから、これらの機能が実に自然に理解される。
敵を倒すゲームは当然ながら相手が動くし撃ち返すので、いつまでたっても敵を倒せない初心者が発生しがちで、ここで心折れる気持ちもよく分かる。
しかし、色を塗る対象は動かなくて大きい地面なので誰であろうと確実にこなせる。
言葉だけでは裏方っぽい感じもするかもしれないが、色を塗ること自体が楽しいので敵がいることを忘れて塗ってしまうほどだし、敵を倒す方がむしろルール上サポート役になる。
集める楽しみで書いたように、本作は隙間を埋める楽しさをゲーム化したものの一つだ。
ナムコパックマンを代表とするドットイートと同じ楽しみである。同時に対戦ゲームなので、敵が塗ってくるのを防ぐという楽しみ、というか必死になる理由がある。
ウォーシミュレーションと同じ陣取りの楽しみである。
自分の領域が増えるのは嬉しいし、減らされるのは悔しい。実にシンプル。
インクで面を塗っていくのは、汚れた面を洗うスーパーマリオサンシャインのポンプの逆だが、その気持ち良さはかなり近いところにある。
前述の陣取りの面白さもそうだが、炎天下に水遊びをする楽しさがそこにある。制作者も自覚的なようで、ブキのデザインは水遊び用の玩具(水鉄砲)を彷彿とさせるものが多い。
その上に、ちょっと悪いこと(落書き)をするほうが楽しかったりするので、そういう面ではむしろセガジェットセットラジオに近いだろう。グラフィックのちょっと悪ガキっぽい雰囲気も、自分で描いた落書きが街に反映されるシステムも似てる。
TPSとは言い難いが、個人的に似てるなと感じるのはUPL(アスキー)ぺんぎんくんWARSだ。
敵を倒すことそのもの目的ではなく、敵を倒すと一方的に攻撃できる時間が発生すること、敵陣にボールを多く入れたほうが(陣地が多いほうが)勝つという点がよく似ている。
敵を倒すこと
敵を倒すと、敵をスタート地点に戻してしばらく参加できなくできるのと、倒した地点にインクが飛び散り陣地が増えるのがメリット。
4vs4のチーム戦なので、短時間でも塗り手が減ることのデメリットは大きい。それが二人減ったら、相当キツイのも確か。
また、ガチマッチは異なるルールがいくつかあるが、概ね敵を倒すことのメリットが大きい。
とはいえ、本作はお互い敵を倒さなくてもゲームが成立するぐらい、敵を倒すことが重視されないルールであることは前提だ。
ヒト形態であること
ヒト形態は、要はブキが使えるモードだ。
サブのボム系だけではなく、メインブキも弾速が遅くてはっきり視認できるものが多く、弧を描いた撃ち方で壁向こうを狙える。
本作の場合は、ブキの「主機能は塗る」ものなので、敵を倒すルールだけでは出てこないブキのバリエーションがある。
弾速が遅い上に、塗るために撃つことが多いこともあって、飛んでるインクで位置がバレやすいのも独特だ。
イカ形態であること
ブキのチャージ、ダッシュ、登る、しゃがむ、隠れる、すり抜けるがボタン一つに集約されているのがイカ形態だ。
隠れると同時にリロードもしようというアイディアならナムコタイムクライシスにもあったが、本作の同時実現行動の多さは、上記の通り並ではない。
ブキが使えないモードは何もできないモードになりがちだが、これだけ役割があると使わないわけにはイカない。
イカ形態でインクの海に潜りジャンプで障害を飛び越える感覚は、セガエコー・ザ・ドルフィンを彷彿とさせる気持ちよさだ。
開発中はうさぎのキャラを使っていた時期もあったそうだが、イカ人間を思いついた時点から、雪崩のように仕様が確定していったのが想像できる(し、実際そうらしい)
墨を吐く生き物という部分はもちろん、泳ぎやジャンプといった挙動、背景に溶け込むステルス能力、触手と人型の親和性などなど。
マップにイカを表示すれば矢印っぽいので向きが分かることや、イカという単語がダジャレに使いやすいことまで含めて、完全にゲームの神が降りてきてる。
スーパージャンプ
前述の拠点がワープ目標(あるいは復活地点)となるパターンが他のゲームではよくあるが、本作ではスタート地点以外に専用の拠点が存在しない。
そこで本作では、ワープ目標はスタート地点と各プレイヤーの位置が割り当てられている。
これにより、プレイヤー自身が拠点として機能し、別に新たな装置を導入する必要がなくなっている。
なお本作には、ワープ地点をマークする装置もサブウェポンとして存在するが、必須のものではない。
また本作では瞬時に移動するのではなく、高くスーパージャンプして移動するため、ジャンプ中に地上を見て戦況を確認できる。
ジャンプにそれなりの時間がかかるので、ジャンプを繰り返して逃げると塗れる時間が減ってしまう。
ジャンプ先に敵味方誰にでも見える着地マーカーが表示されることもあり、あまりあからさまな場所に飛んでくると待ち伏せされるのはもちろん、着地前に迎撃されることすらある。
という感じでバランスが調整されていて、実に納得しやすい無理やり感のない仕様だ。
高さ
3Dのゲームは高低差をイカに克服するかが問題となる。落ちるのは一瞬だが、まともにやるとプレイ時間のほとんどが登る行為に費やされることになりかねない。
ジェットセットラジオはレールに勢いよく乗ると一気に駆け上がれるというシステムで克服したし、スーパーマリオサンシャインはポンプをロケットベルトのように使うことで克服した。
射撃においては高所を押さえることが飛距離や見晴らしなど有利な点が多いので、登るアクションは特に重要だ。
本作の場合、塗った箇所が泳げるようになる特性を応用し、壁を塗ることで一気に泳いで高い場所に到達できる。
登る行為のために、新たなアクション(ボタン)や特殊器具(ハシゴとかバネなど)が必要ないというのが素晴らしい。
その上で、ゲージを溜めて使用できるスペシャルウェポンは高低差をものともしないものが多く、高所を長時間占有するのが難しくなっているのもいい調整だ。
狙撃対策
射撃対戦ゲームは、遠距離からライフル(本作ではチャージャー)などでの攻撃が、圧倒的に強くなりがちである。
狙い撃ちをマウス操作で行うゲームでは、まともに作るとあまりに強すぎるので、(リアルさの演出という意図もあるが)手が震える動きを入れて狙いにくくするなどの工夫がされている。
本作はエイミング操作をジャイロに割り当てているので、実際の手のブレが影響し、安定して狙えない。
また、伏せる操作であるイカ形態ではブキが使えないので、狙撃には体を晒す必要がある。
さらに、チャージャーは射線がレーザーのように表示されるので、意味も分からず倒される事態が起きにくい。
撃たれてアウトした側からはスタート地点に戻る前に撃った相手にズームする映像が見られるので、はっきり位置がバレる。これはInfinity Wardコール オブ デューティのキルカム機能に近い感じ。
また、チャージャーはその名の通り充填時間があるので連射ができない。
撃たないと当然地面が塗れないので、いわゆる待ち伏せのメリットが低い。
とはいえ、隠れたり待ったりすることでプレイの幅が大きく広がる調整になっており、完全にメリットを潰していないのも上手いつくりだ。
最終的には、マップやルールによっては有効な進撃ルートが限定されキャンプが有効な局面が多かったり、遮蔽物などを利用して射線を隠しておいてエイム即射殺を実行するテクニックなども開発され、チャージャーやっぱり強い印象だ。
下手と上手い人で能力に差がつきすぎる点も、ゲーム全体の雰囲気と合ってない感じ。
とはいえ、塗らないと勝てないので、チャージャーだけではチームの勝ちにつながらない、というぐらいのバランスではある。
コミュニケーション
対戦中は「カモン」「ナイス」の2種類のサインが送れるのみで、チャットの類はない。
この辺は任天堂のWi-Fiコネクション以来の「あんしん」のポリシーが生きている。
ゲーム中のチャットがあるともちろん楽しいのだが、それ以上にチャットでクソミソに言われてゲーム自体を嫌いになってしまう、ということを懸念しているのかと思う。
また直接の日本語ではないので、いいプレイをした時に仲間から「ナイス」サインをもらうと、「今俺イカ仲間になってる! 」って感じが強くて楽しい。
投稿メッセージをMiiverse経由で広場にランダムで登場するプレイヤーのフキダシに表示する。
このように、個人を特定したコミュニケーションは排除されている。
規約的にも個人のIDを晒すような投稿はできないようになっている。
ランダムで登場するイカ以外に、対戦したイカたちも広場にいるので後でゆっくり装備などの確認ができる。
コミュニケーションがガッチガチに制限されてつまらないような感じもするが、広場にいるイカたちが発するメッセージを見たり読んだりするのも、なかなか楽しい。
やはり楽しむことが目的でかつ対戦のゲームにおいて、ワンクッションおいたコミュニケーションが適切かと思う。
グラフィック
セガのゲームかと見紛うほどのクールポップさとドッピーカンのセガブルーの空だ。
任天堂が、ジェットセットラジオチームに開発を依頼して作ったのが本作、と説明されたら何も疑わずに信じてしまいそうだ。
可愛いで、かっこいいなだけではなく、海洋生物の持つ若干の不気味さを持っているのが、キャラクターとして完璧だ。
さらにガールの腰つきなど、サードパーティーから出されたら販売不許可されるんじゃないかという色っぽさ。
要するに、極めて魅力的だ。
また、ブキは見た目と機能がリンクしたデザインで、どう使うか見た時点で理解できるぐらいの分かりやすさだ。
任天堂の宮本氏の名言「デザインで機能を表現するのが大切で、例えばトゲがついてたら踏みませんよね(うろ覚え)」という言葉と符合する。
まとめ
ウォーシミュレーションにおけるファイアーエムブレム、レースゲームにおけるマリオカート、対戦格闘における大乱闘スマッシュブラザーズ、RTSにおけるピクミン、(本作より後の作品だが)オープンワールドにおけるゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドのような、任天堂お得意の「マニアックになりすぎたジャンルの再構築」を行ったタイトルのひとつと言える。
それらのタイトルと同様に、個々のシステムや細かな工夫を取り上げていくと、既にどこかのゲームで使われているネタだったりするのだが、それをうまく融合して全体としての完成度を上げている。
この辺、TPSというジャンルありきで開発されていなかったことで、TPSで陥りがちな問題を解消できた面も大きそうだ。
これも宮本氏の言葉で「アイディアとは一度に複数の問題を解決するもの」という感じのがあったと思うが、本作は任天堂のゲームの中でも突出して、ここでいうアイディアに溢れていて、かなり複雑なルールをそうと感じさせずに理解させることに成功している。
本作はイカというモチーフが降りてきたという点がもう、神がかっているとしか言いようがない。
また、キャラクタやエフェクトの挙動・サウンドの手応えが抜群に良く、敵のキルやスーパージャンプなどの派手な動きはもちろん、ジャンプボタンでスキップしたり、イカに変身して地面でピチピチしているだけでもウキウキしてくる。
対戦どうこう以前に、根源的に動かしていて楽しい。これこそ、ゲームで一番大切な部分かと思う。
参考
- Splatoon(スプラトゥーン)公式サイト
- 社長が訊く『Splatoon(スプラトゥーン)』
- 目指すはゲッソー超え! 任天堂の期待作『Splatoon(スプラトゥーン)』、誌面未公開部分も含む開発者インタビュー完全版(1/2) - ファミ通.com
- すべては長く楽しんでもらうために。多くの裏設定話も飛び出した、『Splatoon(スプラトゥーン)』開発スタッフインタビュー【システム編】(1/4) - ファミ通.com
- 機能を表現するデザイン手法。キャラクター、ブキ、ギアのデザインに迫る、『Splatoon(スプラトゥーン)』開発スタッフインタビュー【デザイン編】(1/4) - ファミ通.com
- 架空のバンド、アイドルを想定して作るBGM。シオカラーズ、インクの音のこだわりも訊く、『Splatoon(スプラトゥーン)』開発スタッフインタビュー【サウンド編】(1/3) - ファミ通.com
- スプラトゥーン - Wikipedia
そこで結論。
明るく楽しく奥深い! 殺伐としたジャンルを再構築した名作!!