大神 絶景版

対応機種・周辺機器
PS2/Wii/PS3(PlayStationMove対応)/PS4/Xbox One/Switch/Windows(Steam)
ジャンル
ネイチャーアドベンチャー
著作・制作
(c)カプコン/クローバースタジオ (PS3版)

基本情報

 ビューティフルジョーでアメコミヒーロー風の独特の映像で大きなインパクトを残したカプコンから派生したクローバースタジオが、和風の世界観に挑戦。
 ディレクターはバイオハザード2デビルメイクライなどなど名作・傑作をいくつも送り出している神谷英樹。
 ジャンルとしてはゼルダ的なアクションアドベンチャーだが、主人公は白い狼という変わり種だ。
 相棒の小人で絵師のイッスンと共に、闇に閉ざされたナカツクニを救え!

 最初は年にPS2で発売されたものが年にWiiに移植され、さらにHDリマスター版として年PS3に出たのが本作大神 絶景版であり、カプコンの定番ゲームの一角となっている。
 ちなみにタツノコ VS. CAPCOM CROSS GENERATION OF HEROESに本作のラスボスが登場している。
 本レビューはPS3のものだ。

 初代がずっと移植されるのは大神の人気の高さを表していると同時に、シリーズとしての展開にはちょっと失敗しているとも言える。
 販売本数的にも10万本付近の大ヒットとは言えないが、出せば割とコンスタントに売れるゲーム、という感じだろうか。
 と思っていたら、年にPS4/Xbox One/Windows版、翌年にSwitch版のマルチプラットフォーム展開で計100万本を超える大ヒットとなっている。

 大神の場合はクローバースタジオがPS3版の時点で解散しており、Switchに至るまで高精細化した以外はポインタ操作対応とかトロフィー対応などはあるが、ゲーム内容はPS2のベタ移植のようだ。
 ゲームの内容が良ければ、あとはタイミングと運、その可能性を増やすためにもマルチプラットフォームと海外展開が大事、ということを感じだ。

ストーリー

 国中の大地が悪鬼・妖怪に蝕まれたタタリ場となっているので、悪鬼・妖怪を倒しつつ、地方ごとの神木を復活させるなどして大地を蘇らせていくというのが基本的な流れだ。
 主役の名前がアマテラス(女子!)であることからわかるように日本神話をベースとしている。
 その上で慣れ親しんだ昔話や、卑弥呼や弁慶と牛若丸などの史実的な要素も織り交ぜたハイブリッド日本となっており、ざっくり平安時代ぐらいの雰囲気で作られている。
 ハドソン桃太郎伝説の世界観に近いかもしれない。

 主役がちょいちょい、退屈して寝ちゃったりするなど「わんこ〜」みたいな仕草をするのが愛らしい。
 人以外のプレイヤーキャラは感情移入しづらいのが問題なのだが、可愛いいワンコにすることで容易に感情移入させるのは上手い。狼だけど。
 無理にプレイヤー=主人公の一体化を図らず距離をとっているのが、三人称視点とも相性がいい。

 会話シーンは「ポポポ」の表示音ではなくて、任天堂どうぶつの森シリーズのような「ぺちゃくちゃ」方式で、なかなか味がある。
 ウィンドウはフキダシ方式で、キャラなどによって形が変わる。
 メッセージを進めると頻繁にカットを変えてくるのは、少々うるさいと感じたりもするが、退屈感はグッと減る。

 会話シーンと言っても主役は狼なのでしゃべらず、コマンドも[はなす]ではなく[聞く]になっていて、可愛いワンコに勝手に人が話しかけてくる体になっているのも独特で面白い。
 シナリオ書くのにかなり苦労したのではないかと思う。
 基本的に人々は、まさか狼が解決したとは思ってないので、わーっと感謝してくれたりはしないが、人知れず世界を救う感じや、分かってくれている人は分かっている感じが、また独特な雰囲気になっている。

 会話するとしても相棒のイッスンなので、喋る主人公にありがちな「いや、そんなこと全然自分は思ってないし」と冷めちゃうことがないのもいい。
 アマテラスが勝手に動いちゃうことと動かないところ、主観と客観の使い分けが非常に上手い。
 話の内容も状況でかなり細かく分けられているので、頻繁に聞きたくなる。

 話を聞く時に必ず[くわえる]コマンドも出て、特に意味はないけどちょっと人を引っ張ったりできるのがいい。
 必要な時だけ出てくると「はいはい、ここでシナリオ進行すんのね」って冷めた感じになるけど、いつも出てれば地続き感がある。
 筆しらべという技がほとんどの箇所で実行できて、かなり多くのオブジェクトがそれに反応するのも同様に良い。
 ところで○ボタンで吠えることができるんだけど、これ有効活用された場面あったっけ? なんの役にも立たないアクションが用意されているの、個人的に大好き。

 全体的にゲームのアイディアが先にあり、それを実現するためにストーリーをつけたようで、非常に任天堂、特にゼルダの伝説シリーズ的で好感が持てる。

グラフィック

 墨と筆で描いた絵巻物や屏風絵、掛け軸を彷彿とさせる和風感溢れるグラフィックは、ビューティフルジョーのアメコミタッチの黒ベタの効いた絵をさらに発展させたものと言える。
 この画風を3Dで表現するのは無謀なチャレンジと思えるほどだが、見事に雰囲気良く仕上がっている。
 角度によって輪郭線の太さや表示・非表示を絶妙に調整して、和風の絵を動かすことに成功していて、この技術と努力には頭がさがる。

 キャラクターは足が短くデフォルメが効いており、コミカルな印象がある。
 デフォルメしたから大丈夫でしょみたいな開き直りか、女性キャラクターは露出が大きくおっぱいも大きく、お尻もやたらセクシーな傾向にある。いいと思います!
 キャラのデフォルメが効いているので、大げさにピョンピョン跳ねるような動きをしても、世界観を崩さないし、UIとしても分かりやすくなっている。

 イベントシーンはゲーム中の画像と区別はつかずシームレスな作りだ。
 ほとんどはリアルタイムのようで、「オブジェクト大量にある」とか「装備が固定」なことでプリレンダかなって予想するくらいしかできないぐらい馴染んでいる。
 どちらにしろPS2の段階で考えると、この自然な馴染み具合は相当えらい。2006年はまだイベントムービーで別人が登場するようなゲームがまかり通っていたと思う。

 敵の図鑑や要所で入るまとめシーンや過去の話は、絵巻風の2Dの絵だ。
 これは相棒のイッスンなどの絵師が描いている設定なので、本編と絵柄が違っている理由がちゃんとあり、かつ2D静止画なのでデータ量を抑えつつ雰囲気も良くなっている。アイディアがきちんとゲームに奉仕している。

 通常のゲームの背景の空中に、いきなり行き先の看板みたいなものが浮いているのだが、背景の雰囲気が絵巻風なので、むしろ見慣れた絵面になっており違和感がない。
 これもまた、絵として良く、UIとして良い一石二鳥の素晴らしいアイディア、ほとんど天才の所業だ。

 このように素晴らしい雰囲気のマップなのだが、割と気軽に透明の壁を使ってあって残念。やってみると行ける箇所でも、また透明の壁あるんでしょ、って挑戦するのを見送ってしまうことにつながるので、透明の壁は極力、できれば全部無くして欲しかった。
 実際行けそうなのに行けない場所、行けなそうなのに行ける場所、双方ともに結構あって困る。
 普通にプレイしていると体力全然減らないので、変なところに落ちたら体力減らして落ちた場所からリトライでいいのに。

システム

筆しらべ

 本作の最も特筆すべきシステムは「筆しらべ」だろう。
 R2ボタンを押した状態では時間が止まり、□か△ボタンを押しながら左スティックを動かすと線が引ける。
 そこで描いた図形によって各種「筆しらべ」が発動し、様々な効果を発揮する。

 おそらく主人公が狼になったのは、人が主人公だと「手や道具で解決できそう」なので筆しらべが生きない、という判断だと思われる。

 レベルファイブ二ノ国 漆黒の魔導士の魔法陣システムと似たような仕組みで明らかにタッチ入力向きだ。
 実際、最初のうちは左スティックではうまく筆を動かせず、説明通りに図形を描いたつもりなのに反応しないシビアな判定もあり、失敗作なのでは?とまで思った。
 描画ポイントにスナップする機能なんかもあるとヘルプに説明はあるものの、その時出るマーカーの色が薄く、かなり長いこと存在に気づかなかった。

 だが、複雑な判定ができないゆえの怪我の功名か、使える筆しらべの種類が直線を何本か引く・丸を描く・二点を曲線で結ぶ・適当に塗りつぶすの4つだけに分類できるので、慣れてくると画面に線を引くことで技選択と同時に座標指定も行え、非常に快適に技を繰り出せるようになる。
 もしコマンド選択なら、コマンド選択した後発動場所を画面で指定することになり、極めて冗長となっていたろう。

 ただやっぱり使いづらさは残り、何回かに一度は失敗してしまう。
 失敗したり成功したりもゲームとしては楽しくもあるので、それ自体は問題ではない。
 問題なのはQTE的なシーンとか、ナムコミスタードリラーが地味になったというかアイレムぐっすんおよよのパズルが弱くなった的な下に掘り進むミニゲームなど、時間制限がある場面で筆しらべを失敗すると致命的になることだ。
 道中の仕掛けの踏破や敵との戦闘の難易度が低く抑えられているのに比べ、これら時間制限のあるミニゲームが無駄に難しい。
 メインルートにあるミニゲームで何度か挫折しそうになった。
 これらに時間制限必要だったのか、はなはだ疑問。

 PlayStation Move に対応しているのでWiiと同様にポインタ操作が可能だが、これは試していない。
 Wii版を持っていたのでWiiで試したところ操作感は思ったほど向上せず人によっては悪くなってるぐらいな感じだが、筆で描いている雰囲気がいい。
 PS3版は多分もうちょっと操作感がいいだろうと思う。

操作

 やはり人型でないので、視点の低さ(変更可能)や操作感覚の違いになかなか慣れないし、特にジャンプ後の着地点がどの辺まで許容されるのか、そもそも3Dでのジャンプ操作は距離感が分かりづらいこともあり、最後までピンとこなかった。
 戦闘シーンに入ると周囲が結界で覆われ、操作がガラッと変わるのも最後まで慣れなかった。
 できれば操作もシームレスにして欲しかったが、PS2ではベターなシステムだったとも思う。

 「筆しらべ」で書いた他は、メニューのLRの割り当てがちょっと不適当に感じるところがあるぐらいで、全体的には平均以上の快適な操作を提供している。

 ただ、スタートメニューを選択できるようになるまで、4つの注意書き、3つのロゴ、オープニング、タイトルの計9回のスタートボタンを押してスキップする必要がある(もちろんスキップしなかったら時間がかかる)
 流石にこれはひどい。

難易度

 前述の通り道中は非常に楽に進め、難易度は「カプコンなのに」非常に低い。
 表神器と裏神器の二種類の武器を使い分けられるが、表神器だけのゴリ押しで十分強いので、ほとんど裏神器は使わなかった。

 基本的に体力制だが、異袋という残機システム(ゼルダの瓶詰妖精的な)も併用されていて、なかなか体力切れでゲームオーバーにはならない。
 個人的には最終決戦で「そういえば異袋一回も使ってないぞ」と思ってわざと使った一回きりでクリアしたぐらいだ。
 加えて攻撃力・防御力増強のアイテムなども使用できるが、これも試しに使ってみる以外ではほぼ使わなかった。
 また、自然を復活させると幸玉という経験値的なものが貰えて、それを割り振って体力などの能力を上げることができるが、中盤ぐらいまで何の苦労もなかったので、上げるの忘れていた。
 ここまで難易度が低いと探索を行って主人公を強化する積極的理由が乏しくなり、システムとして成立しているかどうか危ういぐらいだ。

 序盤のチュートリアル的な部分では次の目的地を示す矢印が出て、流石に過保護では? と思ったが序盤だけだったので、ホッとした。
 導入部分は特に細かく相棒の小人イッスンがフォローしてくれるし、その後も新しい展開のたびにツンデレ気味に世話を焼いてくれる。
 さらに巻物によるヘルプや最終的には占い師の予言も使うことができて、メインルートでほぼ迷うことはないだろう。
 ただ、いざ筆しらべなどの行動として行おうとすると、今ひとつどうしていいか分からないことが多く、クリアしてもなんでクリアできたかよくわからない、ということが度々あった。

 前述の通り途中で挟まるQTEや穴掘り、釣りやレースのようなミニゲームが、そんなに面白くない上に難易度が高く、歪な感じがした。

 また筆しらべなどの新しい技を覚えた後など、それを使うシチュエーションの繰り返しは、3回もあれば十分なのに、5、6回場合によっては20回近くとかやりがち。
 全体的に過剰な調整だ。

 加えてクリア後のオプションも含めて難易度選択はなく、これは流石にもったいない。
 難易度ごとにバランス調整が必要なので最初から選ばせるのが得策とも言い切れないが、せめて二週目は少々雑なバランスでもいいので、高難易度モードが欲しかった。

探索項目

 とにかく大量に探索目標(やり込み要素)があり、アイテムが入手できる宝箱はもちろん、3つ集めて体力が上がる破片、はぐれ玉、穴を掘ってみつけるクローバー、枯れ桜を咲かせること、動物へのえさやり、魚釣り、点在する回復してないタタリ場、穴の下の泉、手配書の妖怪などなど。
 加えて、メインルートで必ず集める「筆しらべ」もある…多すぎる!
 種類だけでなく数も多くて次々と見つかるため、見つかって嬉しいより「また取らなきゃいけない」という作業感が高くて探索の気力が萎えていく。
 加えて、画面切り替えで復活するツボなどが大量にあり、とりあえず回復アイテム沢山置いときゃいいでしょ、的なカプコンによく見られる雑バランス調整を感じる。

 思えば、同じく主役が狼(に変身もできる)で年発売の任天堂ゼルダの伝説 トワイライトプリンセスも、探索項目が過剰だった。
 時代の空気が生んだシンクロニシティだろうか。

 PS2やWiiの時点ではセーブ容量的に難しかったかもしれないけど、PS3の絶景版では怪しい箇所にはマップに「マーキング」できるようにして欲しかった。
 できれば動物っぽくオシッコひっかけて。

まとめ

 投入されたシステムをスムースにゲームに結びつける解決策が鮮やかで感心する。

 まず、目を引く和風のグラフィックのレベルが一幅の絵を思わせる素晴らしさなのは誰しも思うところだろうが、それがグラフィックありきではなく、筆しらべをはじめとしたシステムを生かすために使われている。

 また相棒のイッスンの、調べられるものに対するマーカー、情報の整理や助言役、絵による記録、加えて特殊技も持っており、準主役として物語上の牽引役ともなるという、八面六臂の大活躍は、個人的「妖精的な相棒キャラランキング」最上位に食い込む使い方のうまさとキャラ的魅力がある。

 しかし、過剰な探索項目や、分かりづらい説明に加え、イベントの成功失敗演出も分かりづらいこと、戦闘や道中の簡単さに比してミニゲームの難しさなどのバランスの歪さもあり、「名作」と言い難い部分もある。
 エンディングまで50時間ほどプレイしたが、サブクエストなども含め、取り逃がし要素が半分ぐらい残っているような雰囲気でスッキリしないが、前述の通り面倒くささが先に立ちコンプリートする気にもならない。

参考

 そこで結論。

オンリーワンの魅力をもった傑作!