戦国無双2 Empires

対応機種・周辺機器
PS2・PS3・PSP(1〜2人/BBユニット対応)
ジャンル
戦略シミュレーション + 戦術アクション
著作・制作
(c)コーエー(オメガフォース)

基本情報

 戦国無双2をベースに戦略シーンが追加されたもの、別の言い方をすると戦国無双信長の野望をくっつけたものが本作だ。
 派生作品の最後を飾るのがパターンのEmpiresだが、本作は戦国無双2 猛将伝より前に発売されている。

 そのため、猛将伝で追加された、前田利家、長宗我部元親は無双武将としては登場しない。今川義元とガラシャに至っては、そもそも登場しない。
 柴田勝家・佐々木小次郎が無双武将になっているが、残念ながらモーションはいろんな武将の使い回し。
 細かいところだが、戦国無双2で護衛として選べた甲斐姫とか一般武将としても登場しない(よね)のが結構残念。
 本稿はPS2版を元にレビューしているが、PS3とPSPで発売された戦国無双2 with 猛将伝 & Empires HD Versionにも猛将伝の無双武将は登場せず、一般武将のままである。

 システムは評価の高い真・三國無双4 Empiresをベースにしつつ、さらに改良が加えられている。

システム

戦略面

 多くの政策が選べ、一見役に立たなそうなものも、状況によっては役に立ったりする。
 面倒臭い時は政策を委任にして丸投げできるし、委任した武将の友好度が簡単に上がる。
 友好度は結構重要で、低いと裏切ったりするし、高いと一緒に行う無双奥義の威力が上がる。
 なお、無双奥義は4人まで一緒に行え、発動時にぐるぐる回転する演出は単純なのにカッコいい。

 敵武将の引き抜きや、敵国での反乱工作という、ちょっと卑怯な政策の成功率が意外に高いが、敵はあまり(難易度「普通」では絶対?)やってこない。
 他にも国防御や鍛治レベルの上昇といった、やると強力だけど敵はほとんどやらない政策がいくつもあり、相当不利な状況からでもしっかり内政をやればひっくり返せる。
 この辺プレイヤーが卑屈にならない程度に、うまく接待してくれてて気分がいい。

 内政のコマンドは最初から全部揃っているのではなく、武将が提案してくるものに新しい策があり、それを採用していくことでコマンドの種類が増加する。
 提案システムは自分でやりたいことが選べなくてイライラする面があったりするが、本作では部下の提案なら2倍の政策が実行可能で、友好度が上がる。
 そして先ほど挙げた「新コマンドが手に入る」ということで、提案を採用するメリットが多い。
 藤堂高虎や加藤清正が有効な築城コマンドを持っているなど、分かってる割り振りも良い。

 このように内政でも配下の武将と一緒に行なっている雰囲気が出ていて、それが歴史上の武将なんだから「流石、竹中殿は知将よの」などと思いつつプレイできる。
 献策が人物イメージと異なることも多いが、そこまで求めるのは武将ごとに思考ルーチン作る必要もあるし、欲張り過ぎかもしれない。
 人物イメージといえば、味方武将つてで親類縁者が仕官してくることがあり、単純な仕掛けだが武将たちが生きている印象を与えてくれる。

 茶道・問答・剣術は対戦形式で武将の能力をあげられるもので、なんと8人での勝ち抜き戦もできる。
 試合場面が作ってあるわけでもなく地味なものだが、勝ち負けの台詞が凝っていて面白く、戦以外での大名気分が味わえるので、つい開催したくなる。

 内政のボリューム自体は初期の信長の野望 全国版程度かもしれない。
 しかし、本作の場合は無双シリーズの一本であり、茶器を集めるとかに凝りだすと「だったら信長の野望の新作やれよ」ってことになるし古織無双が始まってしまう(ちなみに古田織部も本作にはいない、残念!)
 逆にこれより内政のボリューム下げると、普通の無双やれば? って話になる。
 内政に意味はあるけど、それが面白すぎない、ちょうどいい感じの量で止めてあるのが見事なバランスだ。

 育てたデータを引き継いでシナリオを開始することができ、そうするとまた別のバランスで遊べて面白い。
 終盤になると勝ちが見えて面倒になる問題も、設定で総取りルールを[大名攻略]にしておけば大名がいる国を落とせば全支配地域を手中にできるので、煩わしさは少ない。 

戦術面

 内政で入手できる戦場策は、騎馬隊などの特殊な兵士を投入できるなど戦況を有利にするカードが揃っていて、その投入タイミングにより、かなり不利な状況もひっくり返せる。
 そして、戦闘後や内政で入手できる陣形は、三すくみ(じゃんけん)とレベルの組み合わせになっていて、敵よりもレベルが高いか相性の良い陣形を指定することで兵士の能力が変わり、これも戦況を大きく左右する。

 アクションゲームにこの手の物を入れると、単に煩わしいことになりそうだが、無双シリーズは戦闘が作業的になってしまいがちなので、いいスパイスになっている。

 武将への指示は十字キーで大まかに行うことができる他、個別にもできるので、かなりきめ細かい指示が可能。
 護衛システムはないが、武将に自分の援護を指定すれば付いてきてくれる。ただ、全体の指示で個別指示がキャンセルされてしまうので、常に護衛するオプションが欲しかった。
 個別の指示はしなくても、委任しておけば結構みんな頑張ってそれなりに戦ってくれ、勝手に突っ込んで敗走ということもあまり起きない。

 また、Empiresではおなじみの拠点を結ぶ兵站線とエリア効果が強めに設定してあるようで、自陣にいると強い。
 プレイヤー以外の武将は、兵力や防御力に応じて何度も出撃してくるのは少々煩わしいが、自軍のエリアだと一発捕縛で再出撃できなくなる確率も高くなる、といいことずくめ。
 まずは武将を自陣に呼び寄せて叩き、雑兵だけになったところで敵拠点を叩くのが基本戦術になる。

 戦闘は、味方武将2人以上で敵武将1人を囲むと俄然有利になるので、一緒に行動するように指示したり、誰かに付いていったりするという戦法も効果が高い。
 その際に、前述の友好度により無双奥義の威力も上がるし、婚姻・血縁関係によりさらに威力が上がるので、例えば濃姫で戦っていると「信長様…好き!」って気持ちになる(笑)
 ただ婚姻は史実通りに行くはずもなく、血縁についても歴史の解釈違いもあるかもしれないし、割と養子多いけど肉親パラメータあるのか、兄の嫁である稲姫と幸村は肉親扱いなのか、とか気になるが、隠しパラメータなので悶々とするしかなく改善が必要かと思う。

 これらのことは逆に、無双シリーズらしく単独で敵陣奥深くに切り込んで大将首を挙げて決着、という戦い方ができないとも言える。
 しかしそれができてしまうと、もう戦略も戦術も意味がなくなってしまうので、Empiresとしてはベストのバランスかと思う。

 前述のように自陣に篭っていれば、味方の能力も上がるし密度も高くなる。
 そのため、防衛戦はかなりの兵数差があっても、じっくり守ればどうにか撃退できる。
 防衛戦には戦費がかからないため高レベル武将も気軽に出陣できるし、タダで経験値を運んできてくれるようなもんで、煩わしい防衛戦が「嬉しいイベント」に変貌しているのは上手い。
 指定時間守り抜かなければいけない防衛戦はどうしても時間がかかるが、十分に兵数と防御力があれば自動解決に任せられるのも、プレイのテンポを良くしている。

 戦闘中の音声は、割とそれっぽいことを言ってくる。
 ただし「攻める(守る)」でいいところを「拠点を攻める(守る)」って言うので、みんなやたら「拠点、拠点」言ってくるのは、やめて欲しかったきょてん(語尾)
 あと、全軍集結の指令は、個別には味方援護の行動になるので、敵本拠を攻めていても「お守りします」って言って来るのは違和感。

 敵味方の寝返りが発生しそうになると「拠点数を6個まで増やせ」といったミッションが発生し、それをクリアすると敵の寝返りが起きたり、味方の寝返りを阻止できたりする。
 これはダラダラしがちな無双シリーズの戦闘に抑揚を与えているし、合戦に1回しか発生しないようだし、比較的普通のプレイを頑張れば達成できそうなものが多いので、やらされている感もほとんどない。
 「自分の体力を半分にしろ」みたいなネガティブなミッションがないのも良い…というか、そういうのを入れようという発想は普通湧かないが、戦国無双3はあるんだよね。

 戦国無双2マップの使い回しは勿論だが、様々な地方でも使い回しが多く残念。
 二段ジャンプのスキルをどの武将でも獲得できるので、イマイチ意味が薄かった「忍びの道」によるショートカットに意味が出て、同じマップでも二度美味しく遊べるのはいい。

戦闘面

 無双武将に関しては、ほとんど戦国無双2と同じと言っていいかと思う。
 製作者としては、元が良かったので変える必要がほとんどなかった、というのが正直なところだろう。

 無双武将以外の一般武将も地味ながらもそこそこ使え、さらに無双武将の使い回しとはいえ個々に特殊技が設定されていて、上手く立ち回ると無双武将に引けは取らない。
 それなりに名の知られた武将だと基本パラメータも高めに設定されているので、無双武将と対等に渡り合え、「利家が弱すぎる!」みたいなことは(プレイした限り)なかった。

 前述の通り、戦略・戦術面の影響が強いので、一騎当千の無双らしさは低い。
 とは言え、戦場の優劣の多くは士気が支配するので、敵武将を倒したり掃討数を稼いだり拠点を制圧して士気を上げるのはかなり有効に働く。
 流石に陣の奥に引きこもって指示だけして勝つというのは難しいし、ゲームの方向性として簡単にできるべきでもないだろう。

 馬が強いので、先駆けを行って突撃を繰り返し、拠点の兵数をある程度落としておいて、味方武将が合流したところで取り回しの難しい馬から降り、拠点頭や武将を一緒に叩き伏せるというやり方が有効。
 馬と人が差別化され、使い分ける意味がちゃんとある。

史実の重視とエディットの軽さ

 アクションシーンではモデルやモーションの使い回しとはいえ400人の戦国武将をプレイアブルキャラとして用意しており、勇猛で知られた武将は能力もしっかり高かったりする。
 誾千代がいるのに夫の立花宗茂がいないとか若干納得いかない部分はあるが、これだけいると「おらが国の有名武将」は一通り再現されていると見ていいだろう。

 戦国の序盤から終盤にかけて割と万遍なく(最序盤がないので今川義元がいないのが痛いが)シナリオが用意されている上に、武将を自由に配置できるシナリオも用意されている。
 さらに、東北・関東・中部・近畿・中国四国・九州の地方ごとのシナリオも用意されている。
 どの地方も戦国序盤を舞台にしているので、有名武将が偏ってたりいなかったりするが、有名武将同士が戦うようになる前の地方ごとの戦いは、歴史好きにとってはむしろ戦国本番より熱い時代だったりするので、コーエーのわかってる感じが素敵。
 特に中国四国は戦力が拮抗している上に無双武将が一人もいないので、そういうシミュレーションゲームとして「無双武将とか邪魔なんじゃないの?」というぐらい楽しめた。

 特定の有名な合戦は条件が成立すれば、(確かほとんどは戦国無双2の使い回しとはいえ)イベントムービーが再生され特殊合戦が発生したりもする。
 さらに、RPGの会話シーン程度のイベントではあるが、史実に沿ったもの沿ってないもの合わせて特別なイベントが発生する。
 この会話イベントに関しては、無双武将以外にも用意されていて、もしかしたらこの武将にもあるのでは? と期待してプレイできる。

 国の分け方は、実際に存在した国と比べると雑すぎる面もあるが、それが気になるなら前述の通り信長の野望やれよという話だし、あまりに細かく設定されてもプレイ感が悪くなる。

 それでも登場していない武将が欲しければ、新武将エディットにより登場させられるのだが、これはかなり貧弱な出来だ。
 パーツごとに変えたりでない上に、その他の武将で登場しているモデルから選ぶことしかできない。
 これでは、お気に入り武将を無双武将並みに派手な外見にしたりは勿論、有名漫画やアニメのキャラを再現したりなどはとてもできない。
 島津豊久をドリフターズ仕様にしたりできないのだ! 残念!

 新武将エディットが一番力を注ぐべき部分とは思わないが、一番力を注いでも成立する部分だけに、惜しい感じはする。
 ただ、ここをスッパリと諦めたからこその他の部分の完成度の高さ、ということも想像できるので、いい判断だったと言える。

その他

 条件を満たすと一枚絵が解放されていくトロフィー的な仕組みがあり、この枚数が充実している。
 PS2の時代にしても既に、ご褒美絵でプレイ意欲を上げるのは無理があったとは思うが、とにかく枚数が多い。
 プレイ中に条件をクリアしたら画面にメッセージが表示されるので、繰り返し気分が強くなりがちなゲームに、先に進んでいる気分を与えてくれる。

 PS2は本体のみではインターネットに繋げないため、武将の詳細情報や戦国用語が充実しているのは素晴らしい。
 逆にPS2末期に出ただけあってBBユニットに対応しており、HDDにインストールしてロード時間を短縮できる。
 とはいえ、インストールなしでもロード時間は短め。
 他にも、合戦前に前作のBGMも含めて選べたり、好きな合戦場で練習できたりなど、全面的に行き届いた作りになっている。

 インタフェースは、例えば設定で視点変更の左右の入れ替えができないとか、若干の隙があるが及第点以上。

まとめ

 これは戦国無双2 Empiresというより信長の野望 無双ではないか? と思ってしまうほど、戦略シミュレーションとの融合がうまくいっている。
 そして、アクション戦闘の必要性もあり、戦術部分も陣形や兵站線などで担保されていてリアルな戦場感がある。
 歴史ものとして、史実に基づいたデータやイベントが用意されており、キャラものとしてのイベントやシステムも充実している。
 Empiresが目指すべきことが全て実現されていると言っても良いレベルの、高い完成度を誇っている。

 もう後は、マップの種類を増やすとか、無双武将を増やす、モーションを増やす、イベントを増やす、ボイスを増やす、ムービーを増やす、武将エディットのパーツを増やす、グラフィックのクオリティを上げる、画面中のキャラ表示量を増やす、という量の部分しかないぐらいゲーム本体の完成度が高い。
 これらは制作人員を大量投入して頑張るか、プラットフォームの性能が上がるかすれば実現できるので、逆に言えば、予算と期間とPS2の性能の「できる範囲での完璧」が本作と言って過言ではない。

 本作だけ完成度が高い突然変異というわけではなく、歴史ものシミュレーションとアクションの光栄(コーエー)として何十年もかけた積み上げがあっての完成度というのが、これまで光栄のゲームを何本もプレイしてきた身としては感慨無量だ。
 良くやった! すごいもの作った! とシブサワ・コウの肩を叩きに行きたいぐらいだ。

参考

 そこで結論。

光栄(コーエー)の歴史が見事に融合した理想的名作