戦国無双3 Empires

対応機種・周辺機器
PS3(1〜2人)
ジャンル
戦術アクション+戦略シミュレーション
著作・制作
(c)コーエーテクモゲームス(オメガフォース)

基本情報

 戦国無双3Z(以下、本編)をベースに戦略シーンが追加されたものが本作だ。
 登場武将に関しては、本編に引き続き40名の無双武将に加え、一般武将も600名と戦国無双2 Empires(以下、前作)の400名をはるかに凌ぐボリュームとなっている。

 前作の完成度が尋常でないレベルに達していたので、素直にアッパーバージョンとしてデータ量を増やしてくるから思いきや、かなり大胆な変更が行われている。
 一番大きな変更は箱庭内政を採用していること。

箱庭内政

 箱庭内政は、施設パネルをマップ上に設置していくことで行う、見た目に分かりやすい内政システム。
 信長の野望 将星録で採用され、その後も信長の野望三國志シリーズに度々登場している。
 雰囲気的には、マクシスシムシティやブルフロッグポピュラスを彷彿とさせるもので、アクションと町づくりの融合という意味ではエニックスアクトレイザーを思い出す。

シミュレーションというよりパズル

 マップ上に市や畑などのパネルを置いていき、そのレイアウトに従って育っていく街を見るのは楽しい。
 置ける場所が入り組んでいてレイアウトに工夫がいるし、パネルの置き換えが自由にできるので、シミュレーションというよりパズルをやっている感覚に近い。

非対称性による対戦の雰囲気の欠如

 国ごとに箱庭内政のマップが用意されているわけではなく、プレイヤーに1枚(開始時に数枚の中から選べる)だけ用意されている。
 見た目は建物が並んで具体性が高いが、ゲーム的にはかなり抽象度の高いマップだ。
 敵国には箱庭内政の町が存在しないためシミュレーション的対称性がない。
 つまり、敵は別の仕組みで数字を上げ下げしているわけで、同じ土俵で競ってる感じはカケラもない。

 非対称という意味では、敵はプレイヤーの配下を引き抜くが、こちらからはできないのも理不尽。

ありすぎるボリュームと溢れる作業感

 箱庭内政はそれなりに時間がかかる上に、町づくり自体が面白いので合戦を行うのが億劫に感じられ、合戦がメインである無双シリーズと根本的に相性が悪い。
 内政でお腹いっぱいなので、外交や登用のコマンドが前作から大きく減らされているのだと思う。
 結果として忍者や軍師らしい戦略コマンドや内政に役立つ能力もないので、文官の意味が全然ないし、戦略を自分1人で行うことになり共闘感はない。
 一応、武将独自の建物を提案してくることがあるが、いちど建設能力を手に入れたら、シナリオを超えて常に利用可能になる。

 箱庭内政はエンパイアーズとしてはボリュームがあるが、単体として成立するほどの奥深さはない。
 最初に選択するマップによりレイアウトの違いがあるものの、どのシナリオのどの君主であってもやることは一緒で、一通りの建物を入手したら本当に目新しいことがなくなる、作業感が強く飽きの早いシステムと言える。

 なお、ダウンロードコンテンツと携帯連携は主に、箱庭のパネルが提供されたが、焼け石に水という印象。
 戦国無双をプレイする時に、プレイヤーは箱庭パーツなど期待していないのだ。
 ここで劇的に改善を見せるコンテンツが提供されたら、それはそれで「最初から入れとけよ!」と思ったろうが。

合戦システム

 アクションシーンは本編のシステムを基本としたアレンジとなっているが、そのプレイ感はかなり異なる。
 ただ、本編よりはマシとはいえ味方は頼りにならず、無駄に兵力を消費する足枷、という印象のままだ。

ミッション

 本編にあったミッションはなく、やらされて居る感が減って快適。
 撃破条件は残っているが「プレイヤーの体力が減った状態で」といったネガティブな指令はなく、効果も直接戦況に関わるものでもないので、邪魔にならない適度な刺激として機能している。

持ち物

 本編では持ち物を任意のタイミングで使えるシステムがあったが、本作では廃止されている。
 行動方針の指示をメニュー選択式にしてでも、持ち物システムは残して欲しかった。
 国力が持ち物に反映されたり、配下に「ねね」が居るとおにぎりが若干グレードアップしたりしてくれると嬉しかったのに。

マップ

 戦場マップは基本的には本編の使い回しだが、特に何もない袋小路や、閉鎖されていけない箇所が多く、城内も基本的に一階で終わっていて、実質かなり狭くなっている上にマップの種類が少ない。
 合戦は5分程度であっさり終わる事も多いが、最初からマップにその程度の密度しかない、とも言える。

 本作ではガンダム無双方式に拠点自体に機能がつけられている。
 それはいいのだが、特に大筒拠点と兵糧庫は異常に強力で、兵力とか関係なく、これらの拠点を抑えている方が勝つレベルなのはバランス悪い。
 また前作にあった、拠点同士の関係を表していた兵站線が廃止されており、戦術や陣形といった行動も取れないため、上記重要拠点を中心に淡々と拠点を落としていく、淡白なプレイ感になっている。

レベル

 本作は出陣のたびにレベル1からあげ直しになる。一見面倒なようだが、武器を数回振ったらレベルアップみたいな、すごい勢いで上がっていくので、新たな爽快感がある。
 序盤で敵武将に囲まれると辛く、まず弱めの拠点の雑兵でレベルアップが定石となる。
 このことで、いきなり本拠狙いを難しくしている…つもりなのだろうが、レベルアップスピードがすごいのに加え、雑兵が回復アイテムを落とす、さらにはプレイヤーも兵力が残っている間は復活するので、最初から本拠狙いもそれほど無茶でもない。

指示

 全軍指示に集結がないのは多分「戦術もクソもなく、敵本拠に全員で突っ込む」のが最適解になってしまうからだろう。
 個別指示もないので、好みの武将を護衛に指定して協力して戦う、という事もできない。
 変に新しい仕様にこだわらず、素直に兵站線を持たせるべきだったと思う。
 そもそも、配下の武将が指示に従わず勝手な行動をとりがちなのも嫌な感じ。

その他

 細かい部分では、ダメージを受けた時にジャンプボタンを押すことで影技による脱出が可能になっており、ただただ敵に攻撃されてムカつくだけの時間が減ったのは嬉しい。
 同時に、2段ジャンプの活用場所すらほとんどないので、「もうジャンプ動作いらないのでは?」という気持ちもある。

2つのモード

 戦史演武は、本編に近い戦略部分を気にする事無く遊べる武将ごとのシナリオが10本用意されている。
 争覇演武は、いくつかの時代ごとの国配置を元に全国制覇を目指すシナリオ。

 開始前にチュートリアルの実行を選択できるが、操作の制限と指示が衝突してハマることがあった。
 ゲーム本編に近い操作ができるようにしたのが裏目に出たということだが、初心者がやること前提のチュートリアルでこの体たらくは意気消沈。

 会話イベントはビジュアルノベル風味の立ち絵だけど、戦国無双 Chronicle同様にキャラは(多分)プレイ中と同じ3Dモデルで顔の部分だけこのシーン専用っぽい。
 アニメーションもリップシンクまでして豪華ではあるんだけど、演技がわざとらしく、動かせるから動かすという所で力尽きた感じ。
 ただし、ここで展開されるイベントはキャラのじゃれ合い的なものだけではなく、一般武将の史実を元にしたイベントも多く面白い。
 また一般武将でも、合戦中に特殊名乗りがあったり、装備や顔に専用グラフィックがあったりして、なかなか見応えがある。

戦史演武

 20ターン中に条件をクリアみたいなのを基本に進んでいくけど、攻め込まれることが無いのでターン使い切った方がどう考えても有利。
 ボタンを押すと経験値が入るRPGみたいな感じで、どのタイミングで進めていいのか戸惑う。
 全体のシナリオが、いつ終わりになるか良く分からない状態で進むので、せっかく作った砂場の城を蹴り崩されたような、嫌な気持ちでゲームを終えるのもマイナス点。

 そして展開されるシナリオも、奇想天外というか二次創作的なものが多く、割と納得できたのは、以前よりもヤン=ウェンリー(田中芳樹銀河英雄伝説)っぽさが際立っているにも関わらず、毛利元就シナリオという体たらく。
 シミュレーションゲームのシナリオとかこっちが考えるから、史実以外の余計なことすんな! って気持ちでいっぱい。

 と言って、出陣必須の武将が事前に提示されず唐突に編成が変えられてしまうのは、そこは史実通りなのかもしれないけど、こっちの計画も考えてくれよと嫌な気分になる。

争覇演武

 新武将(エディット)を出陣させる場合は1P2Pに割り当てないといけないという、意味不明な仕様により、同時に複数の新武将を出陣させることができない。
 つまり配下に新武将を抱えるほど選択肢が減るため、はっきり言って新武将が邪魔、という作りになっている。
 おまけに、新武将を大名にできないときて、無い無い尽くし。
 新武将が選択できるモーションやパーツが少ないとかレベルでなく、「なんで入れた?」レベルに邪魔なシステムだ。

 前述ように一般武将に凝ったグラフィックや音声が用意されてたりもするのに、操作するとなると驚くべきことにモーションが刀と槍の2種類しかない「600人いるのに? なんで?!!」と担当者の襟首掴んでガクガクしてやりたくなる。
 こちとら黒田長政に酒を飲んでパワーアップする特殊技能仕込んで欲しいとか思ってるぐらいなのに!!(飲んだ黒田武士は長政の部下だけど(笑))

まとめ

 評判のいい箱庭内政を取り入れることで、より上のエンパイアーズを目指した、その志はよかった。
 しかし、箱庭内政だけでお腹いっぱい→他の内政コマンド減らそう→合戦時のコマンドも減っちゃった→拠点に機能持たせて戦略性を持たせよう→あれ? 本拠を一気に攻めれば解決しない? →集結コマンド無くそう、みたいな場当たり的な調整で、全体としては何やってんだか良く分からないゲームになってしまった。

 格闘アクションゲームリアルタイムストラテジー要素を加えた無双シリーズに、さらに戦略要素も加えたエンパイアーズは複雑すぎて、迂闊なことをするとドミノ式にゲームバランスが崩れてしまうということを証明してしまった。

 あと相変わらず、武器入手時に既存武器を参照・比較できないとか、細々とした「これダメだってすぐわかるだろ」って仕様が、ちょっとずつしか改善されないの、改善点が次回作で無くなると困るから保留してる、って感じがしてすごく嫌な気分になる。

 コーエーからコーエーテクモに変わったことによる社内のゴタゴタがあるのか、とりあえず日銭が欲しいから出しとけ、みたいな雰囲気でリリースされてしまった感じだ。

参考

 そこで結論。

面白いものに面白いものを足しても、さらに面白いものにはならない事の証明。