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性格だけでなく容姿までもが変わる多層人格を主人公とした、サイコホラーというかスプラッタアクションな感じの世界観。
トゥーンレンダーで描かれる、アメコミディックトレイシー的スタイリッシュな世界。
そして24人のビリーミリガンを思わせるサイコパスな世界。
なお本作は、カプコンの「ゲームキューブ独占5タイトル」のうちの1つとして発表されたものの、開発が遅れに遅れ、結局はPS2版と同時発売となった、曰く付きの作品でもある。
システム全般に、バランスの異常性を感じる。
普通に考えたら、単にダメなインタフェースだったりバランスだったりするが、良くできている部分とのコントラストがいびつなので、「もしかして狙ってるんじゃないか」と思わせる。
ただまぁ、有り体に言えば、分かりにくく、使いにくく、不愉快だ。
例えば、オプションの設定がセーブデータに記録されない(コナミメタルギアソリッドもそうだったのだが、まったく意味不明だ。メリットが思いつけない)
キャラがパワーアップしたのに、ほとんど使うシーンもなく終わったり。
単なるクソゲーのようにも思えるが、インタフェースは妙に気持ちよく動いたりして、どこに着地したいんだかよく分からない。
全編に漂うチグハグ感。
ひとつ言える事は、
当たり判定が異常に厳しい割に、回復や復活が容易にできたりして、バランス調整やったのか怪しい位。
特に簡単(ゲーム中の表記では「敢闘」)モード時のヒントがあまりに露骨で、そこまで言っちゃうなら、そもそも謎なんて用意する意味あるのか?、というレベルで、強烈な作業感がある。
逆に難しい(ゲーム中の表記では「死闘」)モード時は、簡単モードでも当たり判定が厳しかったアクションモードが、むやみと難しくなる。
難しいモードのヒント + 簡単モードのアクションにしたら、ベストでないにしても大分バランスは良かったかと思う。
カプコンの海外ゲームのローカライズで顕著だが、簡単に調整する際に大量に回復薬を置いたりとか、調整が大雑把なところがある。
「体力が不足してるんじゃなくて、足場の判定がシビアすぎて、ジャンプで渡れないんだよ!」と言いたくなったりする。
そのノリがグラスホッパーマニファクチャー制作のバランスをカプコンで調整する際に起きてしまったようだ。
システムで特徴的なのは移動方法で、3Dで構成されたマップ上に設定されたレールを移動するようになっている。進めないところが明解なのは分かりやすくもあるが、画面上進めそうな場所に進めないのはイライラする。何かレール上を移動する
これが1方向限定だとガンシューティングっぽいが、分岐もあれば任意に後退もできる。ワープ「Dの食卓」が近い感じか。
曲がりくねったレールの上を移動しているので、かなり方向感覚が乱される。
分岐は放射状に表示されアナログコントローラで選択する方式なのだが、選択する時点でどの方角を向いているのかよく分からなくなっているので、どっちの方角に進もうかと思って選択すると言うより、分岐の場所を暗記して選択するといった進行になる。
せめて分岐以外では方角が変わらないような作りになっていたら、方角を変えるのは全てプレイヤーの意思となって分かりやすいのだが…。
分岐の選択時に右下に小さい画面が表示されるのも意味不明。
マップを見る事もできるが、現在位置が大まかなエリアでしか表示されないので、現在地を知るという目的では、それほど役に立たない。
また、画面上にコンパスは表示されるが、自分の意思とは異なる方向転換が続くので、方向感覚が相当乱されてしまうのに変わりはない。
もうこの際、任天堂スーパーマリオブラザーズのように、一方向にしか進めないという割り切りをした方が良かったのではないか、とそこまで思わせる。
ただこのゲーム、(見えない)レール上を移動するシステムを使う事で、プレイヤーの感覚を狂わせようと狙っている節がある。
多層人格という言葉を無視すればシステム自体はルーカスフィルムマニアックマンションと同様の、キャラクタ切り換え型アドベンチャーゲームである。
それぞれのキャラにしっかりとしたストーリーが用意されているわけでもなく、ほぼアイテムの入れ替えのような扱い。
1人の人間が7キャラに変身するという設定なので、別行動を取れるわけでもない。
こうなってくるとなんで7人のキャラクタを用意したのか、というところから理解し難くなってくる。
スコープやジャンプブーツを装着する、とかでいーじゃん!!
そもそも、7(+1)人は多すぎる。
多重人格を使う事が前提としてあったが、最終的なゲームのルールとして落ち着かせる事ができなかった、という雰囲気だ。
「笑う顔」と呼ばれる敵は不可視で、攻撃するにはまずスキャンを行い視認可能にする必要がある。…この一手間は単に面倒くさいだけに思える。
意図としては、慌てていても対処できるような操作にしておくと敵が怖くないのでワンクッション入れたかった、というところかと思うが、慣れるとやっぱり面倒なだけに思える。
更には、銃を構えるのにも1アクション必要で、なんというか…面倒くさい。どちらか一方だったら面白いと感じられたかもしれないが。
また、敵の攻撃パターンは色々あるが、結局はゾンビみたいに近寄ってきて、最後は自爆するという単純なもの。
上記のようにレール上を移動するシステムであるため、逃げる方向が固定されていて、なんとも不自由な感じだ。
一応、敵が自爆する際に、タイミング良くボタンを押す事でカウンターアタックを出せるのだが、ゲーム中とマニュアルとで押すボタンの指示が異なる(マニュアルの誤植で正解は△ボタン)上に、タイミングシビアなのかなかなか成功せず、中盤まで思うように出せなかった。
ただ、カウンターアタックを確実に出せるようになると、圧倒的に簡単になってしまうバランスブレイカーな技なので、マニュアルが誤植していたおかげで、個人的には多少楽しめるゲームになっていた。
イベントシーンでは、思わせぶりだが意味不明なストーリーが語られる。
何というか、不安な気持ちを増長させるばかりで、もう一つ先を知りたいという欲求を喚起しない。
イベントシーンも本編と同じトゥーンレンダリングのムービーで展開される場合と、手描きのアニメで展開される場合があり、その質感が余りにも違うため、イベントシーンが本当にあったのか、プレイヤーキャラクタの妄想なのか、よく分からなくなる。
現実か虚構か混乱するのは狙っている節があるが、ゲームで疑心暗鬼を産む演出は据わりが良くない。そこも含めて狙ってるようではあるが…。
だいたい映画七人の侍みたいなタイトルなのに、いきなり7人が全員揃っているっていうのも、ちょっと意味が分からない。
まず、チームものはチームが揃うまでが「一番」面白いのに、それを捨てちゃっているのが「何のために7人用意したんだよ!」と言いたくなる。
そして、ゲーム的にも最初から選択肢が多いと、面白いと思うより先に「面倒くさい」と思われてしまう。なにせ7人分の特性を理解しないと使い分けなどできないのに、キャラの特性の理解以前にゲームシステムの理解ができてない序盤で7人出しちゃうってのが…何をしたいのか。
難易度を高く設定したいのかと思いきや、ちゃんとチュートリアルがあったりするし。ヘルプも用意されている。
ただ、このヘルプもいきなり大量の情報を用意するあたり、バランスが大雑把である。
英語音声に日本語字幕というスタイルで、英語の言い回しと日本語の漢字とルビと絵文字の字幕のズレで楽しめるようになっているようだけど、…そうやって楽しめる人ってどのくらいいるんだろうか…。
雰囲気作りで英語である必要がある思ったんだろーなー、とは思うけどエフェクトかけてあるので聞き取り辛いし時間がかかるんで、かなりイライラした。
ちなみに、英語音声で雰囲気作りってのは、トゥーンレンダリングされた画像と相まって、セガジェットセットラジオを思い出した。
下に表示される字幕の「殺」「死」の部分だけ赤く、トゲがううごめくアニメーションがあって、これはなかなか面白い演出。
キャラや台詞の面白みはあるが、それぞれ勝手にやってる感が強く、全体としては散漫な印象。
ゲーム中に低い音が絶えず流れるため、非常に体調が悪くなる。
この気持ち悪さは、任天堂エターナルダークネス -招かれた13人-を思い出した。
移動時のカメラワークがシステム任せなので、運転手でなく長時間車に乗ったような感じで、車酔いのような気分にもなる。
個人的には、これのせいでかなり評価が落ちたというか、良いと駄目を分ける分岐点で確実に駄目に転がった。
敵の出現を音声によって知らせるので、音を消すわけにもいかず…。
本作はファミ通のプラチナ殿堂入りになっているんだが、「このスタイリッシュアクションが理解できないって言うと馬鹿にされそうだから点数やっとく」的な、裸の王様状態で殿堂入りしたんじゃないかと疑ってしまう。
そこで結論。
独りよがりとチグハグ感が半端ないが、そこに可能性も感じる
2012-05-09