テイルズ オブ ジ アビス

対応機種・周辺機器
PS2(3DS)
ジャンル
生まれた意味を知るRPG
著作・制作
(c)ナムコ/ナムコ・テイルズスタジオ 2005

基本情報

 テイルズオブシリーズはアニメ風味のJRPG(日本産のドラクエタイプのRPG)のど真ん中という感じのビジュアル。
 しかし多くのJRPGと異なり、戦闘システムが対戦格闘的なアクションゲームとなっているのが大きな特徴だ。
 本作は、シリーズ(本編)の第8作であり、前作はテイルズ オブ レジェンディアである。
 さらに、シリーズの10周年記念作であり、最後の「ナムコ」レーベルでのテイルズオブでもある。
 なお、後に3DSへ移植されているが、この記事はPS2版のもの。

 主題歌はBUMP OF CHICKENのカルマが使われている、…のではなく、真正面からこのゲームのために作られたのがカルマだと言っていいかと思う。このくらいゲーム本編と融合度が高い曲は、シリーズで随一と言っていいし、今後もそういい続けていいだろう。
 ちなみに本作はTVアニメシリーズも制作され、そのオープニングもカルマで、OPとしては異例の長尺で使われていることからも、本作と切り離せない曲であることがうかがえる。
 BUMPの藤原基央はOPの他にゲーム中のキーとなる曲も提供しており、安直なタイアップではないアーティスト側の本気を感じさせる。

 キャラクタデザインは、テイルズオブの看板である藤島康介で盤石の態勢。敵も含めれば、バリエーションに偏りなく主要キャラが配置されている。
 毎回、このシリーズのレビューでは豪華声優陣と書いているが、本作は「僕の考えた最強の声優陣」がそのまま通っちゃったレベルの最強具合である。

グラフィック

 本作は、テイルズ オブ シンフォニアから始まった、3Dグラフィックの流れに乗ったもので、PS2全体のリアルタイム3Dグラフィックの頂点のひとつと言っていいだろう。
 登場する様々な建物や部屋はもちろん、家具や小物の作り込みが尋常ではないレベル。
 なのに、プリレンダ(一見3Dだが実際には単なる一枚絵)や手書き2Dの背景は遠景に若干ある程度だし、ソフトフォーカスでごまかしたりもしていない真っ向勝負のグラフィックだ。
 スタッフもほぼテイルズ オブ シンフォニアと同じらしく、絵に限らず全体にシンフォニアの進化版という感じ。
 シンフォニアがPS2より性能の高いゲームキューブで開発されていたことを考えれば、PS2でそれ以上のものを作っちゃうというのは驚異的だ。

 イベントシーンは、フィールド上の背景やキャラがそのまま使われるパターンがほとんどで、その際、衣装替えしているモデルがそのまま使われるなど、ゲーム中とイベントでの差異が最小限となっている。
 また、2DのRPGっぽい引きでのイベントではなく、寄ったカメラも駆使し、エモティコン(汗とか照れなどの記号)に頼りきらず、レイアウトやキャラの動きで演出しようとしてるのも偉い。
 そもそものゲーム中のモデルが高頭身で品質も良いからできることだ。
 ダイナミックな動きのあるイベントシーンでは、手描きアニメとCGムービーも用意してある。

 本作では漫画のようなフキダシで台詞が表現されており、特殊な用語などにはルビもあり、非常にわかりやすい。
 フキダシ方式は、レイアウトごとに配置や台詞量を調整する必要があり、なかなかに手間がかかるのだが、本作は極めて高いレベルで実装されており、関心しきりだ。

シナリオ

過剰な用語

 フォミクリー、フォンスロット、セルパーティクルなどなどなどなど、とにかく造語のオンパレードで、とてもではないが把握しきれない。
 その世界だけの用語というのは少しなら雰囲気作りに良いが、知識としては雑学にすらならないので、こう過剰だと理解する気が萎える。
 そういう単語で状況説明されても意味がよくわからないので、結果なんのために行動しているんだかよくわからないことに。

 音素(フォニム)、譜術、スコアなどという用語や、背景グラフィックの音叉や楽譜のような意匠、レコード盤的なアイテム、楽器っぽい形の武器と、音楽をシステムに利用しようとしたような痕跡が見られる。
 そのあたりがボツになった(んだと思う)ことで、用語だけが残ってわかりづらさを加速させている。
 逆に、音楽という設定で統一された用語や意匠によって、異世界的なフレーバーが良く出ている面もあるにはある。

 地名が全体に似た響きで、現実の都市をもじるなどの分かりやすさがない上に、ゲーム進行により地図が変わる、と覚えづらいのも困った。

魅力的なキャラ

 シナリオ自体はかなり練られており、テイルズオブベストシナリオとの評価があるのもうなずける。
 主人公のルークは幼いころの記憶をなくし、その後も屋敷の中だけで過ごした世間知らず、というゲーム的には(プレイヤーと世界の知識レベルが近いという)ありがち設定ではあるが、とにかく序盤の嫌な奴っぷりが凄い。
 相当思い切ったキャラ付けだが、最終的にはルークの人間的成長を描けており、博打に成功したと言っていいかと思う。
 あらすじがルークの日記形式で記述されていて、記憶障害のリハビリ的に日記をつけているという理由は納得感が高い。
 本編のモノローグで語られたらウザすぎる心情吐露も、日記ならしょうがないと思えるし、むしろ人の日記を覗き見てる楽しさすらある。

 他のキャラクタも、それぞれやな性格(笑)と後に明かされる背景(どっかで見たなって感じではあるが)を持っている。
 共通して自己の存在意義(アイデンティティ)が問題となっており、そのテーマを複数のキャラを通じて多角的に掘り下げることに成功している。
 「生まれた意味を知るRPG」というジャンル名に偽りなしだ。

 そして主要プレイヤーキャラが6人に抑えられていて、それぞれが濃い内容で語られる。
 ストーリーとは関係ないが、戦闘に使えるのは4人なので、6人全員を満遍なく育てても問題なく進めるのもいい。
 また、敵側キャラの六神将との因縁がしっかり作られており、敵側のキャラも魅力的だ。そのせいでボス戦は六神将との戦闘の繰り返しが多く、バリエーションに欠けるのは残念。

全体の展開

 終盤になると地名を選択して瞬時に移動できるようになり、シナリオの展開がスムースになる。
 終盤になってレベル上げに時間使わないといけないとか、妙に道中が長いところを進まなきゃいけないゲームも少なくない中、本作は怒涛の展開でエンディングまで突き進む。
 若干おつかい(やらされている)感が出るものの、終盤になって進みが悪くなるのに比べたら、断然いい設計だ。
 逆に、それまでは無駄に歩かされるのが面倒臭くて、何度かプレイ途中で放り出してしまった。

 また、フェイスチャットというプレイ中に時々発生する会話シーンは、シナリオの進行時だけではなく宿に泊まった時などに分散されており、一気に発生することはあまりなく、発生タイミングが絶妙だ。

 サブシナリオが豊富にあるのはいいが、多くが最終盤で発生するようになるのは困る。
 前からそうだけど、伏線をサブシナリオに入れるの、ホントやめて。
 プレイが進行することで発生しなくなるサブシナリオも、極力やめてほしい。

戦闘システム

 戦闘シーンはテイルズ オブ シンフォニアの、ターゲットとなる敵とプレイヤーを結んだ線上を移動するシステムを基本としている。
 それにボタンを押しながらだと自由に平面上を移動できるシステムと、術の詠唱中に発動場所を動かせるシステム、そしてオーバーリミッツ(一時的に能力を向上させる)が任意のタイミングで発動できるシステムが加わり、自由度は段違いに高くなった。

 術・技には属性が設定されており、発動地点に属性ごとの円が描かれ、その上でさらに同属性の術・技を使うと強化版となる。
 しかし私は、後半になるまで円の大きさやレベルが貧弱で、うまく強化版を発動することができなかった。
 システムをきちんと理解しないと、次々と大技を重ねていくような戦いになりにくく、少々派手さに欠ける感はある。
 またAIに指示をして属性を揃えるのも面倒なこともあり、このシステムを理解せずにクリアした人も多そう。
 秘奥義に関しては、私もイマイチわかってない。ゲーム中や説明書になんかヒント出てました?
 AIへの指示として「○○属性中心で戦え」みたいなのが欲しかったところ。
 ヘルプキャラであるミヤギ師範を、もうちょっとシナリオにからめて、システムの理解を促したた方が、よかったかもしれない。

 AIの挙動そのものは、極端におかしなこともなく、まずまず信頼できる動きをしてくれる。
 例えば、アイテムの使用を任せておいても「ふざけんな!」と言いたくなるような使い方はしない。

 複数人による操作にも対応しているし、闘技場も当然のように存在していて、そのあたりは万全の作りと言える。

 グラフィックに凝ったためか、各所での読み込みは若干長め。
 戦闘前後も長めだ。ディスク版ウィザードリィをちょっと思い出す。さすがに、そこまで待たせはしないが。
 シンボルエンカウント方式であるので、敵を避けて行ける。そしてレベルが低いまま先に進んでも、割と戦えるバランスになっている。

ゲームシステム

移動シーン

 町はグラフィックが作り込まれている割に、プレイヤーの操作に反応するものが少なく、いかにも読んでくれという看板なのに読むことができない、扉があるのに入れない、といった場面もちょいちょいある。
 また、ダンジョンでは行き止まりに宝箱も何もない、というとこも多くがっかりする。
 さらに、意味ありげな仕掛けがあるけど、解除できるのは終盤になってからというものが多く、かなり長い間、喉に小骨が引っかかったような感覚で、プレイを進めなければいけないのも嫌な感じだ。

 他に、フィールド上に探索ポイントという、材料が取れる場所が設定してあって、集めた材料でアイテムを生成できるシステムがある。
 残念ながら積極的に探したくなるような楽しさに欠けるし、一箇所で数個まとめて見つかるのも雑な感じがする。
 そして、生成されるアイテムも法則が良くわからないし、微妙なシステムだった。

 ダンジョンの仕掛けを、主にミュウというマスコットキャラの能力を使って解決するのは、多くのアイテムを駆使するよりシンプルで良い。
 それに(アクション)RPGではおなじみの、ものを押したり引いたりして動かすとか、スイッチを入れるといった仕掛けを加えて、簡単ではありつつも、やりごたえのあるパズルになっている。

成長システム

 特殊な装備品によって成長の方向性の変更や術・技の強化が可能。割とシンプルなシステムではあるが、装備品の付け替えは正直面倒。
 さらに戦闘中に取れる行動(スキル)が増えるという成長システムがあるが、スキルが多すぎて効果を把握できず、もうひとつ嬉しい感じがしない。
 成長してできることが増えていくというより、できるはずの能力が制限されていて、それが解除されていくという感覚なのもピンとこない。唯一、シナリオ的にも制限された能力を自力で解除していくという設定の、ジェイドというキャラだけは説得力がある。

まとめ

 シリーズ全体の悪癖と言っていいと思うが、2周(再プレイ)を前提として作ってある部分が多すぎる。
 また、称号に特別な効果がほぼないなど、シンプルにしようという気概は感じるが、まだシステム過多に思える。
 料理システムも結局、ただ面倒臭いだけに感じた。

 操作に関しては、戦闘時のボタン設定、カメラワークや配置なども含め、ちゃんとやってほしいことは全部やってある感じで快適だ。
 あえて言っても、右スティックを倒す操作でもメッセージを進めてほしいとか。扉付近での[入る][出る]の表記は[開ける]に統一した方がいいんじゃないかみたいな、難癖レベルのものしかない。

 音楽や映像に加えてシナリオも良く、戦闘システムも練られ、全体の操作感も良い。
 これまで培ってきたシリーズのシステムを引き継ぎ、かなり高いレベルで結実させた逸品といえる。
 色々問題も残ってはいるものの、本作はシリーズで一つ頭を抜けたレベルに到達したと言っていい。

 そこで結論。

テイルズオブの到達点としてお勧めできる、10周年に相応しい傑作