アサシン クリード

対応機種・周辺機器
PS3・PS4・Windows(1人)
ジャンル
アクションアドベンチャー
著作・制作
(c)ユービーアイソフト

基本情報

 レイマンをはじめ、多くの傑作を作ってきたUbisoftの新作。
 UBIはフランスの会社だが、本作はスプリンターセルを作ったカナダのモントリオールスタジオの開発だ。
 サラディンとリチャードの二英雄王が激突していた十字軍時代のエルサレム周辺を舞台に暗殺者(アサシン)アルタイルとなって、ミッションをクリアせよ!

 本作はPlayStation 3、Xbox 360、Windows版が発売されている。
 ここではPS3版を元にレビューを行う。
 ちなみにベスト版の他、アサシン クリードⅠ+Ⅱ ウェルカムパックとして初期2作を収録したPS3・Xbox 360用ソフトが発売されていて、Ⅰがインストール必須である、などの違いはあるが基本的な内容は同じだ。

研ぎ澄まされたシステム

恐るべき割り切り

 本作をプレイして痺れる点は多いのだが、まず驚くのはその割り切りの大胆さだ。

 ゲームでありがちな、クラフトレベルアップスキルツリーみたいな「面白いけど、もうやった事あるよ!」要素が本作にはない、これは英断!
 そういういわゆるやり込み要素以前に、買い物、開ける、物を拾う、ブロック状のものを押す引く、スイッチのオンオフというアクションアドベンチャーなら必須と言っていい要素すらない…ウソだろ。思い切りが良すぎる。
 話しかけるアクションにしても、イベント開始のトリガとして仲間に話しかけることができるのみで、住民に話しかけて情報収集というRPGのスタイルは取っていない。
 アイテムはストーリーの進行によって支給されてパワーアップする3種類の武器のみ。
 絶対ゼルダの伝説にはしないぞ! という強い意思を感じる。カッコよすぎか!

 広大な都市空間を舞台にして、[開ける][話す]のアクションがあると、物量がすごいことになり制作側はもちろんプレイヤーも疲弊してしまう面がある。
 仮に自分が判断・決定できる立場にあって不要だと頭で理解しても「このゲームには[開ける][話す]はつけません」って宣言できるか自信ない「…箱は開けられるようにしましょうか」とかあっという間に妥協しそう。

リアルな登攀

 本作はパルクールやボルダリングのようなスポーツを取り込んだゲームで、建物を登り複雑な凹凸のある屋根の上を走り回る。

 ゲーム的にはRocksteady Studiosバットマン アーカム・アサイラムなどのようにグラップリング装置で上昇する手もあったろうし、そちらの方がテンポも良かったろう。
 アルタイルは肉体ひとつ、トゥームレイダーのララ・クロフトを凌駕する登坂能力で「わっしわっし」と壁を登っていく。
 登攀に体力制限もないので登り放題だ。

 何もない部分を掴んで登ってるけど気にしないというゲームも多い中、本作はしっかり壁の突起を掴み足をかけて登る。
 ハシゴ、窓枠、壁から出た丸太などなど、それぞれに対応した掴み方をする。

 本作は掴みパターンだけでなく登攀モーションの作り込みが半端ない。自分で動かしているキャラなのに、そのアクションに息を飲む瞬間がある。
 例えばプロスポーツ選手のストレッチを、鍛えられた肉体がスムースに動作するのが格好良くってずっと見てしまう、そんな感覚。
 この壁に張り付いてからの動きが、基本的に左スティック一本で自然に行える。あまりに自然なので、一瞬「アルタイル生きてる?」って感じるくらいだ。

 敵に見つからないように掴みのポイントを探しながら登るのは日本物産クレイジークライマー的で楽しい。
 しかし降りる方は時間がかかるだけで特に面白みはない。
 そこで本作には「イーグルダイブ」という、特定の箇所から飛び降りると安全確実かつ素早く地表の干し草の山に落下するシステムがある。
 これは「あーいきゃーんふらーい!」と叫びたくなる、バンジージャンプ的気持ち良さだ。

マップ

 高所(ビューポイント)に登ると周辺の詳細マップが解放されるシステムが採用されていて、これはもう発明!
 まず、遠くからでも目標物(ランドマーク)としてわかりやすい。
 そして、高いところから見渡すと周囲の地理が把握できる、というのが感覚的に納得できる。
 足場や敵から見つからない角度を探して登るアクションが、ミニゲームとして成立している。
 あまりに素晴らしいシステムなので、ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドなど他社のゲームでも採用されスタンダードとなっている。

 ただ詳細マップ表示に、デフォルトのズームが引きすぎ、モノトーンにこだわりすぎなど問題が多い。
 カーソルが合っている建物の名前ぐらい出してくれても良いと思う。建物の名前を口頭で説明されても、どこだか分からない。
 これがミッションの難易度、というより不快度を上げている。

 通常画面には方角と近くのイベント発生場所を表示するレーダーが置かれ、ミニマップは出ない。
 ミニマップばかり見てメイン画面を見ないプレイを懸念してのことかと思う。
 本作は三次元的な空間が舞台なので、素直に周囲の建物を描いた2Dミニマップを出してよかったと思う。

 メインの街の作りは、意外な登り方や建物間の渡り方ができるようになっていたりして、なかなか奥が深い。
 また、かなり広い場所をローディングなしで動き回れるのは凄いし、かといってモデルが荒いわけでなくリアルに作られている。
 ただ 砂漠の街の風景はモノトーンに近く、美しくはあるもののメリハリに欠ける面はある。

人混みに紛れる暗殺者

 同じ隠密行動(ステルス)がテーマのコナミメタルギア・ソリッドのような敵の視界に入らない隠れ方ではなく、雑踏に紛れるのが主体なので、プレイ感がかなり異なる。
 神学者というプレイヤーと似た服を着た集団と一緒に行動する、ベンチに腰掛けて一般人のふりをする、というのが主な隠れ方。
 人ではなく物に隠れるには、屋上庭園という電話ボックス的な場所と、前述の干し草の中が用意されている。
 ちょっと納得いかないのは、敵の視界からずっと外れていても警戒が解けないのに、上記の隠れ方をすると即警戒が解かれること。
 視界から逃れてしばらくすれば警戒解いて諦めるメタルギア方式も採用して欲しかった。

 多くのフレーバー的情報は、日本語音声の街頭演説から仕入れられる。
 フツーに移動していると聞こえてくるので、通して聞きたいなら近くで立ち止まるだけでいい…リアル!
 他にもミッションとして会話を盗み聞きするものがあり、スパイっぽい!
 諜報活動は気さくに市民と交流した方が良い情報が得られるんだろうが、それだと「なりきりゲーム」的には面白くないのだ。

 他にも、単独で神学者のふりをする[祈る]とか、邪魔な通行人を[押す]、さらに通行人を突き飛ばす[タックル]など雑踏に上手く対処するアクションが用意されている。
 [開く]を用意しない代わりに、ゲームの芯となる遊びには多くのアクションを用意する。完全に分かってる!

戦闘

 アサシンが主役と聞いて、影のように近づいてターゲットを暗殺し誰にも気付かれず風のように消える、というプレイを想像する人も多いと思う。
 本作は暗殺までは静かに可能だが、その後は必ず一波乱ある作りになっている。

 UBIはプリンス・オブ・ペルシャ 時間の砂を制作しており中東剣劇には自信があるだろうし、当然多くのプレイヤーも派手な剣劇を期待しただろう。
 暗殺者といっても、007ばりに出てくる敵をバンバン倒す方がエンターテイメント的には正しい。
 だって剣持ってんだよ、チャンバラしたいでしょ!

 ゲームに実装されたのはプリンス・オブ・ペルシャっぽい、押したり引いたりしつつ剣を打ち付けていくスタイルの戦闘だ。
 使い勝手がいいのは以下の3つの技。

  • 隠密行動からの暗殺(アサッシネイション)は一撃必殺。
  • 遠距離からの投げナイフは、重装備の相手でなければこれも一撃必殺。
  • 乱戦時のカウンターが決まれば一方的にダメージを与えて転倒させる上に、高い確率で一撃必殺。

 …バランス取る気ある? って感じの一撃必殺っぷりだが、対戦ゲームでもないのだから強い方が気分がいいでしょ! という割り切り。
 圧倒的にプレイヤー有利な調整であるものの、場面や特定の敵で適度に歯ごたえは残してある。

ミッション

  • 複数の兵士に絡まれている市民を救出する、戦闘。
  • ベンチに座って聞き耳をたてる、盗聴。
  • 指定人物を殴って情報を聞き出す、尋問。
  • 指定人物から情報の書かれた紙を盗む、スリ。
  • 時間内に指定された兵士全てを気付かれずに殺す、暗殺。
  • 時間内にマップに配置された旗を全て回収する、パルクール。

 以上の街に散らばる6種類のミッションをいくつかこなして情報を得て、最終的にターゲットの暗殺を行うまでが1サイクル。
 これが序盤で全種類登場し以降は繰り返し。それぞれ面白いが6種類は少ないし、場所と難易度が違っても同じことやってる感が強い。
 前述のようにプレイヤーが強いのでゴリ押しで進めることが多く、制限プレイするなどしてシチュエーションを作らないと、退屈で辛いゲームになるのは否定できない。

気が遠くなる調査と作り込み

 一般的なゲームでは「なんで西洋でおにぎり食ってんだよ」みたいなツッコミは誰でもできるのが普通で、むしろそういうカオスを楽しむのがゲームぐらいのところがある。
 しかし本作では建築・服飾・植生・その他の作り込みが凄まじく「あれ、これおかしくないかな」と思っても「いや、自分の知識が足りないんだろう」と思わせるぐらい隙がない。
 エルサレムなどの実在の都市名が出てくるだけでなく、教科書でみた事あるような建築物もある程度再現されていて、ゲームで中東観光ができてしまう。
 ゲーム内の建物はすべて本物をデジタイズして配置してます、と言われたら信じちゃいそうだ。
 多分、中東の各分野の専門家でも「ちょっと資料に当たってみないとウソだと断言できない」と言い出すレベル。
 例えば、セガ龍が如くのプレイ後に東京・大阪・沖縄などの風景を見て強烈なデジャブに陥ることがある。
 本作のプレイ後は中東の映像を見てデジャブを感じることになるのは間違いない。

 UBIはレッドスティールで日本を本気で作りこんだのに「ヘンテコで味がある」と日本人に言われて、ムキになったんだと思う(笑)
 でも、いいと思いますよ! そういう負けん気!!

 完全に同一のキャラもいるが兵士の装備には様々な差があり、ヘルメットだけ見てもバリエーション豊か。
 ただ、バケツヘルメットとサーコート!! おーまさに十字軍(クルセイダー)! と楽しめる人なら良いが、多くの人には兵士と兵士と兵士しかバリエーションがないように見える。
 これは、アスキーダービースタリオンの馬と馬と馬、SIEグランツーリスモの車と車と車、 バンプレストスーパーロボット大戦のロボとロボとロボ、メディアワークスシスター・プリンセスの妹と妹と妹、と似た感覚なので一概に悪いと言い切れない。
 ただ単体としての行動パターンは豊富だが、兵士ごとのバリエーションに乏しく、例えば重いチェインメイルをつけた兵士がプレイヤーと同じように屋根を追いかけてくるのは勘弁して欲しかった。

 ゲーム中に登場する人々は、プレイヤーの行動と関係なく各自が音声で喋っている。
 道ゆく兵士がドイツ語やフランス語を喋っていたりするのは、言葉の意味はわからないが、雰囲気すごいある。

システムと舞台の奇跡的融合(マリアージュ)

 以下、完全に妄想だが、そう外してないのではないかと思う。
 企画の初期段階は「ボルダリングやパルクールみたいな肉体ひとつで障害物のあるコースを駆け抜けるゲーム」だった。
 その面白さを出すための様々な要求を満たすため、舞台や設定が選ばれた。

中東の街並み

 まず舞台は中東エルサレム。

  • 屋上はビルなら平たいけど高すぎるし… → 中東なら民家の屋上は平たく、数階程度の高さで適度に凸凹だが十分人力で登れる!
  • 登るときに掴む場所が必要 → 中東の建物なら木の梁が突き出してて掴みやすい、出窓やバルコニーも多い、屋上が日常空間だからハシゴも多い!
  • 壁と屋根ばかり見る事にならないか? → 中東なら中庭のある建物は多いし、アーケードもある!
  • 家の中に入るのに扉開けたりしてたらテンポ悪い → 砂漠の町なら開放的だ、戦争の後なら壁が壊れてても不自然じゃない!
  • 広い空間を移動できるようにするが、ある程度制限は欲しい → 中東の城塞都市なら城壁で区切れる!
  • 追いかけっこをするから迷路みたいな路地が欲しい → 中東の街ならまさに迷路だし、バザーもあるから映画でよく見る店の品物ぶっ壊して逃走とかできる!
  • 空間が広いからランドマークが欲しい → エルサレムは三宗教の聖地、教会、モスク、シナゴーグがあり、何より街中に塔(ミナレット)が点在する!
  • そもそも、そんな屋根の上走ったりする人物っていな… → 中東には「アサシンがいる!!」

 任天堂の宮本茂さんの名言「アイディアとはひとつで複数の問題を解決するもの」というのがあるが、舞台を中東にしたことにより雪崩を打って問題が解決している。
 これだけ見事だと、舞台を中東に定めた時の開発現場の興奮は相当なものだったろう。

エルサレム・・アサシン

 中東が舞台として選ばれたことにより、ドミノ式にアサシンというキャラが選択された、そして時代として選ばれたのが

  • ユーザが興味持ってくれる? → は十字軍の獅子心王リチャードとイスラムの大英雄サラディンが激突していた時期、言わば西洋世界の関ヶ原、熱いぜ!
  • 敵のバリエーションが欲しい → 十字軍なら現代での独仏英伊の混成軍だ!
  • イスラム勢力も敵のバリエーションに使いたい → アサシンなら国に属してなくてもおかしくない!
  • 街ごとに特色でる? → はちょうど各都市が別の勢力に統治されていた時期!
  • 暗殺者が必要? → は一時休戦状態、こういう時に暗躍するのがアサシンだ!
  • 歴史を動かすような物語ができる? → 個人の行動でも歴史は動く「そう、アサシンならね!!」

 エルサレム・・アサシンの組み合わせってアサシン クリードのために生まれた舞台なんじゃないか? という因果の逆転を感じる都合の良さである。

VR空間アニムス

 もうひとつ重要な設定がある。
 ゲームの舞台は、アルタイルの子孫のDNAの記憶から再生されたVR空間(アニムス)であるということだ。
 SF的設定は余計なものに感じる人もいるかと思うが、この設定が入っていることで様々なシステム的問題を解決できている。

  • どうしてもマップに透明の壁ができてしまう → 記憶に残ってないってことにすればいい!
  • 進行に応じて行ける場所を制限したいけど → 記憶のロックを順に解除する必要があるってことにしよう!
  • 体力やペナルティなどゲージが増えると一目で把握できない → 過去の記憶とのシンクロ度ってことにすればゲージ1本で済むし、体力そのものではないから短期間で増えるのも納得!
  • 昔の時代を舞台にしてるのにゲーム的なログやメモは変じゃない? → VR空間ですから!
  • リトライとか前にプレイした箇所のリプレイとか変だよね → ロックが解けた記憶の再生箇所は自由で当然!
  • いくらゲーム中でも殺人は気がひける → VRというクッションつけてるから、もう罪悪感はないよ!

 上記のことから間違いなく、アニムスは物語的要請からではなく、ゲームシステムに必然性を与えるために導入された設定だ。

舞台にゲームをなじませる

 VR空間であるとはいえ、あまりゲーム的な記号が画面に出てくると興ざめだ。
 その辺りは自然に背景の中に記号を溶け込ませてある。

  • 登る場所に目安が欲しい → 中東だし鮮やかな絨毯を置こう!
  • イーグルダイブポイント → ハトの群れとついでにフンも置いとこう!
  • ビューポイント → 高い建物ってだけでも分かるけど、念のためそばにタカを置こう!
  • 登攀箇所 → 登れるのは人工物だけにしておけばメリハリがつくぞ!

 前述のステルス箇所も、凡百のゲームならステルスマークとか付けちゃうところだが、白い服の集団、ベンチ、屋上庭園、干し草とあからさまなマークを使わずに表現している。
 このため、背景や群衆はゲームと融合した「触れる絵」となっている。

悪いところ色々

 基本は素晴らしく良くできているが、結構荒削りな部分も多く、以下細々としたところをまとめて指摘しておく。

 UIはよく整理されていて快適だが、いくつか問題もある。
 例えば、メニューでは基本 L2、R2を使わないのだが、詳細マップでのマーク変更はなぜかL2、R2を使う。
 ほとんどの場合空いてるんだから、L1・L2、R1・R2は同じ機能を割り当てといて欲しかった。

 カットシーンが飛ばせないのは酷い。ミッション冒頭のものすら飛ばせないのは再プレイしたくなくなるレベル。
 クリア後はオートセーブされた場所から再開されず、冒頭で延々と上司の説教聞かされるのもやる気を削ぐし、その後本拠を出て目的の場所まで自前で移動しなきゃいけない。
 いわゆるファストトラベル機能がないので辛い。いちおう都市間はメニュー選択で一気に移動できるのが救い。

 移動中、乞食とキチガイと酔っ払いがまとわりついてくる。
 特に後半になると増えてくるし、兵士の暗殺ミッション遂行中は、とにかく邪魔。
 また彼らの声が雑踏の中で飛び抜けて大きく煩わしい。音量下げるとカットシーンの音まで小さくなるが、再プレイ時は音声を最低ぐらいにしてプレイしたほうが快適。

 アサシン教団の支部では、どの辺りを探ればいいかを教えてくれる。
 これが音声のみなので、どの場所や人物のこと言ってるんだか全然理解できない。

 ミッションをこなすと暗殺のヒントが得られるのだが、これがものすごく分かりづらい。
 その結果、暗殺終了してから「あっ、あのヒントの意味ってこういうことだったのか」と気づく有様。

 直前に無残に人を殺すなどして「暗殺されるべき人物」ということが強調されるのが「ハイこんな悪人ですから殺しちゃいましょー!」みたいに、わざとらしく乗せられてるよーな居心地の悪さ。
 そして暗殺が成功すると、暗殺対象が死ぬ前に長々と秘密を語る。
 暗殺を上司に報告すると成功を褒められ、アルタイルが疑問を呈し、上司が反論と説教をして次の暗殺を指示、以下繰り返し。
 このように物語の提示方法は、突然出てきたキャラがよくわからない用語をバンバン出して長々と語るという、最悪の部類に入る下手くそさ。

 本作には、あからさまなやり込み要素がふたつある。
 ひとつは、マップ中にいるテンプル騎士に戦いを挑んで倒すこと。これは慣れないうちは適度に手強くて良いが、慣れとキャラの強化によりさほど強敵でもなくなる。
 もうひとつは、マップ中にある旗を回収すること。テンプル騎士と違って旗に重なれば即回収で特に面白みがない上に、5割ぐらいはなんでもない路地の隅っこにポンと置いてあるだけ…雑!
 しかも旗は大量にあって、旗見つけて嬉しいというより「うわ、回収するのめんどくせぇ」って感じになる。
 さらにテンプル騎士も旗も発見箇所が詳細マップなどで確認できないため、回収終盤は完全に苦行。
 旗は1/3に減らし、回収に少し技を使うようなところだけ設置して、回収箇所を詳細マップで確認できるようにすれば、かなり良い仕掛けだったろうに。

 オートセーブのみなので、今ひとつ使い勝手が良くない。
 屋上庭園やベンチをセーブポイントにして、任意でも保存させて欲しかった。

 舞台の都市それぞれに特徴があるとはいえ、雑にいえば全部「砂漠の都市」であり、少々バリエーションに欠ける。
 活動が常に昼間なのも、メリハリのなさを感じさせる一因だ。
 また暗殺対象が都市内にばかりいるのも良くない。半分ぐらいは都市の外にいてよかったかと思う。
 そこそこ凝った砦や野営地なども作ってあるので、やろうとしたけど時間が足りなかった可能性が高い。

 剣で仕掛けを切って積んである材木を落として攻撃、というシーンがあるが1回きり、そういう応用に乏しい。
 スリが文書の奪取の他にナイフの補給に使われることぐらいで、ほとんどは1アクション1機能。
 アクション自体は同じだが、兵士を暗殺すると近くの兵士が異常を察知して死体に寄ってくるので、その間に門などを通過する、という応用法がある。
 応用もそのくらいで打ち止め。「これできるんじゃないかな?」と思った行動の多くが空振りしてしまう。
 兵士以外の市民も無差別に殴りつけたり殺したりできるが、さほどゲーム的には面白くないし、むしろ邪魔な要素と感じる。

まとめ

 実際の発想はプリンス・オブ・ペルシャ 時間の砂作った時に使った資料いっぱいあるし、システム流用してなんか作れないかな、だったかもしれない。
 どちらにしろ、エルサレム・・アサシンの組み合わせはゲーム史に残るにふさわしいレベルでの幸せな融合であり、それを妨げないようにシステムを研ぎ澄ませたのは英断であった。

 ただし、作業感が強く薄味に感じやすいゲームに仕上がってしまったのも確かだ。
 例えるなら「新鮮ないい魚が手に入ったから刺身にしました!」ここまではいい…ただ「醤油も出して!」というところ。

 買い物やクラフトのようなマヨネーズでも美味しかったかもしれないが、マヨ味しかしないものになったろう。
 本作に必要だった醤油とは、任天堂メトロイドプライムのスキャンシステムや、コーエー真・三國無双の辞典だ。
 とにかく舞台の情報が「みなさんご存知」の体で流され、ほとんどゲーム中に出てこない。
 日本の一般的なプレイヤーは、十字軍やエルサレム王国、サラディンやヤッファがなんだかわからないままだろう。
 私もゲームとしての重要スポットである屋上庭園が、実際どうやって使われてるかわからないままだ。
 そういう情報がわかっていると、街やそこにある建築物、住民、兵士に意味がつき、街を歩くだけでも退屈しないだけの密度がある。

 新鮮ないい魚を腕のいい板前が刺身にしているのだ、醤油を自分で用意することさえできれば、抜群にうまい。
 それは自分で遊び方を見つけることだったり、十字軍時代のエルサレムの情報に詳しいことだったりする。
 ちなみに私はゲームが中盤に入ったぐらいで「これ前提知識ないとつまんないやつだ」と思ったので半年ほどかけて関連本を読み漁った。

参考

 そこで結論。

この刺身(ゲーム)は抜群だ! 醤油(前提知識)を持ってたらな !!