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PCエンジンで発表された、CD-ROMを使ったRPG「天外魔境ZIRIA」に続く、奇想天外和風ファンタジー第二弾。
あり得ない位な豪華声優陣で届ける、絢爛驚愕のエンターテイメント。
辻野寅次郎の描くキャラクターは魅力たっぷりで、特にカブキ丸は後に「天外魔境・風雲カブキ伝」という作品を生むほどの人気となった。
当時、ちょっと古くささを感じた絵柄だが、今となると一周回って新しい。
今やセガ「サクラ大戦」などで企画力の高さを見せつける広井王子、SCE「俺の屍を越えてゆけ」などで新奇性と完成度の高さを両立させたゲームを作り続ける桝田省治、そしてPCエンジンの名作を数多く手がけたプログラマー岩崎啓眞の超強力タッグ。
この名作が遂に、「天外魔境III」に先がけ、ゲームキューブとプレイステーション2に移植された。
前作ではオープニングに坂本龍一を起用したが、本作ではジブリや北野武作品で有名な久石譲を音楽監督として起用している。
声優は「ゲームの善し悪しの分からん卸のおっさんにハッタリを利かせるために頼んだ」と言う話の「大女優」岸田今日子を始めとして、「となりのトトロ」の歌手として有名な井上あずみ、声優界の「大御所」青野武、長井一郎、「怪優」千葉茂、「俊英」山口勝平、矢尾一樹、そして「実力派」高山みなみ、藩恵子、伊倉一恵…などなど総勢24名。
ちょっと有り得ないくらいに豪華。なんでハドソンが、こんなに豪華な声優を集める事ができたのか、すげー謎。
これだけ豪華なのは空前絶後ではなかろうか。
マスターテープの保存状態が悪かったのか容量的な問題なのか、GCでもちょっと音がこもっているのは残念。
和風の世界観を採用したのは、同社「桃太郎伝説」からの流れと見る事ができるが、地名や特産物などにも実際ものを転用しているため、同社のボードゲーム「桃太郎電鉄」のような、ちょっとした観光気分も味わう事ができる。
何と言っても、西洋ファンタジーに比べて圧倒的に親しみがある、そしてその親しんだものとのギャップが面白い。
コンセプトが西洋から見た日本(ジパング)であるため、日本的だがズレた世界感を作り出しており、「そう解釈するか!」「んな無茶な!」という事の連続。これが面白い。
ストーリーは所謂一本道であるが、仲間も敵もビジュアルは勿論、性格やセリフも実に個性的で、声優の名演と相まって、楽しませてくれる。
強制イベントが多く、ゲームとしてどうかとも思われるが、これが本作の売りであり、力技で「これもありだな」と納得させられる。
と言いつつも、強制イベントが多いにも関わらず、意外にも主人公の卍丸が喋る事はほとんどないので、強制されている感じが少ない。
エログロ系の毒も、なにげにえぐい所まで書いてあり、特に住民が面白いことを言うので、話に立体感を与えている。
前作の「天外魔境ZIRIA」で登場したキャラクターもちりばめられており、続編としてやるべき事にも抜かりは無い。
レベルアップ、イベント、マップの広がりのタイミング等、退屈の先手を打って発生する。
実に心地よくプレイさせ、ノせてくれる。
移動がBボタンでダッシュ可能になったのは、このテンポの良さをさらに引き上げている。
イベントアニメーションもおおむね描き直されていて、見た目はだいぶ豪華になった。
ただ、PC-Eのデータをちょっと加工した位の多少粗いものも少なくない。戦闘シーンの雑魚・ボスの絵の違い等も含めて、ちょっと統一感に欠ける。
当時はものすごい苦労と工夫の上にでき上がったアニメーションシーンだが、今はムービーを表示するのにプログラミングは必要ではなく、データを渡せばいいだけなので、CD-ROM黎明期だからこそ持てた迫力は無くなってしまっている。
ちゅーか、だいぶ表現としてはおとなしくなっちゃってる。んー、駄目です。
全年齢用のゲームなんかにするからー!!もーアホだねぇ。
マップと乗り物はポリゴンで作り直されていて、絵として見れば良くできているが、ポリゴン化する意味はさほど感じられない。
特に村の周囲に、見た目は明らかに進めるのにぶつかる「透明の壁」が、あまりにも大胆に存在し、イライラする事必定。
2Dを前提としたゲームを3Dにしても、やっぱり無理が出るなと再認識。
レーダー表示は便利だが、天狗のいる場所まで表示する等、過剰に親切になっていて住民のヒントが台無し。
戦闘シーンの敵は描き直してあるし、アニメーションも強化されている。
ただ、残念ながらそのせいで戦闘のテンポは悪くなっている。そこでアニメーションを飛ばすことになり、この強化は意味があったのか疑問。
このボタンはLRトリガなのだが、アナログで押し込まなければいけないので、押しっぱなしにするのがだるい。ダッシュと同様にBボタンにしなかったのか不思議。
やたらと戦闘が簡単なのは、再プレイだからかとも思ったが、かなりマイルド調整されているようだ。
おかげで、嫌らしい攻撃をしてくる敵も、さほど怖くなくなっている。
元が歩いていると体力が回復する等のシステムもあり、そんなにキビシい難易度であったとも言えないので、なんでこんな調整したのか疑問。
PC-E版は、フィールドではCD音源、戦闘は内蔵音源でえらいギャップがあった記憶があるのだが、これらもリマスタリングされ、両者の違和感は少なくなっている。
特に新しくストーリーやダンジョンを追加したりはしていないようだ。
逆に、記憶に残っているセリフを吐く町人がいなくなってるよーな。…これまた規制か?
結局グラフィックや音は勿論、シナリオやゲームバランスまで作り直しているわけである。
11年も経ってしまったのだから、むしろ任天堂「ファミコンミニ」シリーズのように当時のグラフィックと音を「完全移植」し、予約特典としてではなく全製品に設定やら音楽を収録したおまけディスクを一つ付た方が良かったかもしれない。
実際、後にPSPで発売された完全移植版(CEROレートB)の「天外魔境コレクション」の方がずっと評価は高い。
一応、「天外魔境 覚醒の書」というブックレットが付属していて、制作者のコメントや設定資料、年譜がある。
PC-Eで天外魔境が切り開いたアニメ+RPGの手法も、いまや完全に定着し、それ自体には新しさは無い。
クリアまで70時間かかると言われた大長編も、いつの間にかそのくらいは珍しくないものになっている。
それから、単純に同時期に発売されている他のRPGと比べると、システム的にはかなり見劣りするのは否めない。
11年の差があるゲームを比べる気になるという時点で、相当凄い事と言っていいのではあるが。
「天外魔境写真館」という既に通過したイベントシーンを再生するおまけが付いていて、これはなかなかいい。ストーリーを振り返るのは勿論、どの程度ストーリーが進んでいるかの目安になる。
ルビが付いたりする等、高解像度になった事により、文字が読みやすいのはありがたい。
その他にも、良くなっている面もありはする。
音に聞こえるPC-Eの伝説のRPGをやってみたい、という空気がまだあった同社「空想科学世界ガリバーボーイ」と同じ時期にもリメイクしてほしかった所だ。
世代的には2世代経過したGCとPS2である。一度完全に記憶の彼方に行ってしまっているのは痛い。
伝え聞く話では、制作者間で内紛的な事があったりして、権利関係の整理が付かなかったとかあったりもしたらしい。
だいたい、このGC版には、最初に紹介した主要な制作者である桝田省治、岩崎啓眞は、欠片も関わっていないらしい。元のゲームのプレイヤーには「…なるほど、それでか」と思う事多数かと思う。
うーん残念。
そこで結論。
「名作だが、リメイクも名作と言えるかは微妙」
2005-02-20 2012-03-16