GRIS+

対応機種・周辺機器
Switch / PS4 / PS5 / XBOXOne / Xbox Series X/S / Windows / Mac / iOS / AppleTV / Android
ジャンル
ジャンプアクション
著作・制作
©Nomada Studio/Devolver Digital

基本情報

 GRIS(グリス)はスペインの小規模スタジオNomada Studioが開発したパズル要素を含むジャンプアクション
 要はジャンプを駆使して進んでいくサイドビューの2Dアクションゲームだ。
 ジャンルとしてはジャンプアクションに分類したが、フラットなグラフィック、難しすぎないパズルや操作、セリフに頼らないストーリー、落ち着いた音楽は、ustwoMonument Valleyなんかに近いかもしれない。

 のSwitch版を皮切りに、かなり多くの機種に移植されており、また多くのサブスクリプション・販売プラットフォームで公開されている。
 本記事はMacのApple Arcade版GRIS+をプレイしてのレビュー。
 オリジナルをプレイしたことがないので何がプラスされているのか分からなかったのだが、おそらくアップデートで追加されたギャラリーなどが、クリアすれば選択できるようになっている部分かと思う。

グラフィック

 個人的にはドット絵からポリゴンへと時代が移る時に、(ベクター)イラストをベースにした手法が定着すると思っていたが、ゲームアーツゆみみみっくすなど一部アドベンチャーゲームが採用したり、アクションでディンプス/サミーザ・ランブルフィッシュのようなドット絵とベクターの中間的な手法のゲームがあったものの、すっかり3Dゲームが席巻して時代を作ってしまった。

 本作はかつて実現しなかった、均一な太さの線画に水彩で色付けした、という感じのアートスタイル。
 言うならば Adobe Illustrator で描いたイラストがそのままゲームとして動いたように思わせる見た目を持っている。
 印刷した本のような絵を実現するには、CPU・GPUやメモリなどのマシンパワーが必要だったこともあると思うが、何よりディスプレイの高解像度化が必要だったのだろう。
 なお、本作は内部的に画像をベクトルデータで持っているかどうかは分からないが、かなり大胆に画面全体が拡大縮小されかつ、広大なマップが使われるので、少なくとも類似の手法を使っているのではないかと思われる。

 ゲームが進行するに従って灰色(GRIS)の世界に少しずつ色が付いていくのも、文字通り鮮やかな演出だ。
 敵らしい敵もなく、落下死やトラップもない、ミスによるゲームオーバーが存在しない静かな世界。
 移動スピードがややもすれば「もっさり」と言われてしまうぐらいゆったりしているが、圧倒的なアートのおかげで、ゲームをプレイしているというより美術館を歩いているような感覚になる。

 その美しさは、多くのゲーム賞のアートやアニメーション部門を受賞していることからも分かるだろう。

アクション操作

 ほとんどの時間で左右とジャンプしか使わないシンプルな操作で、アクションの反応も良い。
 クリアを目指すためのルートでギリギリの操作を求める場面はほぼなく、右移動キー押しっぱなしが動画の再生に割り当てられているような雰囲気でしばらく背景が流れていく場面が多い。
 前述のように絵力が強く、加えてタイミング良く奏でられる音と相まって、体験は不快ではない。

 ステージが進むにつれ立方体となって重くなる能力や二段ジャンプを身につけ、そしてオープニングで失った声を取り戻すといった能力の獲得に合わせ、先述したように背景に色が増えていくことで文字で語らずとも主人公が心に明るさを取り戻していくことが伝わる作りは見事。
 セガエコー・ザ・ドルフィンを思わせる水中移動もエイ風の自機の柔らかいアニメーションが気持ち良い。

 キーボードのKに立方体化、Lに声が割り当てられているがキーコンフィグにはなく、画面の表示はコントローラのボタン名しか出ないため、出鱈目にキーを押して調べる必要があった。
 しかもキーコンフィグの表示が薄くて、ものすごく見づらい。
 また、フルスクリーン表示でない場合、操作をうまく受け取れてないようで、ウィンドウの移動すらできなかった。
 全体的に非常に良くできているゲームなので、こんな基本的な部分が雑なのが不思議だが、そもそもAppleはチェックしなかったのか?

マップ

 マップはかなり贅沢に消費されていく。特に何の仕掛けもなく左から右へ通過するだけみたいな画面が多い。
 しかし背景は多重スクロールで進むたびに変化しズームなどの演出も細かく設定されている。
 また小鳥などの動くもの、触れると揺れるものなどが配置されており、インタラクションの密度がある。

 マップはほぼ一本道でちょっと枝分かれしては合流するような作りで、迷うところがない。
 移動可能な場所も分かりやすく、透明な壁はなく(一部判定付けのミスっぽい場所はある)ちゃんと行き止まりには必ず障害物が表示してある。
 迷わないから退屈かと言うとそうでもなく、適度にジャンプや方向転換を必要とする作りになっていて、操作している感がある。前述の右移動キー押しっぱなしに多少変化がついただけだが、緩急が上手くゲームしている感がちゃんとある。
 適度な間隔でパズル的な仕掛けが用意されているので、それも良いアクセントになっている。またパズルの手応えもほどほどで、攻略情報なしで十分クリアできるかと思う。

 このようにメインルートを行ってクリアするだけなら、かなり抑えた難易度とも言えるが、アチーブメント取得を狙うプレイをする場合のための難しめのルートや謎が用意してあって万全だ。

ストーリー

 セリフや文章では語られず、ムービーもプレイの合間に短時間挟まるだけなので、プレイヤーの感じ方次第ではあるが、公式の作品紹介には次のように書いてある。

Grisは人生での辛い体験によって、自分自身の世界に迷い込んでしまった1人の女の子です。悲しみの中で、その薄れゆく世界を旅する能力を持った不思議なドレスをまとっている彼女。物語が進むにつれて、Grisは精神的な成長を遂げ、自分の世界を違った形で捉えるようになります。

 この前提を知っていれば、十分にゲームプレイが物語ってくれるだろう。
 クリアまでの時間が数時間程度なのも良い。

まとめ

 イラストを操作する感覚のアートスタイルは、3Dポリゴンではなくこちらが発展していた世界を想像させるに足る力を持っている。
 それはまた本作をはじめ多数のタイトルが現れているものの未だ発展途上であり、今後主流となり得るポテンシャルを秘めたスタイルとも言える。

 アート寄りのゲームタイトルは、ともすれば「絵と音楽だけは傑作」などと言われがちだが、本作は操作の手触りも丁寧に作りあげ、マップ構成や仕掛けも緩急をつけて、絵的な変化だけでなく能力を獲得することで操作の変化もつけ、興味を途切れさせない作りになっている。
 このため本作は「ちゃんとゲームとして面白い」傑作となっているのだ。

参考

 そこで結論。

ゲームのアートスタイルを拡張する傑作!