ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド

対応機種・周辺機器
Wii U/Switch(amiibo対応)
ジャンル
オープンエア
著作・制作
(c)Nintendo 2017

基本情報

 前作ゼルダの伝説 スカイウォードソード(以下、スカウォ)から久しぶりに据え置き機で発売されたゼルダの伝説(ゼルダ無双はのぞく)。
 2013年から開発を始めていて、2015年には出るなどと言っていたのに、Wii U最後の任天堂ソフトとなる2017年3月へとずれにずれた。
 同時にNintendo Switchのローンチタイトルにもなっていて、ゲームキューブとWiiで発売されたゼルダの伝説 トワイライトプリンセス(以下、トワプリ)を思い出す。
 多くの人に新機種専用のゲームと思われているのも似た感じだ。

 今回の遅れた理由は開発のコンセプトとなった「ゼルダの当たり前を見直す」という言葉に集約されているかと思う。
 そもそも長く続いているタイトルというものは、毎回大幅な見直しを行い大胆な変更を行なっているからロングシリーズとして成立しているのであって、ゼルダシリーズは特にその傾向が強いシリーズと言ってもいいぐらいだ。
 そのゼルダの当たり前を見直す、というのだからそれは新規タイトルを作る以上の新規性が求められていた、と言っても過言ではないだろう。

 基本はゼルダの伝説 時のオカリナ(以下、時オカ)から続く3Dゼルダであるものの、オープンワールドの要素を大きく取り入れて進化した「オープンエア」と任天堂が名付けたゲームとなった。
 Havokという社外で一定の評価のある物理エンジンをベースに、炎・風・雷などの挙動を記述した化学エンジンを加え、その組み合わせによる掛け算のリアクションを実現している。

 以下混乱を避けるため、基本的にゼルダは姫の名前として使い、ゼル伝をシリーズ名として使う。ただし「ゼルダの当たり前」という言い回しの時はシリーズ名。
 また、以下レビューはWii Uのパッケージ版をプレイしたものだ。ただし、ダウンロード版やSwitch版と、ほとんど差はないようだ。それはパッケージ版に紙マニュアルが付いてなくて、電子マニュアルに統一されていることも含めて。

 なお本作もゼル伝ではおなじみの、宮本プロデューサー、青沼ディレクターによる信頼の開発陣である。

まとめ

 今回、やたら長いので、先にまとめを書いておく。

 ひとつひとつのシステムを取り上げると、ほとんどすでにどこかのゲームで実現されていることで、新規性は実のところさほど大きくないように思う。
 例えば、滑空によって格段に行動範囲を広げるパラセールも、最近のアイドスジャストコーズ3のウィングスーツなんかの転用とも見えるし、ゼル伝でもゼルダの伝説 ムジュラの仮面(以下、ムジュラ)のデクナッツリンクや、ゼルダの伝説 風のタクト(以下、風タク)のデクの葉でも採用されていたギミックをブラッシュアップしたもの「でしかない」とも言える。

 といっても例えば、オープンワールドの始祖のひとつとして語られることの多いSEGAシェンムー(の)で新システムとして大々的に喧伝されていた、誰かの後をついていく(チェイス)システムも、ごく自然に取り込まれているなど、あまりにも当たり前にすごいことをやっているので、こちらとしてはもう惚けるしかない。
 すごいことを当たり前のようにやってることが多過ぎるのだ。当たり前のようにやっているので凄いことに気づかないほどに凄いのだ。一本ゲームが成立してしまうような要素が大量に入っているのが恐ろしいのだ。
 本作のどこが面白いかを列挙して、こうすれば面白くなるんだよ、と言うことは容易だ。しかし世のゲーム開発者にそう伝えたら「そんなんできるか!!」と返されること必至である。

 個人的に明らかに新しいと感じたのは、物体を停止させている間に与えた衝撃(ベクトル)が合算されて停止が解除された時に一挙に力が加わるビタロック、位かもしれない。これも、採用されているゲームはある気はするが。
 本作は、そういうわかりやすい新規性ではなく、様々なシステムがありえないぐらい調和して、前人未到の総合力が発揮されていることが凄いのだ。
 時間的空間的に、程よいバランスで大小のゲームが成立するように配置されており、それらが有機的に繋がっていることが凄いのだ。
(ただ、キー配置はなー、もう少しどうにかなったと思うんだけどなー)

 パラセールで滑空できるので、落下死する箇所が沢山あっても大丈夫。ワープでいつでも簡単危機脱出できるので脱出不可能なハマりが発生しない。オートセーブによる死に戻りの気楽さがあるので、敵やトラップによる一発死が起きても大丈夫。
 敵の弱点や特殊アクションによる戦闘の難易度低下の著しさによる、プレイヤー経験値による成長の実感。
 高い登攀能力と、パラセール・馬・盾サーフィンなどを駆使した自由で快適な移動。
 リアクションは物理+化学エンジンで自動生成。
 このように、雑なマップ・敵・アイテムの配置をして予想外のことが起こっても吸収できる仕様を作ってある。
 割とオープンワールドは、雑でも吸収できる仕様にしたから、雑に配置しよー、みたいなノリで作られている印象がある。
 それに対して、雑さを吸収するシステムの上に丁寧な配置をした、というところに本作の頭ひとつふたつ抜けた部分がある。

 スーパーマリオ64のレビューでは、(ルールの決まった)ゲームではなく(ルールを決めて遊べる)おもちゃを作りたかったのではないか、と感想を書いたが、本作でついに「これはゲームというよりおもちゃなのでは」という製品を出してきたように思う。

 以上で、レビューとしては十分なんじゃないかと思いますが、折角書いたのでダラダラと感想を並べていきます。
 また、割と気軽にネタバレしてます。
 ゲームのボリュームがボリュームなので、この程度のネタバレ大したことはないと思いますけど。
 一応そのことをご了承の上、お読みください。

ストーリー

 厄災ガノンによって世界は大きな被害を受けたが、ゼルダ姫の力によりかろうじてガノンの封印に成功し、同時に傷ついた勇者リンクを長い眠りにつかせることにより回復させる策をとった。
 そしてリンクが100年の時を経て復活するものの、記憶をなくしているところから物語は始まる。

 今回はイベントシーンを中心に音声が入ったことにより、主人公の名前はリンクに固定となっている。
 ゼル伝はイベントシーンでも効果音的な声を使い、セリフを読み上げることはしていなかったので、これも「ゼルダの当たり前を見直す」のひとつだろう。
 正直なところ、全音声対応(フルボイス)はほとんどのゲームの評価にマイナスだと思う。
 本作ではフルではなく使いどころが限定されているので、従来のシリーズのファンも、それほど気になることはないだろう。
 音声付きのイベントシーン自体が少ないし。

 100年前の厄災による被害が各地に廃墟や残骸として残っているのが、自然の中のアクセントとして有効に機能しているし、歴史のある世界を感じさせる。
 従来のシリーズの建物を思わせる廃墟が各地に点在しているのも、ファンサービス的なものと同時にスタッフの「全てのゼル伝を過去にする」意気込みの表れに思える。

 物語はリンクが100年前の記憶を取り戻していくのをメインに展開していくため、現在であるプレイヤーの行動が物語に影響を与えないというのが上手い。
 このことにより、現在リンクは「やりたい放題、やらない放題」となるのだ。

 現在の物語は、いわゆるクエスト(本作ではチャレンジの名称)システムで行われ、これらの断片から現在の状況が確認できるが、前述のように本筋の物語は過去に終わっている上に記憶喪失状態なので、やるもやらないも自由だ。
 なお、記憶を取り戻さない状態でクリアも可能なので、物語は本当に「あってないようなもの」となっている。
 さらに言うなら本編クリア自体も、やらなきゃやらなくてもいい要素のひとつ、と割り切ってる感じだ。
 サーテックウィザードリィのワードナ撃破程度のイベント、と言えば分かる人には分かるかと思う。
 ただし、本編はもちろん、それ以外のチャレンジも面白いので、やらないつもりでいても、やってしまう魅力がある。

 また、チャレンジがチュートリアル的な役割を果たしていて、例えば、敵拠点を避けてプレイしていた人も、チャレンジに敵拠点の掃討があることによって、それが結構楽しい行為だということに気付かされ、その後もチャレンジと関係なく拠点の掃討をするようになる、みたいなことがある。
 漫然とプレイしていては気づかないようなことも、チャレンジとして提案されることにより新しい発見があり、プレイスタイルが変わっていく。
 一粒で二度美味しいどころではない。

 昼夜が入れ替わるし、天候も刻々と変化して行く。
 それに合わせて、雨が降っていると崖が滑って登りにくくなったり、雷が落ちてきたりとか、夜専用の敵や動物が出てきたりと、プレイヤーの行動に影響がある。
 と同時に、敵も含めて世界に暮らしているキャラの台詞や行動も変化している。
 それぞれのキャラごとに1日の行動や天候による行動が異なるので、つい1日誰かに張り付いて行動を観察したくなる。ムジュラや、ファルコム風の伝説ザナドゥのような住民ストーキングが楽しめるわけだ。

 近くを通るとキャラのセリフが漫画のフキダシ風に表示されるのが、話しかけるかけないの判断に役立つし、なんとなく聞こえてくる会話の雰囲気ある。
 ちなみに、近寄ればフキダシが出るシステムはスーパーマリオギャラクシーなんかで使われている。
 本作の場合、チャレンジが発生する(している)キャラのフキダシには(!)のアイコンが表示されるのも親切だし、[A]ボタンで話しかければ詳細の会話ができる。
 ただ、詳細の方のメッセージウィンドウが狭いのは気になった、今までのゼル伝は文字は大きいものの3行表示してたと思うんだけど本作は2行で表示内容が少なく、ボタンをせわしなく押さねばならない。全体の解像度も上がっているので行が減ったぶん画面がスカスカした印象もあるし、2行にした意味が分からない。
 本作の数少ないダメポイントのひとつかと思う。
 音声付きのイベントシーン以外では、会話中に視点変更ができるのは嬉しい。メッセージ表示中の手持ち無沙汰感がかなり軽減されるし、次の移動の準備が会話中にできる。

グラフィック

 前作のスカウォを、ゼル伝のベストグラフィックと評した。
 開発者側もその思いはあったようで、本作も、写実的というより絵画的な背景にトゥーン(アニメ)に近いキャラクタを乗せるという手法を採用している。
 風タクのHD化を行なったことにより、セルアニメ的な世界に精緻なライティングを導入すると、すごい存在感が生まれるという発見があった(とインタビューにある)ので、特に敵キャラクタは風タクに近い雰囲気となっている。
 背景は後述するように、物理法則を利用した仕掛けを中心にしたシステムに合わせ、絵画的と言っても写実よりなテイストとなっている。
 全体としては平坦な質感に精緻なライティングのキャラに写実よりの背景という、ウォレスとグルミットのようなクレイアニメっぽい雰囲気の独特な仕上がりとなっている。

 従来のリアルな絵作りをしている(特に欧米の)ゲームは、欧米人が暗い部分に対する目の感度が高いこともあって、日本人にとっては「ただの黒い画面に何億円も突っ込んでる頭悪いゲーム」になっていることも珍しくなかった。
 また、実際の夜や暗がりは月明かり程度でもかなりクッキリと視認できる。これは周囲の光量に合わせて目と脳が視覚を調整するからだ。
 本作はこの「頭が感じる明るさ」で作られており、トワプリで失敗と断じたような暗すぎる画面作りはなく、スカウォ以上に夜でも映像は明るくクッキリしている。

 本作ではとにかくメインのマップが広く大量のデータが作られているが、実に自然な配置がなされ、山に登り、あるいは馬の背に揺られながら雄大な景観を眺めるだけでも楽しく、あっという間に時間が過ぎ去っていく。
 そして、かなり遠方からでも後述の祠や塔は赤く光って目立つように作られており、綺麗だなーと風景を眺めることがそのまま攻略へと繋がるようにできている。
 他にも、神獣などの巨大なものがフィールド上を移動しているのが、なんともいえない雄大さとファンタジックさを醸し出しており、世界が息づいている感覚が非常に強い。

 また、キャラの姿勢が地形に合わせて細かく変わり、椅子などの突起に乗せた側の足だけ膝を曲げたり、梯子なども掴める箇所をちゃんと掴む。
 一見ゲーム的にどうでもいいような部分だが、一枚絵としての完成度だけでは出ない、そういう細かい部分の積み重ねが世界のリアリティを作り出している。

操作

ジャンプボタンの導入

 本作では3Dゼル伝の伝統だったオートジャンプが廃止され、ジャンプボタンが導入された。
 頭のすぐ上にあるものを取るのに回りくどいことはしなくて良くなったし、地形も間隔にバリエーションが出せるようになったし、ジャンプのリスクが上がって高い位置での緊張感が出た。
 ある意味、普通のゲームになっただけではあるが、プレイヤーがやりたいことができる、のがコンセプトであろう本作にあった変更だ。

携帯モードでのプレイ

 開発中のバージョンでは、手元のコントローラの画面に地図を表示していたようだが、製品版では手元かTV画面かの2択になっている。
 2画面を活用できてないとも言えるが、そのおかげでWii UもSwitchも手元だけでもプレイでき、寝転びプレイも可能だ。
 Switchに至っては完全に持ち歩けて、どこでもプレイできるようになっている。
 ただでさえ中毒性が高いのに、やめどきが見つけられない。

洗練されたがんばりゲージ

 前作スカウォで導入されたがんばりゲージは、使い切った時の脱力状態の極端さなども改善され使いやすくなった。
 またダッシュ以外にパラセールや泳ぎ、ため攻撃などで消費されるほか、登山時の制限として有効に働いており、うまく途中で手を離せるポイントを見つけて休み、さらに高いところを目指すゲームとして単体で成立していて、登山が楽しい。
 今回リンクはスパイダーマン並みの登攀能力があり、どの峰も登頂ルートを工夫すれば初期状態でもどうにか登れる雰囲気。SCE蒼天の白き神の座 GREAT PEAK大好きボーイズ&ガールズも大満足だ。
 がんばりゲージ回復アイテムを併用すればどこだろうと無理矢理に登れるが、がんばりゲージを増加させることにより、ゆるく行動範囲を規定できており、そうと気づかせない目的地への誘導ともなっていて、実にこなれたシステムとなっている。

操作系の配置の荒さ

 ただ、スカウォのインタフェース周りが極めて高いレベルで結実していたのに比べ、本作は正直あんまり褒められないできとなっている。
 おしなべて操作性の高いゼル伝としては不思議なぐらい、全体の操作の統一感のなさや直感と異なる配置が多く、誤操作が頻発する。
 潜入中に間違えて口笛を吹いてしまった時は、「宮本! 青沼! ちょっとこっち来て座れ!!」という気分になったほどだ。

 Wii UとSwitchではコントローラのレイアウトに多少違いがあるためだったり、終盤までシステム変更があって操作系の調整が後回しになったのかもしれない。
 だとすれば、操作はベストな設定を提供するのでキー変更が(ほぼ)できないという「ゼルダの当たり前を見直し」て細かなキー設定機能をつけて欲しかった。
 特に本作はできることが多く組み合わせが複雑なので、ベストな設定をユーザに委ねてしまってもよかったのではないだろうか。

 とにかく美点の多い本作において、ほとんどすべてのプレイヤーが指摘するであろう問題点がボタン配置にあるのは間違いない。
 一応言っておくと、操作した後のリアクションなどの操作感は素晴らしく良いので、操作性が低くなっている原因は、ほぼボタン配置の問題に集約できる。

ゲームバランス

 これまでのゼル伝に限らずだが、ゲーム攻略本や攻略サイトで「コッコの飛翔力でこんなに行けちゃう!」とか「ボムジャンプで意外な足場に到達!」みたいなのが嬉々として書いてあり、プレイヤーもそういう「ちょっとした、ずるっこ」の部分を楽しんでいる。
 逆にある程度ゲームをやったプレイヤーなら、あれとあれを組み合わせればこうなるはず、と思って試したら全く反応しなかったとか、見た目は成功してるように見えるけど元の位置に強制的に戻された、みたいな理不尽な思いをした経験があると思う。
 本作では、従来のゲームだとバグとか裏技に分類されるような解法も全然制限されていないし、物理+化学エンジンを利用しているので、アクションにはほぼ必ずリアクションがある。
 本作の開発者の間では「それできちゃダメなの?」が合言葉だったんじゃないだろうか。
 ユーザが楽しめるなら、それはバグではなくて正解なんだということが徹底的に周知されたように思える。
 ナムコが以前取っていた「予期しない挙動も面白かったらバグじゃなく仕様」みたいな方針が社と時を超えて息づいている感がある。
 僕らはスーパーマリオブラザーズで画面の外を走るのが楽しかった、ということを思い出させてくれる。

序盤で主要能力が手に入る

 本作はゲーム開始直後に、物語を説明する大げさなムービーもなく、ほぼ裸で放り出される。
 この「始まりの台地」がチュートリアルステージとして非常に高い機能を有している。
 ここにはゲーム全体の要素が凝縮して詰め込まれており、この台地で主要能力を全て獲得でき、ザコ・大型・古代機械の一通りのパターンの敵に遭遇するし、宝箱やコログの実の隠しパターンも豊富にある。主要な要素で存在しないのは馬ぐらいかと思う。
 よくレベルデザインの例に上がるスーパーマリオブラザーズの1-1と同じく、ゲーム全体の要素を惜しみなく序盤に放り込んであるわけだ。
 全部気づかなくても、序盤に全部あることは強い。どれかに気づけばそれを軸にして力強くプレイを続けていけるからだ。
 特に目的を自主的に設定しないと途方にくれがちなオープンワールドに向いた調整だと言えるだろう。
 以前、宮本氏が「フックショットみたいな楽しいアイテム、最初から使わせてくれよ」みたいなことを青沼氏に提案した、みたいな記事を読んだ記憶があるが、それを本作は実現したと言え(フックショット自体はないが)、「ゼルダの当たり前を見直した」正しい転換と言えるだろう。

厳選され強力な特殊能力

 従来のゼル伝では特殊能力が使えるアイテムがダンジョンで手に入り、それを使ってボスを倒し、そのアイテム能力によってエリアが広がる、というのが定番だった。
 これは他のメトロイドシリーズなどでも使われる強力な手法であり魅力があるのだが、それを本作では捨てている。
 本作の主要特殊能力は5つと少ないが、序盤で全て手に入る。
 しかし、例えば爆弾はチャージ時間はあるものの無限に使用でき、リモコンで起爆でき、風に乗せて飛ばせるなど超強力だ。
 他の能力も、全てバランスブレイカーではないかと思われるほど強力である上に、工夫次第で様々な用途に使用できる。「これできるんじゃないか」と思った行為がほぼできるといっても過言ではないだろう。
 物理+化学エンジンにより、動作ごとに特殊な処理をすることなく、シミュレートによって挙動が決定されているからできることだ。

 ジョジョの奇妙な冒険とかハンター×ハンターなどの、いわゆる能力バトルもので、能力を意外な形で使って成功を収める、というのは定番の血がたぎるシチュエーションだ。それをプレイヤー自身が発見できるのが本作の醍醐味のひとつと言えるだろう。
 従来のゼル伝も自由度が高いゲームではあったが、様々な能力やアイテムは「新たなエリアへ到達するための鍵」の役割を抜け出せていなかったように思う。
 その「ゼルダの当たり前を見直す」ことができたのが、もしかしたら本作の一番の革新性かもしれない。

チャレンジをためらう必要のないリスクの低さ

 本作は特に序盤でよくゲームオーバーとなる、崖や塔から落ちる、溺れる・凍える・燃える、強力な攻撃で一撃死、囲まれてタコ殴りと、散々な目にあう。
 個人的にゲームオーバーのバリエーションが多いゲームは名作、と思っているので、この死にっぷりは序盤から嬉しくなった。

 死んでも、オートセーブによりなんのペナルティもなく直前の状態に戻る。エニックスドラゴンクエストの「経験値・持ち物に変化なし、所持金半分、復活地点に戻る」というのも相当のヌルい仕様で当時としては驚きだったが、本作はパソコンのツールで気軽にアンドゥできるようなレベルのリスクのなさだ。
 なんなら、無駄にアイテムを使いすぎたので死に戻りしてラッキー、ってことも珍しくない。
 さらに、手動セーブもでき、過去数回の任意のセーブ地点にロードして戻ることもできる。

 加えて常にワープ可能なので「死ぬと思ったらワープ」を使えば、ほとんど「死んでやり直そう」と思った時以外は死なないレベルの安全性だ。

 失敗すること自体が嫌だということと、再開までの読み込み時間が面倒、程度のペナルティしかない。
 この仕様のおかげで、死亡率は高くても難易度は低い。不安なくチャレンジしては死ぬことができるバランスになっている。
 本作は様々なことに挑戦することが楽しい作りになっているので、これらの仕様は大正解と言えるだろう。

採取・狩猟は気軽な最小単位のゲーム

 フィールドでは虫や果物などの動植物は、周囲のかなり広い範囲のものを、道具を使わず一瞬で獲得できる。
 獣も攻撃して倒せば一瞬で肉に変わる。
 撒き餌をするなど、手持ちの道具で様々な採取・狩猟の工夫ができるので、虫取り網や釣竿といった従来存在したアイテムを廃止したのは、複雑化を防ぐ英断だったと思う。
 [A]ボタン一発で入手できるおかげで、何かのついでに気軽に採取が可能で、プチプチシートを潰すのが楽しいのと近い、最小単位のゲームとして採取が成立している。
 個人的には「早く虫取り網欲しいなー」と最初の数時間は虫取りしていなかったので、「ゼルダの当たり前」はプレイヤーにも相当深く根付いてるなと実感。

 最初は背景エフェクトの一種かと思っていたほど豊富に出現することもあり、移動を中心としたあらゆる隙間時間に採取ゲームが入り込んでいる。
「なんかやめようと思ってから知らんうちに3時間ぐらい過ぎてた」の最初の一歩を誘引する要素であり、とにかく簡単なことをやるとやる気が出てきて、もっと難しいことも容易にこなせるようになる、という仕事ハック的なサイクルができている。

 材料がある方向をある程度知らせてくれる機能も後で追加できるので、リンクのワイルドライフは充実するばかりだ。
 そして恐ろしいことに、写し絵(カメラ)機能がのちに追加され、狩猟の別形態とも言える写真図鑑作成も始められるようになる。
 隙間時間を埋める方法が充実しまくりだ。
 ちなみに、風タクのカメラと違ってソフト的なフィギュアと交換できないのは残念。しかし、アミーボという実際のフィギュアが売られているので、任天堂の商売的に不要ともいえる。

アイテムでブーストされる能力

 採取した材料を使って料理や薬を作れる。前述の通り材料が気軽に手に入るので料理も気軽だ。
 できたものは割とたくさん持ち歩ける上に、攻撃力増加した上に体力回復とかの効果を持つものがホイホイ作れる。
 そして作った料理はいつでも一瞬で消費できる、故にアクションが下手くそでもドーピングしながら戦っていけば、多少面倒だが勝率は簡単に上がる。

 これまでのゼル伝ではビンの数で制限され貴重だった妖精が、ビンが廃止されて5匹ぐらい簡単に捕まえられる。
 妖精は体力が0になった時に自動回復してくれる。この手のアイテムはゼル伝に限らず、大抵のゲームでも貴重なものであるが、本作では簡単にたくさん手に入る。
 これも「ゼルダの当たり前」のうち「できちゃダメなの」という疑問が呈されたもののひとつかと思う。

 結論としては、ゲームの上手い人はそんなちまちま回復アイテムを用意しないし、不安に思って折角作ったり集めたりしたものなんだから使わせてあげましょうよ、ということだったわけだ。
 なかなか、こういう決断をゲーム製作者はできない。ほとんど反射的に「そんなんつまんないだろ」って判断しちゃうかと思う。
 本作では回復に限らず、ギリギリの戦闘や謎解きのバランスに楽しさを見出すより、やりたいのにできないことの方がつまんない、という判断がいろいろなところでなされていることを感じる。

添乗員キャラの不在

 時オカ以来、ずっと相棒的なキャラが道中の説明をしてくれるのが定番となっていたが、本作では一緒に冒険する相棒は存在しない。
 一応、ゼルダ姫が最初とボス戦で声をかけてくるのと、序盤に王から依頼とアドバイスがなされる他、基本的には放置される。
 キャラが付いてきて、あれしろこれしろと直接的に誘導せずに、住民のセリフや地形などで気になった場所に行くとメインシナリオが進む、という感じに自然に誘導しているのだ。
 ただ、ボス戦の姫さまアドバイスは少々過剰で「そんなこと分かってるよ」と言いたくなる。
 しかしよく考えると、普段放っておいてくれるゼルダ姫は心広いし、ボス戦で張り切って応援しちゃうの(本人は必死かもしれないけど)可愛い。

 また、オープンワールドでおなじみのチャレンジのマーカーも、多くはゴールポイントではなく、スタートポイントを表示している。
 このことにより「地図上のゴールマーカーを見ては、そこに突進して行く」という単調なプレイにならないようにできている。

なんでもできると思わせる調整

 なんでもできると評判の本作だ。
 しかし、スカウォにあったどの椅子でも座れるという仕様が地味に好きだったんだが、本作では椅子に座るモーションはない。
 這う動作がないのも残念だし、伝統の前転がないのもリンクっぽくない。泳げるけど潜れない。
 素材を組み合わせて武器を作る錬成要素が限定的で、カスタマイズ要素が着色程度で少ない。
 味方設定されているキャラには攻撃してもダメージが加わらない。
 やれることが増えすぎてプレイ疲れが発生してしまいそうなこれらの要素を、丁寧に排除してあるのは大事なことだ。

 できる要素が多いことが大切なのではない「こうすれば何か起きるんじゃないか、と試した時に実際何か起きる」ことが大事なのだ。
 そこが守られていれば、要素は少なくてもなんでもできると思わされる。
 そして、本当になんでもできると、別にやりたくもないことを試すことに疲れてプレイが色褪せてしまうのだ。
 本作はそのできることとできないことの取捨選択が、実にこなれている。

マップ

塔と祠

 塔に登り切ったり、祠の謎を解いたりすると、前述の赤い光が青い光に変わる。
 そこには風の谷のナウシカに登場する王蟲の目を思い出す…までもなく、信号機の危険色から安全色への移行がある。
 極めてわかりやすく、世界を踏破し見知った場所に変わって来たことが表現されていて、世界を青くしてやろう! という気持ちになる。

 また、塔に登るとそのエリアのマップが解放され、メニューから選べるマップの黒かった部分に詳細な地図が現れる。
 これらの仕組みはメトロイドプライムのスキャン・マップステーションと似た感じだ。

マーカー

 マップには現在位置が表示されるほか、祠と塔の位置も自動的に表示されるので、征服度合いを直感的に把握できる。
 またマップは街道はもちろん等高線もある、かなり詳細なものなので、開放すると安心感が強くあり、他のエリアも開放したいと思わせる。
 詳細なので、祠やコログの位置などをある程度目星をつけることができたりもする。
 そういう箇所に自分でマーキングもできる。このマーカーはプレイヤーが自主的につけたものなので、前述のゴールマーカーと異なり、やる気満々で向かえる。
 世界の形がわかっちゃうと興味が失せる気もするが、2次元のマップなので真上からは分からない地形もあって、一筋縄ではいかないように作られている。
 思わず半笑いで「くそっ、上手いな!」と呟いてしまった。

戦闘

明快な弱点のある敵

 本作は体力(ハート)などの成長要素があるとはいえ、アクションゲームなので、プレイヤーの腕前がキャラの強さに直結する面がある。
 となると、アクションが下手な人はいつまでたっても強くなった気がしない、という嫌な状況のまま体力でゴリ押し、みたいなことになってしまいがちだ。
 しかし本作の敵には、気づいてしまえばあからさますぎるほどの弱点が存在し、その知識さえあればアクションが下手でも確実に強くなれる。

ほとんど無敵の盾

 シリーズを重ねるごとに、盾の能力が高まりまくっている気がするが、本作ではほとんど極まった感すらある。
 盾を構えた状態で攻撃を受けた瞬間に[A]ボタンを押すと、おそらく全攻撃を無効化できる。カプコンストリートファイターⅢで言う所のブロッキングみたいな感じだ。
 これがリズムゲーム的な面白さがあり、これもまた最小単位でのゲームとなっている。

 また飛び道具に至っては、打ち返すことにより敵にダメージをそのまま返すことができる。
 あまりに強すぎる感じだが、タイミング合わせの難しい攻撃があったり、複数の攻撃には対応できなかったりする。
 逆にタイミングを覚えたり、敵に囲まれないような攻略順を発見すれば、一挙に戦闘の難易度が下がる要素でもある。

バレットタイム

 空中で弓を構えると、映画マトリックスでおなじみのバレットタイム(スローモーション)が発動する。
 弓矢を動いている対象に当てるのは難しいので、この仕組みはすごく嬉しい。
 特に弱点に打ち込むと効果絶大なので、狙い撃ち(エイム)が下手なプレイヤーにも勇者感を担保してくれる。
 個人的には敵の直前に馬で走り込んでから飛び上がって打ち込むの、カッコいい自分のプレイに酔う。そしてその場に残った馬が別の敵の襲撃に遭って「ああっ!」ってなる(笑)

 盾の弾きと近い能力で、注目している敵からの近接攻撃をタイミングよく左右か後ろにジャンプして避けると、ラッシュが発生して攻撃を無効化すると同時に一方的に攻撃を与えられる。
 発生した瞬間からスローモーションになり、攻撃する武器を切り替える余裕が生まれるのも気が利いていて、近接戦闘では盾以上に頼りになる。
 弓やラッシュ時に発生するスローモーション、ゲームだとセガベヨネッタのウィッチタイムが近い感じか。

プレイヤーに溜まる経験値

 以上のように、気付いたり慣れたりすれば、ほとんど誰でも明らかに強くなる。いわゆる覚えゲー的な要素が豊富だ。
 前述のオートセーブとともに緊張感を削ぐ仕様にも思えるが、よく考えれば敵の弱点を知ることによって自分が強くなっているんだから緊張感がなくなるのは当たり前で、RPGのレベルアップってこういうことだったんだ、とすら思えてくる。
 ドラクエなどのRPGで終盤までスライムに緊張感を持っているのが正しいのか、と言われるとそれは否だろう。
 人が強くなるというのは、単に自身の身体能力が高くなるだけではないのだ、対処法を知ることこそが強くなるということなのだ、と当たり前のことに気づかされる。

 とはいえ、緊張感がなくなればプレイは作業的になってしまうという欠点もある。
 しかし、戦闘の他にやることがたんまりあるので、道中の邪魔になる敵にいちいち緊張感持たなくてよくなる、というのはプレイヤーにとってメリットしかない。
 敵が採取・狩猟対象に変化すると言ってもいいかもしれない。以前とは別ゲームになるが、それはそれで面白い。

 そもそも、ほとんどの敵は、発見しても排除して進む必要はなく、ちょっと大回りするとか、ダッシュや馬で駆け抜けるだけで容易に回避できる。
 戦うのが嫌なら戦わなくても、山を登ったり謎を解いたり虫や草を採ったりして楽しむことができるのだ。

その他強化される能力

 知識で強くなるのに加え、戦闘能力に限らず色々と強化される。

 まず4神獣を倒すと得られる加護が極めて強力。

  • どうしてもタイミングを合わせられない人向け(と思う)、オートかつ全方位で発動する盾弾き。
  • 広範囲の敵に大ダメージを与える雷撃。
  • その場で急上昇できる上昇気流。
  • 体力0になると最大値を超えての自動回復。

 回数とチャージ時間の制限があるものの、「こんな便利なのもらっていいの?」と聞き返したくなるぐらいの高性能だ。

 特殊能力も強化されるが、特にビタロック+とか、1対1ならありえないほど敵が弱くなる。
 滝登りを可能にするゾーラの服もかなりすごい性能だ。

 いいのこれ、もう別ゲームになっちゃうじゃない、という性能を持った強化が複数存在して、手に入れた時点から本当に別ゲームが始まってしまう。
 いくつもの別のゲームやってるんだから飽きるわけないじゃない! という恐ろしい仕掛けだ。
 同時に、プレイヤーが培ったテクニックが能力を強化したところでご破算になるんだから、せっかく楽しかったゲームがつまらなくなる可能性だってあるのに、製作者はなんて強気なんだろうと感心する。

試すのを促進させる破壊要素

 武器と盾と弓は耐久値が付いていて、ある程度使うと壊れる。
 こういう仕様は大抵、リアリティはあるがゲーム的には単に面倒臭いだけになっていることが多い。
 本作でもそのような要素はあるが、武器がどんどん手に入るので使っていかないと損と感じる調整になっている。
 それに、様々な種類の武器を使う理由にもなっていて、面白さに貢献している。

 武器が壊れない仕様だと、お気に入りの武器を手に入れたら、それ以外を使わなくなってしまいプレイが単調化する危険もある。
 壊れる仕様でなかったら、個人的にはブーメランはほとんど使わなかったと思う。
 なお、壊れる武器・防具は売ることもできないので、もう使うかしかない。

 基本は、敵が持ってる武器って使いたくならない? → 確かに敵の武器見て襲撃するか決めたりするの楽しそう → でも武器余っちゃうね → 壊れるようにしよう!
 みたいな発想な気がするし、確かにうちのリンクは「あいついいブツ持ってやがるな」という完全に悪党の思考になっていて楽しい。

 一応、壊れた時の攻撃はクリティカルになるボーナスはつく。
 それを含めても、面倒臭さや勿体無さを完全に払拭するほどでもないので、壊すと熟練度みたいなものが上がるなど、積極的に壊すことを促すシステムがあってもよかったかもしれない。
 と言っても下手すると、スクウェアファイナルファンタジーⅡみたいに、一見意味不明な攻撃を繰り返すゲームになっちゃうので、迂闊なことはできないが。

アクション豊富な敵キャラ

 敵の種類はこの規模のゲームとしては、かなり少ないと言える。
 盾が重要なゼル伝にもかかわらず「盾食う虫も好き好き」でおなじみのライクライクもいない(…よね)。
 しかし、敵キャラクタも住人と同様に起きて寝てのサイクルがあるし、狩猟していたり、旅人を襲っていたり、踊っていたりと、豊富な行動パターンが用意されている。
 そして、集団の構成のバリエーションも多く、装備も個々に異なり、敵の種類が貧弱という感じはしない。

謎解き

試練の祠

 本作では従来のゼル伝にあったようなダンジョンはない。
 世界に点在する(ほこら)にはアイディア一発で解ける謎が用意されていて、それをクリアすると克服の(あかし)が手に入る。
 証を4つ集めるとハートの器か、がんばりの器に交換するかを選択できるので、プレイスタイル(戦闘か探索か)を選べる。
 本作でなくなった「ハートのかけら」はハートの増加だけなので、克服の証はより気が利いたアイテムだ。
 祠はその内部で完結したミニゲームなので、どの祠からクリアしてもいいし、しなくてもいいのも気軽でいい。
 前述のように、謎は複数の解法でクリアでき、かなりの力や技押しでクリアできることも多い。知恵の輪をペンチで曲げて抜くことも正解、としていると言えば伝わるだろうか。

フィールドの豊穣なゲーム密度

 祠以外でも、4体の巨大な神獣内部とハイラル城も割と短め。
 そうなるとフィールドが主な活動場所となるわけだが、広大なフィールドのもつ反応密度が半端ない。

 最初はだだっ広いところに敵の拠点があるぐらいにしか見えてなかった画面が、ゲームのプレイが進むと、虫や小動物・魚・果物・野草の採取ポイント、獣や鳥の狩り場、野生馬の入手、薪作り、採掘ポイント、登攀ルートなどの豊かな情報に溢れていることがわかってくる。

 その密度が高いマップが果てしなく続く上に、(しつこく繰り返すが)マップを踏破してもいいししなくてもいい。
 心地よい。

コログの実

 コログの実という、武器防具の所持制限となるポーチの個数を増やせるアイテムがある。
 山頂などいってみたくなる場所にほぼ確実に、コログの実の出現場所があるのが行き届いた配慮だ。
 桃太郎伝説シリーズのゲームデザイナーさくまあきら氏が口すっぱくいってた「行き止まりには必ず宝箱置け! プレイヤーに無駄な努力をさせるな!」の丁寧な実践例をここに見る。
 コログの出現場所は、いかにも人工的な並びで木や石などが配置されている。そもそものフィールドの作りが自然だから目立つ。
 最初は「なんだか怪しい場所だな」という程度の印象だが、ある時「はっ!」とやるべきことに気づく。この感覚がまさにゼル伝。
 怪しげポイントが大量にあるけど地図上にマーキングできるので、マーキングすれば一旦忘れちゃってもいいのが親切。

 なお、祠と宝箱、もう少し小さなものとしては採取・採掘ポイントも、そういう行き止まりまで来たことへの報酬的なものとして機能している。

 (推理)小説の作法に「登場人物の行動は必ず何か後に意味のある行動を書かねばならない、なぜなら読者は意味のない行動など読みたくないのだから」というのがある。
 ゲームの作法として換言すると「プレイヤーの行動は必ず報われねばならない、なぜならプレイヤーは報われない行動など取りたくはないのだから」となる。
 これはホント正しいと思う。

 特に昨今はスマホのゲームを中心に、とにかくプレイするとRPGの経験値的なものが溜まって、見返りにアイテムとか能力上昇効果などがある、というスタイルが定着している。
 そういう報酬があるのが当たり前だし、サイクルも短く、テンポよく報酬が与えられないと不満を感じてしまう傾向にあるように思う。
 自分自身がプレイヤーとしてそういう感覚にシフトしているのも感じる。
 そういう時代に合わせた調整がちゃんとなされていて、偉いなと感じる。

 他にも最近のゲームででは実績システム(アチーブメント)が存在することが多い。
 これは逆に本作では、クリアするまでは達成率などが表示されず、全体のボリュームを想像させない作りになっている。
 下手に達成率を表示すると達成率を上げることが義務化して、プレイヤーが疲弊してしまう危険がある。
 ボリュームの大きな本作では、プレイの義務化は楽しみから遠ざかる危険信号の際たるもので、これを避けたのは偉かった。

その他

ミニゲーム

 ゼル伝の伝統のミニゲームは本作でも健在。というか、パワーアップして搭載してある。
 ミニゲームだけ集めて1本のゲームとして発売しても成立するんじゃないか、という雰囲気がある。
 集めるとパイロットウィングスとかWii Sportsとか、そのくらいのボリュームがあって、もうミニじゃない。
 これらのゲームは、そのためだけに存在するルールが突然適用されるのではなく、本編との地続き感が半端ない。
 本編のマップがそのまま適用されるのは当然のレベルで、途中に敵は出てくるわ、特殊能力は使えるわ、本編と同様に工夫で全然別ゲームになるわで、怖い!! 任天堂怖い!! この人、他のメーカー殺す気だ!!! みたいなクオリティを、プレイヤーによっては発見すらしないような要素にぶっこんでくる。
 そもそも前述のコログの実集めや、採取・狩猟、登山、敵拠点襲撃などの要素がミニゲームとして成立している上にこれなのだ、隙がない。
 ただ、ミニゲームの面白さ自体はチュートリアル的なもの以上ではない感じで、手抜き感がある。

アミーボ(amiibo)

 本作はアミーボ(電子鍵つきフィギュア)に対応していて、タッチするとアイテムが出現するなどの特典がある。
 ゼルダ関連のアミーボは強力なアイテムが出現するほか、特にトワプリのウルフリンクは相棒として画面に登場する。
 …すごい欲しい。ウルフリンクに限らず、現在アミーボが高騰してるんで入手してません。
 手持ちのスプラトゥーンのアオリ・ホタルで試してみたところ、肉とか出てきました。キャラのアミーボで肉出てくるの怖いです任天堂さん。

ダウンロードコンテンツ

 本作では、ゼル伝としては初めてダウンロードコンテンツに対応している。
 まだ、本格的な対応はないのでなんとも言えないが、今年中は様々な展開を見せそうなので、期待したい。

 本作のゼルダ姫は、かなり動きやすい格好をしているので、最初にリンクかゼルダを選べるんだと思ってたんだけど、それはなかった。
 今後のダウンロードコンテンツに期待したいけど、ダメかなぁ…ルージュちゃんに「お姉様」とか言われたいなぁ…。

ちょっとだけ透明の壁

 自由にどこにでもいけるのが気持ちいい本作だが、マップ端だけは透明の壁が存在しているのが残念。
 突然出てくる、この先には行けません、というメッセージは自分でもびっくりするぐらい気持ちを萎えさせられた。
 できれば東西と南北がループしているマップにして、透明の壁を0にして欲しかった。

音楽

 音楽がピアノをメインに据えた、ゲームを邪魔しない音になっていて、これは絶賛したい。
 ピアノをメインに据えたゲームで印象的だったのは、ワープエネミー・ゼロあたりか。
 ゲームは必ずしも、重厚な音を常に流す、という方法が正解とは言えない、ということが再確認できた。

ネット関連

 昨今は、攻略サイトやゲーム実況動画で、あっという間にネタバレされて、ゲーム寿命が尽きてしまう、という危険が付いて回る。
 本作では物量でそれを押し切った、という感じだ。やること、やれることが大量にあるので簡単には調べきれないのと、それぞれのプレイヤーでやりたいことが違うので、それぞれのスタイルに合った情報を集めるのも簡単にはいかない。
 そして、クリアしなきゃいけない、という空気がゲーム内に希薄なので、攻略情報を読んで早くプレイし終わろう、という感覚が生まれづらくなっている。

 ただ、単純なクリアのための動画ではなく、面白プレイ動画のようなものは需要があるようで、他の人がどういうスタイルのプレイをしているかは、プレイスタイルの幅が広いゲームなだけに、現在かなり人気になっている。
 また、いわゆる速解き(RTA)も加熱していて、これも広いプレイスタイルのひとつとして受け入れられている感じだ。「うわすげー、俺はやらんけど」みたいな。

 ネットワークを介した対人要素、いわゆるソーシャルな機能は特にない。
 ゲーム好きにもソーシャル疲れ的な、コンピュータゲームでも人と関わるのめんどくさいみたいな空気があったので、ほとんど純粋な非ネットワークゲームである本作は「これがやりたかったんだよ」感を強く持った人が多かったかもしれない。
 逆に非ネットワークゲームなだけに「俺の発見したプレイを見てくれ」って気持ちも湧きやすい面もあるのか、前述のような面白プレイ動画は、ますます増えている感じだ。

 Wii UはMiiverse(任天堂ゲーム機専用のインターネットコミュニティ)機能があって、そこへの画面の投稿などできるが、Switchは対応していないので、少々寂しい…らしい。
 ほとんど差はないと書いたものの、ここは意外な機種間の違いだ。
 画像共有による口コミ効果は売れ行きを左右する可能性もあるし、今後改善される可能性もありそう。
 逆に、任天堂はいろいろなデータを持ってるので、Miiverseにあんまり良い効果はないのだと判断してSwitchでは削除した可能性が高いが。

類似と感じたゲーム

 いわゆるオープンワールドと言われるゲームの代表的な作品はやったことないので、割と近い雰囲気を感じたのは、どんな入手方法でもいいから動物を手に入れるNEC-HEリンダキューブとか、仕掛けに複数の解法が許容されているエインシャントトア精霊王紀伝あたりだ。
 Software Heavenダンジョンマスターで感じた、こんなこともできちゃうんだ!! って感覚も久しぶりに呼び起こされた。
 また、現実の地形を見てゲーム中のプレイを想起しまうのは、セガジェットセットラジオなんかも思い出す。
 …しかし、例えに出すゲームが古いな、温故知新っすよ温故知新。

もう一回 まとめ

 だいたい「シリーズの当たり前を見直す」みたいな標語は他のシリーズでもよく挙げられる。
 そのできは「まぁまぁ頑張ったんじゃない」か「そこ変えちゃったら○○じゃないだろ!」あたりに落ち着くのがパターンだ。
 しかし本作は、まるっきり変わっているのに、どう考えてもゼル伝。
 やはりそこにはもう一つの標語として「原点回帰」があったからだろう、個人的にはケバい大妖精が出てきて「これだよ!」と打ち震えた(笑)
 それぞれにゼル伝を感じるポイントはあると思うが、むしろ前から頭にあったゼル伝ってこのゲームだよ、という気持ちにすらなるゼル伝っぷりだ。

 もし同じ資金と人員・期間を用意されても作れると言い切れない、奇跡のような一作が本作だ。
 実際に本作を作った人たちだって、予想通りの反応が出てるわけじゃない。
 例えば「今回のゼルダ姫は人気出ると思うんですよね」って任天堂言ってましたけど、蓋を開けたら「ミファーちゃん一択だろ」「ミファーちゃんのアミーボはよ!」みたいな反応じゃないですか! いやゼルダ姫、眉太くて理系とか雪城ほのか(キュアホワイト)みたいで可愛いと思いますけど!!!
 僕はルージュちゃん、ぬいぐるみ付きバージョンが欲しいザラシ!

参考

 そこで結論。

プレイヤーを歓喜に製作者を絶望に陥れる、名作という言葉では足りない何かが生まれた!!

人類には本作を、Wii U版で遊ぶ自由か、Switch版で遊ぶ自由がある! 遊べ!!