本との離し

『今後どのようにして人は紙離れを起こすか?シミュレート』

 さてさて、紙憑かりのところでも書きましたが、どうにか紙を無くさなきゃいけません。
 紙の本から、電子の本への移行がどのようにして起こるのか、そのへんの過程には様々なケースが考えられます。
 私としては、検索・情報抽出の容易さ正確さ速さ、そしてリンクと言う概念の持つパワーから電子本が便利だと目覚めると期待したいのですが、ちょっとそりゃないかなと思う今日この頃です。
 そこで別の方向を考えてみました。では、以下そのストーリーをどうぞ。

「空前の自費出版ブーム到来」

 あんまり来て欲しく無いんだけど、一度はやんなきゃいけない通過儀礼みたいなもんで、これが来る。
 猫も杓子も本を出す世の中になる。切っ掛けは、低価格の自動製本システムだ。両面印刷プリンタを使い、中とじ式の本が作れると言うやつ。仮にブックプリンタと呼びましょう。
 まずマンガ同人誌界で火が付く、会場で印刷できちゃうシステムが大ウケです。はい。
 それで大人の皆さんは、背表紙付きの本を求めるんですが、これが恐ろしいことに中とじ本ブームの半年後に開発される。称えよ日本の技術力。
 誰も彼もが、自分史やら、絵本やら、愚にも付かないものを本にするわけですな。そこで起こるのが「本の価値の崩壊」です。
 まず著者の価値の崩壊です。今はまだ、本を出したとなると、けっこう先生様なんだけど。世の中先生様だらけで「ぜんぜん価値無し」となる。
 次に、市販の本と言うやつの価値が、がくーんと落ちる。お家で執筆から印刷・製本まで全部できて、その質と言ったら(才能のあるやつが作れば)市販の本と区別が付かない、ともすれば、お家で出版の方が良かったりする。

「なんだよ、ぜんぜん大手出版だからって有り難くねぇ」

ってことになります。もちろん、それらの本のほとんどは、箸にも棒にもかからない全くのつまらないものです。だけど、凄い本を作れるポテンシャルがあるシステムが、家庭内に作れるのは事実だったりします。これが重要。
 ほいで、本をガンガン作ったみんなは思う訳です。「沢山の人にみせてぇぇぇ」とね。まぁ「沢山売って金持ちになりてぇ」かもしれません。どちらにせよ、個人ではどうしても流通に乗せることが出来ない。本は作っただけではダメで、読んでもらうためには大量生産し、流通に乗せる必要がある。ブームの当初は誰もそんなことに気付かずに「自分の本」が作れることに浮かれる訳ですが、まぁ、よほどのアホで無い限り自分の本は、流通に乗らない限りしょせんオママゴトだと気付く。
 で、もう一つ気付く訳です。

「何だ、オンラインなら、流通も生産もタダじゃん」

というわけで、オンラインで、製本直前のデータを配付しはじめる。
 皆は、自宅のブックプリンタで、製本するわけです。この流れに大手の出版会社が、印刷会社とのしがらみからなかなか移行できないのだけど、ソフトバンクやアスキーなどの、ワカゾーどもがガンガン参入する。
 東京にシェアを奪われて悶々としていた、地方出版社も次々と参入し、著作権切れの小説なんかをガンガン売り出す。というかタダで配付。
 もーみんな本屋になんかいかない。大手出版社ピーンチ。2社ぐらい潰れる。
 ごこまできて、やっと消費者は気付く。

「本にしなけりゃ、紙代かからなくて安くつくじゃーん」

 個人的には、いきなりこの結論に達して欲しいのだけど、物以外に価値を見い出すのに、これだけ遠回りしなきゃいかんのではなかろうかと予想するわけです。つまり一旦、紙(本)の価値が地に落ちる必要がある。

物質転送機の発明?

 てなわけで、紙が無くなるには、相当な遠回りが必要であろうと考えられます。実際は、さらに数ステップ必要になると考えた方がいいと思います。
 紙の本にも少ないながらもメリットがある訳ですから、完全には無くならないと思いますが、現在の「石版」と同じぐらいのレベルまで目にしなくなると思います。

「たぶん、このストーリー当らないと思う」

わはははは。


2000-01-13