ドラゴンクエストV 天空の花嫁

対応機種・周辺機器
プレイステーション2 ドラゴンクエストVIII映像ディスク付き
ジャンル
ファンタジーロールプレイングゲーム
著作・制作
(c)アーマープロジェクト/バードスタジオ/アルテピアッツァ/SQUARE ENIX 2004

基本情報

 もはやRPGの代名詞「ドラゴンクエスト」。スーパーファミコンで出た、その第5作のリメイク作品。今回も、毎度お馴染みの、堀井雄二、鳥山明、すぎやまこういち、真島慎太郎の面々で作られている。が、プログラムの山名学がいない。
 オリジナルのVは、個人的にはシリーズの中でも好きな方だが、シリーズ前後に比べて売れ行きが芳しくなかった作品でもある。

 ドラゴンクエストも、いよいよ全面ポリゴン採用で、PS2初、スクウェアエニックス初ということで、ドラクエVIIIの試金石としての話題もあった。

操作性

 今回は「ドラゴンクエストVII」のように、マップがポリゴンで作られて、ぐるぐる回すことができるシステムになっている。便利ボタンで樽や壷を持ち上げたりできるのもVII的だ。
 本作の場合はそれに加えて、アナログスティックに対応しているのだが、8方向にしか動けない場面と、もっと細かく移動角度がある場面とが混在して、どうにも気持ち悪い。
 また、VIIと同様に視点が360度動かせる場面と、そうでない場面があるが、プレイヤーとしてはイマイチ納得できないのもVIIと同様だ。オリジナルが固定視点なんだから、この際、視点を左右に振れる程度に統一するか、固定しちゃった方が良かったかもしれない。
 ただし、右スティックでの視点移動は、VIIの時点で対応してほしかったくらいに使いやすい。

 戦闘シーンの味方のステータスが、画面下にひとりずつ分割されて表示されるようになり、メッセージウインドウが、それに重ねて表示されるようになったため、モンスターが表示される範囲が広くなった。
 おかげで、モンスターが上下に並ぶ事もできるようになったし、大きなモンスターを本当に大きく表示できるようにもなった。
 それに加えて、モンスターの数に合わせて画面がズームするようになったので、臨場感が大きくアップした。
 画面下にパーティーのステータスが表示されるのは、敵との位置関係を考えると自然だ。
 しかし、自分のパーティーは「むれ」扱いなのに、ひとりずつ分割して表示されるのは違和感あるし、メッセージが出るとMP等が隠れてしまうのも困る。
 敵を選択する部分が、表示されている敵の近くにそれぞれ表示され、分かりやすくなっている。ただ、表示上は上下なのに、操作上は上下で選べないのには強い違和感がある。

 敵や魔法のエフェクト等、かなり動きまくりだが、呪文のエフェクトと他の攻撃を並列で動かす等して、テンポを崩さないように工夫されている。
 しかし、戦闘の開始終了のインタフェースやタイミングに、多少問題を感じた。読み込み自体は早いのだが、読み込んでるのを意識させてしまっている。
 他にもマップの読み込みで画面がぶれる等の、らしくない作り込みの甘さも感じられた。

 新しく導入されたシステムのモンスターボックスと名産品博物館の操作に、かなり難がある。堀井雄二は、ここをちゃんと監修したのか疑わしい。
 具体的にいえば、ドラクエでアイテムを目の前に置く場合、[どうぐ-つかう]で行うのが当たり前なのだが、博物館では[しらべる-おく-どうぐ]というイレギュラーな方法で行われる。
 全体がこんな感じなら、ドラクエを名乗っちゃいけない位の変なインタフェースだ。

 後、左スティックを押す事で、決定や便利ボタンの役割になるので、かなりのプレイを片手で行うことができるが、やっぱり便利ボタンはLトリガに配置してほしい。
 買い物の時にアナログスティックを使うと、入力方向がちょっとずれただけで、9個買っちゃいそうになっちゃうのにはイライラ。
 これは「ドラゴンクエストIV」のリメイクでも指摘したが、メニューに次のページがある場合に出る矢印のデザインが浮いてて、すんごく気になる。
 とかまぁ、あちこちで微妙にインタフェースが洗練されない部分を感じる。

 イベントや宿に泊まるタイミングで、勝手に並び順が変わってしまうのは不愉快。バグと言っていい位の悪仕様。

 全体的にドラクエシリーズで感じる快適なインタフェースに、よく分からないノイズが乗ってしまっているのを感じ、終止違和感を持ちながらプレイした。
 もしかしたら山名学という才能は、インタフェースの作り込みに、一番発揮されていたのかもしれず、ドラクエの快適な操作感覚は、堀井雄二が作り出したものではないのでは、と本作をプレイして感じた。
 実際はどうだかは分からないが。

ストーリー

 ドラゴンクエストの中でも出色と言える、親子3代に渡る感動的なストーリーだが、喋らない主人公でドラマを語る事の難しさも感じた。
 SFCのオリジナルに比べるとヒロインであるフローラのエピソードを増やしてはいるものの、もうひとりのヒロインのビアンカ(幼なじみ)を選ばず、フローラ(富豪の娘)選ぶと「金に釣られたみたいで罪悪感がずっと残る」のは相変わらずだ。
 導入部、主人公は父につれられている子供という立場で、かなり行動を制限されている、ゲームのチュートリアルとして有効に働いてはいるものの、行動がプレイヤーの自由にならないことにイライラするのも確か。他にも、全くプレイヤーの自由にならないイベントが幾つか挟まれてたりして、自由にならない立場をリアルに体感させてくれる。
 このあたりは、体験するメディアならではとも言えるが、不快な体験はあんまりさせてほしくないというのも実感。

 さて、今までのシリーズと同じく世界を救う物語ではあるものの、父がおり妻がおり子供がいるという全く子供向きではない設定を使っている。ぜひ、中年以降の人や、前作をプレイした時にまだ子供だった人に、遊んでもらいたい。
 時が過ぎる事により世界が変わるだけでなく、主人公の立場が「子供」「夫」「父親」と変わる事で、多角的な視点が生まれ物語に深みが出ている。
 世界を救うという現実感の薄い目標もあるが、母親探しという身近な目標も設定されていて、家族を意識させる。
 IVを除いては、敵の掘り下げが浅いというドラクエシリーズの問題もあるが、ドラクエでは一番好きな物語だ。

 ただ、ゲーム的には過ぎた時代や立場には戻れず、痛し痒し。
 その反省からか、ドラクエVIでは夢と現実を、VIIで過去と現在を、自由に行き来できるようになった。
 また本作は、RPGでストーリーを語ることの限界点(もしくは堀井雄二自身の限界点)を痛切に感じたタイトルだったのでは無いだろうか。堀井雄二作品の物語密度は本作を頂点とし、その後下降して行く。
 例えば「クロノトリガー」や「ドラクエVI」では、物語も持ちながらもキャラクタ指向が強くなる。

テキスト

 今回は、VIIで好評だった仲間に話しかけるシステムが新たに導入されており、特に子供たちの台詞がイカしている。ことあるごとに話しかけまくりだ。もー可愛い過ぎるので、コマンドに「なでる」が欲しい位だ。あったら意味なくなでまくりだっ!
 前作では何で居るんだか分からない位影の薄い「ピピン」も存在感を増した。仲間を変えるだけで印象の違う旅ができる。
 ただ、連れて行けるキャラクタ数が多いので、全部台詞を見ようと思ったら、かなり面倒でもあり、善し悪し。

 細かい事だが、「しれない」と「知れない」、「いがい」と「意外」のような、用字の不統一が気になってしょうがない。SFCの時も気になったが、今回リメイクするにあたって、どうも元々あった台詞に関しては完全移植のようだ。漢字が使えるからって、無理に使わなくてもいいんだからー、らー、らー(エコー)

グラフィック

 背景は勿論、キャラクタやモンスターもポリゴン化されているのが、大きな変更だ。アニメーションも含め、非常に良くできているが、微妙にリアルに傾き過ぎかもしれない。
 また、解像度が高いこともあり、逆に寒々しさを感じないでもない。
 PSで作られたVIIと直接比べると、確かに奇麗にはなっているののの、真島慎太郎的なドットギリギリな技を感じられなかった。

 イベントシーンも、全てリアルタイムポリゴンで作られているので、本編との違和感は最小限だ。
 踊り子の動きが、妙に気合いが入っている。

 室内は柱や梁を残して、手前の壁だけを抜いて表示する、というのは自然な表現で分かりやすい。
 細かく作られた調度品と併せて、ドールハウス的な面白さも感じる。

 オリジナルのSFC版が、そもそもキャラクタが大きくてマップが狭く感じる画面バランスだったが、本作でも特にダンジョンでは、奥行きがあるにも関わらず、見える範囲がほぼオリジナル通りのようだ。
 このためダンジョン構造自体はシンプルでも、シリーズの他の作品に比べて少し迷いやすい。
 鳥瞰視点でマップが表示されるRPGとしては、もう少し引いた方がいいかとは思うが、ゲームの根幹に関わる変更を、リメイク版で行う訳にもいかないのも確か。

 また、背景がリアルになったため、柱に引っかかったり、階段を見た目の方向から登らなければいけなかったり、判定もリアルになっている。
 3Dになったため、マップの分かりやすさが減ったのも、ちと痛い。特に下り階段を見落としやすい。
 ここらへんは、快適なプレイのためにウソをついて良かったろう。

システム

 本作ではIVに引き続き、主人公以外のキャラクタが自分で判断して戦う、AI戦闘システムが採用されている。
 IVのAI戦闘システムが不評だったため、プレイヤーがコマンド入力できる、めいれいさせろ、が導入されたが、主人公=プレイヤーである性質が高いドラクエでは、AIを強化する方向で進化してほしかった。PS2のパワーがあるにも関わらず、SFCのVと比べて、進化したように感じないのも、オヤ?という感じだ。プログラム的に回避不能とは思えない、不適切な行動をとる事が多い。
 リメイク版では、VIIと同様にキャラクタごとにさくせんが指定できるようになったのが救い。

 また、IVの一章の「ホイミン」のように、モンスターが仲間になるシステムがゲームの中心となった。敵を改心させて味方にするカタルシスもあり、モンスターが戦うシステムはAIとの相性もいい。
 SFCに比べ、パーティー人数が4人に増えてモンスターを入れやすくなり、さらにシステムが有効に機能するようになった。
 ただ、会話システムとの相性が悪く、会話を楽しみたいならモンスターを入れられず、モンスターとの戦いを楽しみたいなら会話ができず…。

 ドラクエシリーズの例に漏れず、本作もバランスがよく、タイミングよくレベルアップし、レベルアップすると確実に強くなった事を感じるし、もう少し金を貯めると買えそうなアイテムが店には並ぶ。
 ただ、ドラクエのリメイク全般にいえるのだが、4人になった事や強力なアイテムが手に入りやすいこと、さらにはふくろにアイテムを事実上無制限に持ち歩けることもあって、戦闘の手応えが無くなっている。先に進めるか不安になるほどの強さのIIに比べると、オリジナルのVもさほど厳しい訳でもなかったので、もうちょっと手応えのあるものにしてもよかったかと思う。プレイそのものが「ガンガンいこうぜ」な私も、珍しく全滅することもほとんどなく最後までプレイできた。

 リメイク版の新要素のすごろくは、ドラクエのリメイクは勿論「いただきストリート」にも入ってたりして、堀井さんが推しているっぽいが、運要素が高過ぎてもう一つ楽しめない。
 そもそも、この手のボードゲームは、複数でプレイできないと空しい。

 同じくリメイク版の新要素、名産博物館は、邪魔にならない程度に世界を広げる仕掛けとして、それなりの働きをしているかと思う。ただ、モンスターを仲間にすることがゲームの骨になる本作では、VIIにあったモンスター牧場を入れて欲しかった。

関連:アルティメットヒッツ ドラゴンクエストV天空の花嫁(廉価版)

 そこで結論。

「世界のためから家族のためへ、ドラクエの物語はここに頂点を極める」


2006-08-10