相棒というシステム

様々な相棒は、どんな意味を持っているのか

蝶々のあざつながりで、死にすぎ王子と虹の王女、もどうぞプレイしてみてください
いまさらミシシッピー殺人事件が流行るわけがない

相棒

 ゲームには、様々な魅力的な相棒が登場する。

 アクションRPGでは、クライマックスランドストーカーのフライデーや、任天堂ゼルダの伝説 時のオカリナのナビィのように、小さい妖精が相棒となるのがパターンの一つだ。

 邪魔にならないという事で、喋る道具というパターンも多く使われる。魔法の杖や剣が喋ったり、船やポンプまでもがゲームでは喋る。

 SFの場合は人工知能が相棒を担当する。コナミスナッチャーのメタルギア、エニックスジーザスのFOJYなんかが、このタイプ。
 ちなみに、NECホームエレクトロニクスPrivate eye dolのナビは、妖精型人工知能だ。

 今回は、ゲームに現れる「相棒」というキャラクタの持つ役割を、主にメッセージシステム面から分析してみたい。
 幾つかの役割に分類しているが、多くの相棒は幾つかの役割を兼任している。

 本記事では、主に文字コミュニケーションの相手としての相棒を語る。
 セガどろろ、ソニー・コンピュータエンタテインメントICOゴッド・オブ・ウォー(2018)のような主人公についてきてアクションする相棒に関しては、別に語りたい。

文語から口語へ

 初期のコンピュータゲームは描画能力が低く、アドベンチャーゲームでは画面に表示されているものが、絵だけではなんだか分からず、状況説明の多くを文章に頼らざるを得ない状況が存在した。
 そのような場合に書かれる文章は、小説と同様の文語体となる。「」(かぎかっこ)の外の文が主に使われていたわけだ。

 しかし、プレイヤーが入力するコマンドがその名の通り命令であるとするなら、それは口語であり会話である。
 当然、答えるキャラクタが存在しなければいけない。
 ナレーションの場合は、答えているのは誰だ?、という不思議。
 独白である場合は、主人公はプレイヤー自身と考えると、そこで喋っている主人公は誰だ?という不思議や違和感が生まれる。

 ファミコン初のアドベンチャーゲームでもあるエニックスポートピア連続殺人事件には、ヤスという相棒が存在する。
 相棒がコマンドに答えると、これは単なる状況説明ではなく会話の形となる。

 つまりここで、明らかな文語から口語への変化が起きた、と言える。
 話し言葉は一般に親しみやすい。所謂大衆向けの小説の多くは会話を中心としているし、絵本は話し言葉が基本だ。子供をユーザーの中心に据えていた家庭用ゲーム機では、口語が必要とされたのは必然でもある。
 また、文字種とゲームの進化でも述べたが、ファミコンで主流となったひらがな表記は極めて口語との親和性が高い。
 さらに、コンピュータとのコミュニケーションであるゲームプレイという行為そのものが、口語との相性が良かった。
 相棒の第一の存在理由は、メッセージの口語化にあると言ってもいいだろう。
 そしてポートピア以降、相棒は様々なゲームで活躍していく事となる。

命令対象としての相棒

 ヤスの存在は、自分自身への命令から相棒への命令への変化、とも言える。
 これは実に自然な事である。ゲームをプレイする事は画面の中のキャラクタを遠隔操作することに等しい事であるが、主人公=プレイヤーであるとすると、コマンド入力などという、まどろっこしい事をやっているのに違和感がある。
 しかし、相棒に命令しているのであれば、そのまどろっこしさは現実のそれに近いものになる。

 ただ、コマンド=相棒への命令、という作りを徹底的にやっているのは意外に少なく、ほとんどポートピア連続殺人事件の後、同じく堀井雄二によるログインソフト北海道連鎖殺人オホーツクに消ゆで絶後と言ってもいい位だ。
 あんまり最初に凄すぎるもんを作られるのも困ったもんである。作者の堀井雄二本人も含めて、次の展開に困ったに違いない。

 任天堂ピカチュウげんきでちゅうのピカチュウや、SCEJオペレーターズサイドのリオなんかが、希有なこの流れと言える。
 コマンド選択から更に進んでマイクに直接音声で命令するため、口語という面では更に強化されたゲームとも言える。
 音声認識が発達段階である今はまだまだではあるが、命令する相手としての相棒は、これからまた掘り下げが進んでいくのではないかと思う。

ナビゲータとしての相棒

 シナリオを進行させるために「次はあっちに行くんだ」と進行方向を指し示してくれるのが、ナビゲータとしての相棒である。
 逆に、プレイヤーがゲームに用意されたルートとは別の場所に行こうとする時に「依頼はどうするんだよ」とか「そっちは危ないよ」とか言って、ルート上に戻す役割もある。
 こういう柵のバリエーションとしての相棒は、プレイヤーにやらされている感を強く持たせてしまうが、本当に柵を作ってしまうより自然に行動を制御できる。ましてや、全く根拠のない「透明の壁」を作ってしまうよりは数段いい解決法である。

 任天堂ゼルダの伝説 風のタクトでは、船である赤獅子の王が相棒となっている。
 このように相棒が乗り物の場合は、プレイヤーの移動を制御できるので、特にルートを強制する場合に制作者にとって便利である。
 不満がゲームシステムから相棒に転嫁されるだけで、行動を束縛される不満そのものは残るのではあるが、束縛の不自然さに対する不満は解消される。
 しかも、システムの不満をキャラクタへの不満に転嫁できると、キャラの評価が下がるだけでゲームの評価はあまり下がらない。  上手くするとキャラの愛嬌として受け取ってもらえることすらある。

ヒント屋としての相棒

 任天堂MOTHER2はヒント屋という、なんともそのまんまなものを置いていた。お金を払ってヒントを聞けるのである。
 ヒント屋のバリエーションとして、占いというものもある。
 ただそれよりは、相棒がアイディアを出すという形でのヒントが自然であろう。
 MOTHER2の場合は、その不自然さ自体が、名前も含めて面白いわけではあるが。

 探偵ものの事務所にいるキャラクタ、データイースト神宮寺シリーズの御苑洋子や、ワークジャムクロス探偵物語の西山友子は、それほど明確ではないがヒント屋的性格を持っている。
 定位置にいる相棒のヒントは、ヒントをもらうつもりで聞くので押し付けられている感覚が少ないし、仲間からもらうヒントは「敗北感」も少ない。
 また相棒の居場所はセーブポイントを兼ねている事も多く、行き詰まった時にとりあえず戻ってくる場所であるだけに、ヒント屋として有効に機能する。

 さらに、この定位置型の相棒は、情報の整理を行う役目も持っている場合も多い。
 単純に、これまでの出来事を整理して教えるものもあれば、相棒が幾つかの質問をプレイヤーに投げかけ、それに答える事で、それまでに出た情報が確認され整理されるというものもある。

通信を介した相棒

 コナミメタルギアソリッドの通信装置は、町で情報収集などができない孤独な潜入型主人公には必携のアイテムであり相棒と言える。

 一緒に行動している相棒の場合は、様々な要因からキャラクタが制限される。
 通信装置の場合は、相棒を不特定にできるところが妙味だ。
 通信先を任意に複数を選べる(通信チャネル等で)と同時に、そこにいるキャラクタは保証されず、様々な状況の変化で入れ替わる。
 彼女に電話したらパパが出た!みたいな仕掛けができるのだ。

 主人公の知り得ぬ場所の状況が挿入されるという手法は、映画ではアリでもゲームでは極力避けたい。プレイヤーの視点が不自然(不安定)すぎるからだ。
 通信の場合は相棒が主人公と異なる場所にいるので、主人公が知りようの無い情報を入手し知らせる事ができる。
 不自然さを排し、物語を多面的に語るのに優れた手法であると言えよう。

日記に見る相棒

 データイーストヘラクレスの栄光Ⅲのレイオンの日記は、進行のためのヒントとともに物語のまとめとしても、すばらしい効果を上げている。
 セガ魔法騎士レイアースでは、キャラクタ性の強化という意味でも高い効果を上げていた。

 様々なゲームでメモのシステムが用意されたが、相棒の日記という形は、その最も洗練されたシステムの1つと言える。
 プレイヤーがメモをとる必要がないので楽、システム側が用意するので重要な情報を必ず含めることができる、さらに相棒が書くという設定が自然である。

 また、日記は以前に張られていた伏線を確認するのに有用である。
 私なんかは、1時間前に出た伏線も簡単に忘れてしまうので、物語性の高い全てのゲームで装備してほしい程だ。
 これがゲームでなく本なら、前に戻って伏線を読むのは簡単なのに。

ヘルプシステムとしての相棒

 クエストタクティクスオウガのウォーレンや、SCE俺の屍を越えてゆけのイツ花は、ヘルプシステムとしての相棒である。
 ヒント屋とほぼ同じ位置に存在するが、謎解きのヒントではなくゲームのシステムを解説してくれる。要するにマニュアルである。
 本当なら、そういう解説キャラクタなんかいなくてもシステムを理解できる方がいいのだが、複雑化したゲームでは有難い相棒である。

その他の相棒

 RPGの多くは複数人で行動するが、不思議な事にコミュニケーション相手としてのシステムは、あまり発達していない。ほとんどの場合、発言はイベントシーンに終始している。
 ヤスという相棒を登場させた堀井雄二が、RPGで相棒をコミュニケーションの相手として積極的に使う「はなす」コマンドを導入したのはドラゴンクエストⅦになってからだ。
 任天堂ペーパーマリオRPG等も仲間に話しかけるとヒントが聞ける。
 ナムコテイルズオブシリーズではスキットという仲間との会話のシステムがある。
 ゲームアーツグランディアシリーズでは、食事シーンでの仲間との会話がある。
 セガシャイニングフォースシリーズでは、キャンプで仲間に話しかけることができる。
 とは言え、もっと様々な場面でコミュニケーションを取ることができる筈の仲間が、その程度のコミュニケーションでいいのだろうか。
 RPGにおける相棒は、これからまだまだ掘り下げ甲斐のある部分であると言えよう。

 任天堂ペーパーマリオRPGでは、メールという形でヒントが来るが、これは通信というよりヒント屋に近い仕組みだ。
 更に過去のメールが残るため、日記的な役割もある。
 ただ、相棒というべき近しさはメールには感じない。相棒と感じるには、ある程度の即応性があるか、近くにいる必要があるようだ。

 そこで結論。

相棒、それは不自然と不親切を取り除く優れた仕掛け