スーパーマリオギャラクシー
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基本情報
前作スーパーマリオサンシャインから約5年ぶりの3Dマリオ。
任天堂の看板タイトルがWii用の新作として、今度は舞台を宇宙に変えて登場。
発想としては、3Dは迷うしカメラがの操作が面倒だとか酔うとか色々と難しい→マップをループするようにしたら迷いにくい→いっそマップを球体にしてしまえばカメラ位置も固定できて問題が解決する→球の上でアクションするのにふさわしい舞台は…星だ!! という感じだろう。
球体によるマップで3D問題を解決し、それを踏まえて物語として説得力のある舞台を用意する、という流れで文句なしに素晴らしい。
スーパーマリオは星(スター)をモチーフにしたアイテムを伝統的に使ってきたこともあって、舞台が宇宙になるのも「満を持して」という大物感すら漂う。
宇宙というと宇宙船みたいなSFのイメージが湧きがちだが、本作のいくつものちっちゃな星の上で展開する冒険は星の王子さまを彷彿とさせて、なかなかにファンタジックでナイスだ。
球体を基本にしてはいるが、舞台は島みたいな作りのものも少なくなく、コンパクトな地形が集まって全体を作っているという意味ではゼルダの伝説 風のタクトと近いかもしれない。
システム
切れない遺産
基本的なフォーマットはスーパーマリオ64を踏襲している、と言うか、あまりに変わってない。
アスレチックをしてコースをクリアするアクションゲームという部分は、それやめちゃったらタイトル変えたほうがいいんで特に問題ないが、気になるのは細かな仕様の部分。
例えば、サンシャインのレビューでも書いたが、残機制の意味がわからない。
特に本作は1UPキノコが多いし、スターピースを集めても1UP、コインを集めても1UPで、確認するためにわざとミスしないとゲームオーバーを見れなかったほどだ。
ミスしないわけではなくて、1ミスするまでの間に1UP2UPするのだから、残機制にする意味が分からなすぎて怖さすら感じる。
あと、残機はセーブデータに残らないので、どんどん増やしてやるぞフフフ、的な楽しみ方もできない。うーん、なんなんだこの制限。
タイミングよく三回ジャンプすると高く跳ぶというシステム…使いづらいのに、まだそれいれてくんの? と、冷めた気持ちになる。この3ジャンプ、その動作を確認するとき以外に使ったことないぐらいに使い所の分からないアクションだ。
この辺のシステムが当たり前になりすぎて、必要かどうか検討する工程を入れずに導入しているんじゃないかという疑惑すら出てくる。
動詞過多
スーパーマリオシリーズは、やることなくなると変身パターンを増やす悪癖(と言いたい)がある。
本作では初代にもあったファイアマリオ、レインボー(無敵)マリオの他、アイスマリオにバネマリオ、さらに加えて飛ぶ系だけでオバケマリオ、ハチマリオ、フライングマリオと三つも変身がある
さらに、空気を吹きかけて進める泡に包まれた状態とか、パチンコみたいに引っ張ってマリオを飛ばせるとか、玉に乗って転がっていくとか、カメを掴んで水中バイクみたいに進めるとか、エイに乗って水上バイクみたいに進めるとか、氷の上はスケートのように滑れるとか。
なんというか統一感のない、小手先のしゃらくさい仕掛けが多い。
球を転がすゲームとか、セガスーパーモンキーボールがやってるんだから、それをマリオでやる必要があるのか? という話だ。
ポケモンのゲームデザイナーの田尻智の言葉で「動詞ひとつで説明できるのが良いゲーム」みたいなのがあったと思うが、その定義によれば本作は残念ながら動詞が多すぎて良いゲームとは言えない。
逆にセガミスター・ボーンズみたいに「全てのアクションゲームのパターン入れたる!!」ぐらいの勢いがあれば、それはそれでいいかもしれないが、本作にそこまでの勢いはない。
スピン
そういう雑多な動詞の中でも、スピンというアクションは、大乱闘スマッシュブラザーズの技から逆輸入という形ではあるが、なかなか良い。
直接的な攻撃手段として、敵を気絶させたり吹っ飛ばしたり、障害物を壊したりといった役割の他に、スマッシュブラザーズと同様にジャンプの高さや距離を追加する効果や、ネジの上で使えばドライバーがわりになったり、 周囲の敵(テレサ)を振り回したり、近くのもの(甲羅)を吸い込んだり、仕掛け(スターピース出現箇所)を作動させたり、ひとつのアクションに多くの副作用があって面白い。
スピンはボタンを押すのではなくリモコンを振るという操作なので、新鮮な感覚で遊べる。
全方向に攻撃判定があり範囲も広く、3Dでも当てやすいので、単純な攻撃手段としても優秀だ。
いっそ、スーパーマリオスピンという名前で、スピンを中心にゲームを作ってくれた方が面白かったんじゃないだろうか。
ポインタの利用
リモコンで画面をポイントすることで、マリオがその場に行かなくてもスターピースというアイテムを集めることができ、これが意外に楽しい。
集めたスターピースを射出することで、敵の足止めをしたり一部の仕掛けを動かしたりもできる。
これらのスターピース関連の操作は、主プレイヤー以外でもリモコンを用意すればできるので、ゲームが得意でない人も、見物だけではなくちょっと参加できるという作りになっている。
単に指示棒代わりとしても便利なので「これ全ゲームに基本機能としてつけていいんじゃないか?」というぐらい快適だ。
これは、任天堂が取り組んでいる「ゲームプレイヤーを家庭内で孤立させない」という命題に対する一つの答えとなっている。
丸いってことは全部つながっているってこと
舞台が球体(を基本としていて)周りが宇宙なので、透明の壁が存在しないのは極めて快適。
球体はループしている、つまり端がないので領域を区切る壁が不要。
星から離れていったとして周りは宇宙なので、壁があるわけではなく単にミスとなる。
素敵! 球体万歳! といった感じだ。
球体になったことで方向感覚のない人でもなんとか進めるようになったのと同時に、方向感覚がある人はむしろ東西南北がはっきりしてなくて迷いやすい。
これを「誰でも適度に迷うようになった」と見るのか、「無駄に迷わせるようになった」と見るかで、評価も変わりそうだ。
グラフィック
本作は良く言うとバラエティに富んだとも言えるし、マリオらしいごった煮状態で楽しいとも言える。
しかし、前述の豊富なアクションと同様に、いいものが色々できたんで全部入れてみました、みたいな感じで、芯になる方向性が見えず、全体としてのグラフィックの印象はぼやけてしまった。
デザインの共通要素が弱いというか。トレジャーゆけゆけトラブルメーカーズみたいに、何にでもねんどろ顏がつくというのも極端だが、印象は強く残る。
球になったことでプレイヤーがカメラ操作を行わず、カメラ位置をほぼ固定しておいても成立するようになったのはいい。
しかし、逆に(おそらく3D酔い対策を意識しすぎて)視点変更がほぼできないので、見たい箇所が見れないのは困ったもの。
一応、十字キーでカメラ角度をユーザ側で指定できるものの自由さはほとんどない。場面によって90度ぐらい変更できたり、全くできなかったりということが多く、360度カメラを回せる箇所はほぼない。
常にマリオの一人称視点で見ることはできるとはいえ、俯瞰でない視点では周囲の状況が把握しづらい。
舞台を球にしたことで解決したカメラ問題も多いが、カメラ位置変更の不自由さで相殺されていて、球…ねぇ、みたいなモヤっとした感想となってしまう。
球であることにより、マリオの画面上の位置は分かりやすくなったものの、重力方向が画面に対して分かりづらいため、踏みつけアクションなどで重要な意味を持つ落下点を読み違えてしまう。
ジャンプアクションとしては、致命的といっても言い過ぎではない。
また、球でないコースも多く、その場合に重力の方向が場所によってコロコロ変わる、という仕掛けが多用されている。
重力方向が変化するアイディア自体は、セガソニックアドベンチャーなんかでも見たものだが、重力方向が変化した際の操作の自然さは断然本作の方が優れている。
とはいえ、重力方向が変わりつつの操作は混乱するだけで面白さに貢献してない面も多く、意外な落下方向になっていてミスした時は「やられた」と悔しがると言うよりただ理不尽な気持ちになってしまう。
重力方向の変化は、プレイヤー的にも開発者的にも「人類には早すぎるアイディアなのでは?」という気もする。
まとめ
それぞれのコース全体が短めな上に、途中に復活ポイントもあってチャレンジしやすいことや、ひとまずのクリアまでの難易度が低く設定されていることはとても良い。
存在するスターのうち半分ぐらい集めればクリアできるという難度の低さだ(無視してもクリアできる故に、すごい難度のコースもぶっ込んであるが)
それも含め「ゲーマーのためのゲーム」から脱して、お茶の間で嫌われず皆が楽しめるゲームであろうとする努力がはっきり見える。
しかし、旧弊なお約束から脱しきれてない面も多く見られ、頑張ってるんだけどなぁ…というところで止まってしまったのも本作である。
本作は東京制作部開発で、マリオシリーズを手がけてきた宮本氏ががっつり関わっていない、あるいは中途半端に関わってしまったタイトルであることが影響しているように思う。
まるっと変えちゃうの遠慮して、マリオのお約束を残しちゃった、という感じ。
コースが短いため探索的な要素はかなり減っている。ゼルダの伝説との差別化という意味では正しい選択かと思うし、迷ってどうしようもなくなる人の救済という意味でも悪くない調整かと思う。
ただちょっと、コースは選べるもののコース内での選択肢はほぼない一本道という感じで、若干の作業感があるのは問題。
参考
そこで結論。
面白いけど、手癖で作った感が強い一作