脱出王のゲームデザイン(2)

脱出王に組み込まれた要素を解説する

鳥かごの姫とか、たまに見るシチュエーションですね
と言っておいて、即脱出する王女さまであった

脱出王で加えたもの

 前回は、分析対象とした脱出ゲームとの絡みで脱出王のデザインを語った。
 今回は、脱出ゲーム要素以外に付け加えた、様々なフィーチャーについて語る。
 ただし、あとがきで語った部分は重複を避けた、合わせて読んでもらえれば幸い。

探し物

 アイテム、コマンド、元ネタ、パスワード、最短解法、様々なものを探せるようにした。

コマンド探し

 CUI入力であるため「コマンド探しの楽しさ」を特に意識して、面白いコマンドを用意するようにした。
 脱出に必要だったりヒントになったりするコマンドの他に、意外なコマンドに反応したりもする。
 このような意外なコマンドは「たぶん自分だけが見つけた!」という満足感・優越感を与える、CUI入力の極めて優れた仕掛けだ。

 クリアに必要なコマンドでも、微妙なニュアンスの違いでクリアできるかどうかが決まる場合も、幾つか用意した。
 例えば「ミル」ではなく「ミツメル」だと異性がドキッとするとか、そういう類いのものだ。
 クリア後「そうそう、こうでなくっちゃね!」と思ってもらえると幸い。ニュアンスの違いの共有ができず、ハズした時が危険だが…。

 長い間悪者にされてきたコマンド(単語)探しだが、ここで高らかに宣言したい。
「コマンド探しは楽しい!!!」

 ただ、コマンド探しが面倒だという側面が無くなるわけではないので、入力可能なコマンドをカタカナで表記するという事でヒントを出し、バランスをとった。

コンプリート要素

 リリース当初は部屋番号を付けていなかったが、パスワードのネタバレをしないように攻略の話題をすることが困難ということに気づき付けた。
 付け焼き刃的な対策だったが、番号をチェックしていくと「穴空き」ができるため「集める楽しみ」で述べたコンプリート要素を意識させるということに気づき、その後は積極的に渇望感を与えるように調整する。
 最後の脱出王検定でも、その力を発揮することにもなる。最初に設定した検定は、マップがドット絵になっていて、その図形を答える、というものだった。色んな意味、難度高過ぎるよな。いやー、危なかった。

 当初は「ルートマップを埋める」という形だけだったコンプリート要素が、部屋番号を付けることて、多層的なコンプリート要素として成立したわけだ。
 最終的には脱出王の部屋番号は、「2D対戦格闘ゲーム」の必殺技キャンセルぐらいに大切な要素となった。

要素をばらまく

 例えば、部屋が21+αということで気づかれた方もいるかと思うが、これはタロットのイメージ。番号と大アルカナの対応を見てみると、なるほどと思う部屋もあれば、そうでない部屋もある。最初は部屋番号を付けてなかったので、分かりにくかった仕掛けだ。
 こういう、分かる人だけ分かる探し物を何重にも仕掛けたので、プレイヤーによってずいぶん脱出王から得た印象は異なっている筈だ。

 また、色々仕掛けておけばプレイヤーが「勝手に深読み」してくれて、「おおっなんて奥深いゲームだ」と思ってくれることも期待できる。
 組み込んだ自分もどんなの入れたか忘れてしまっているので、どんなものを入れたか列挙はしないが、あとがきにあらかた書いているとは思う。

最短コマンド探し

 最短手を探すというのは、特にシミュレーションやパズルで盛んな遊びで、このあたりも意識して、驚くほど短い脱出法を用意したりして工夫した。
 フラグ立てなど気にせず、「知ってりゃいきなりクリア」できる(事が多い)のも、CUI入力の魅力だ。
 …でも今の所、この部分の探索は、あまり盛り上がっていないようだ。これは、予想が外れた。

複雑にしないために

 「複雑な物とは、複雑な物が一つあるのではない。簡単な物が複数あるに過ぎない」という言葉がある。
 つまり、複数の謎が並列にあると、簡単な謎でも途端に複雑になってしまう、ということである。

 とにかく、放っておくと複雑になってしまうのがゲームというものである。
 なにかつまんないなぁ、と思ってどんどん足していっちゃう傾向にあるのだ。
 旨味が欲しいとダシをとり、締まりがないと塩を足し、物足りないと具を加えているうちに、どういう料理か分からなくなってしまう。

 そこで、色々と方策を設け、複雑化しないよう、混乱しないように気をつけた。
 もちろんプレイヤーが混乱しないのが目的だが、制作者としての私が混乱しないためでもある。

分割

 まず、ほぼ1部屋1アイディアで作ることで、問題の絞り込みを行なった。
 難易度上昇の原因になる、「謎が同時に複数存在する」「ダミーがある」「ハマりがある」「その場の情報だけでなく、以前の情報が必要」などなどを、ほぼ払拭。
 1部屋の謎を増やすのではなく、部屋を増やしてボリュームを出した。
 区切りがはっきりしているので、やめ時も決めやすいかと思いきや、脱出のカタルシスを頻繁に味わえるため、もう1部屋、もう1部屋の、かっぱエビせん状態を作り出したんではないかと思う。

道具を少なく

 難易度上昇の原因に「道具の組み合わせ」がある。
 複数の道具から新たな道具を作り出す、とか、複数の道具を一緒に使う類いだ。
 最初に書いた「簡単が複数=複雑」の典型である。

 脱出王の場合、注目対象と動詞、名詞の組み合わせが最初からあるので、「道具の組み合わせ」まで存在すると、容易に難易度が上昇する。
 CUI入力の場合、恐ろしいことにアワセルとかの「組み合わせのための動詞」も探さなきゃいけないので脱出王では避けた。
 でも、面白い要素ではあるので、それを中心に据えれば、複雑になりすぎず面白いゲームとして成立するだろう。

引っ掛けない

 特に文章だけで表現されるIFは、ミスリード(勘違い)を誘発しやすい。
 プレイヤーは「叙述トリック」にもの凄く簡単に引っかかる。はっきり言って、引っかかりやすすぎるため、危険で使えない。簡単に「思考の永久ループ」に陥ってしまう。

 積極的な叙述トリックは使っていない、消極的なもの、つまり意図せずに叙述トリックになってしまったものはある。多少開き直って、それも謎さ!、という気持ちで臨んだ。
 文章の意味が解らなかったり、誤解させたりした部分は「そんな気はなかったんです」というのが本当の所。少々変でも、ゲームだから引っかけてるんだ、とプレイヤーが思ってくれるんで、ゲームで良かったね、はっはっは。
 もちろん、今後は誤解をさせない文章を心がけたい。

専門知識は避ける

 専門知識を必要とすると難易度が上昇する。

 更に悪いのが、自分にない専門知識がクリアに必要だとプレイヤーに思わせると、その時点でクリアするのを諦める可能性が「極めて高い」のだ。
 それは、実際に専門知識が必要であるかどうかに関わりはない、その知識がゲーム中に提示されようが、実は専門知識がなくても解けようが、だ。
 だから、例えば暗号に音符を使うとか、将棋の駒を使うのは、極めて危険と言える。前者が「おたまじゃくし」の意味でしかなかったり、後者が「五角形」の意味でしかなかったりしてもだ。

 数学は、足す引く掛ける割るの四則演算までが限界と思ってよいだろう。できれば、足し算だけにしたい。
 数学の問題は、それ自体で上質のゲーム(クイズ・パズル)であるので、余計なことをせずに「数学の問題として楽しむ」方が、他のゲームの一部に組み込まれるよりずっと楽しい、というのも真実だ。

 そんなわけで、小学生を想定して「解けてもおかしくない」という所を、専門知識のボーダーとして設定した。
「解けてもおかしくない」のであって、「絶対解ける」ではないあたりで、大人が馬鹿にされたと思わない難易度を保てたと思う。

ゲームオーバーを作らない

 いきなりゲームオーバーになるのはプレイヤーに嫌われる傾向にあるが、実際はハマりを防ぐため難易度は下がるし、ゲームオーバーのパターンを楽しむ、ということもできるので、優れた仕掛けだと思うんだが…一般受けが良くないのは確かだ。
ゲームオーバーはなぜ必要か」で語った通り、面白さ発生装置としては、ゲームオーバーが欲しい。

 しかし、「つまって進めない」という状態を、ゆるい失敗状態と解釈することで、思い切って脱出王ではゲームオーバーを無くした。
 はっきりした失敗(ゲームオーバー)がないので、達成との落差が小さいゲームになってしまった部分もある。しかし面倒な事は極力回避することがコンセプトの脱出王では、高い達成感を得るより、やり直しの面倒さを避ける、方向に舵を取った。
 そもそも、CUI入力ということもあり難易度が高めなので、達成感は「まず十分ある」だろう、との判断もある。

 また、ゲームオーバーもある種の脱出である、と考えると、脱出目的のゲームにはそぐわない、という感じもした。そのような理由から、閉じ込められていることを強調するために、ゲームを途中でやめるコマンドを用意しなかった。ただし、最後だけは脱出が目的ではないので「アキラメル」事ができる。

 次の作品「死にすぎ王子 と 虹の王女」の王女編にゲームオーバーがないのは、殺伐とさせたくないのと同時に、脱出が目的だからという理由もある。
 また、ゲームオーバーという魅惑の香辛料は、王子編で存分に使うことになった、というわけだ。

CUI入力ゲームとして

 CUI入力ゲームであることから、様々な要素が導きだされることにもなった。

パスワードの採用

 セーブではなく、パスワードにしたのは、なんせ気軽なこと、パスワードをヒントにできること、パスワードを部屋名として使える事、文字を入力するゲームに相応しいなどが採用理由。
 その部屋まで行けない人でも、誰かから教えてもらえば、すぐそこまで行ける、というのもパスワードのいい所だ。セーブではこうはいかない。
 コミュニケーションの道具として使っていけるだろう、と予想。

コマンド入力は選びやすい

 1部屋に別視点は置かないようにした。つまり、部屋の中の物は視点移動を伴わず、直に見れる。
 CUI入力は、クリックやコマンド選択に比べ、沢山のコマンドからひとつを選ぶのが「ずっと容易」なので、そもそも区切る必要がない。
 例えば、CUI入力だとヘヤの中に物が1個であろうと1000個あろうと、ひとつを選ぶにはその単語を入力するだけで、操作に違いはない。しかし他のタイプでは、選択対象を画面に表示するという制約上、区切りを入れて表示せざるを得ず、コマンドを選ぶ事自体がちょっとした試練になる。

 同種の物が複数ある場合には、「CUIコマンドその他分類」で述べた、形容詞や数字を併用する事で区別するようにした。

カタカナについて

 単語探しは、主にミルで表示されるメッセージに含まれるカタカナによって、直接的に見つかるものと、状況を判断して「脳の中から」探してくるものに分かれる。
「メッセージ中のカタカナでコマンドが見つかる」というゲームは、テクスティオ以前は無かった筈だ、少なくとも私は記憶に無い。もちろん「メッセージが全部カタカナ」のゲームは除く。

 ちなみに、色が付いている、というのはあった気がする。私自身も色付きで表示する方法も試したが、何しろあちこち色が付くのはうるさく、押しつけ感が強く不快だったのでやめた。
「ホレホレこれを入力すればゲーム進むからさー、こうやって分かりやすく表示してやったんだぜー、なんて親切な俺」とゆー声が聞こえてきそうだ。うぜー、ちょーうぜー。

 カタカナだとそのちょっと頭悪そうな雰囲気が、押しつけを感じさせなくて、いいんじゃないかと思う。突然現われるミルとか、愛らしさすら感じる…いや、私だけなのかもしれないんだけどね。
 でも、個人的な感覚は大切にしたい。一般的な感覚ばっかり尊重してたら、誰が作っても同じものにしかならない。「良くできてるけど、つまらない」ゲームになってしまう。

文章でひいちゃう人対策

 文章を読むのが嫌いな人でもプレイさせるという工夫は「一切やらない」事にした。
 面白い文章は世の中にいくらでもある、それ読みたくないっちゅー人を読ませる…そんなん無理。
 文章を読むのが嫌いな人をプレイさせるには、「一番面白い文章という要素を、多かれ少なかれ否定する必要が出る」からで、そんなことしたらもう、なんでIF作ってんだかわからなくなる。
 私にできるのは「文章を読むのを好きになってくれ」と祈ることだけ。

演出について

映像を入れない理由

 もちろん、絵本があって小説があるのは構わない。それぞれ良さもあるだろう。
 ただ折角なので、文字という、より抽象化が進んだ表現のゲームにおける可能性を掘り下げたい。
 日本では、他にやっている人を見かけないので。

 また、私の絵にはさほど価値はない。自分で言うのもなんだが、訴求力を感じない。
 そんな訴求力のない情報だが、制作時間とファイルサイズだけは、生意気に消費する。

 さらに、映像があると、文字を読まなくなる。文字を読まなくなると、ヒントその他が成立しなくなってくる。映像があると文字を書く場所が狭くなる。背景に絵があると字が読みにくくなる、映像にヒントがあるんじゃないかとプレイヤーが思い出す等など、テキストゲームと映像は相性が良くない。
 雷は画面がフラッシュするのではなく、「稲光がアタリを一瞬昼間のような明るさにした。」と文章で表現した方が、折角文章で構築した世界を破壊することもない。
 特にアニメーションは、カーソルの点滅も避けた。「ここは、君が動かないと何も動かない世界なんだ」という印象を徹底したかったからだ。

音を入れない理由

 音に関しては、可能性があると思っている。チュンソフトが真に指向したかった筈の、完全に絵がないサウンドノベル。まだ無いメディア。
 ただ、私個人にほとんどこだわりが無いので、結果としてできるゲームも、大したものにならないのは自明だ。
 折角、「キーボードをタイプしたりメモしたりして、一生懸命仕事(勉強)しているように見えるゲーム」なのに、音を入れたら台無し、という「けしからん理由」もある。

メッセージが素っ気ない理由

 メッセージは極力、単純な事実を淡々と伝えるように、短く一度に表示し、テンポを落とさないようにした。
 ミスリードを防ぐ目的もあるが、ナレーションにキャラクタを感じさせると、それがベタベタとまとわりついて邪魔な印象を与え、ゲームが重くなるのを避けたかった。
 また、無機質に周囲を描くと、生物である「君」つまりプレイヤーが浮き上がって強調される、という効果も狙った。

 そこで結論。

ちゃんと効果を上げたかどうかは、プレイヤーのみぞ知る