バーチャル国家

『インターネットによって、ますます国家間の壁が薄くなっている今日この頃、未来の国家はどうなっていくのだろう』

 なんてことの無い、平凡な九州は佐賀在住のサラリーマン一家、陣内(じんのうち)さんのお宅。

「ハル子、ハル子、ちょっとそこに座りなさい。近頃お前プエルトリコなんだってな。
 母さんから聞いたよ、お前どういうつもりなんだ。日本人らしくだな・・」

「えー、マジィ。お父さんまだ日本人なの、ヤス子のお父さんなんかトリニダードドバゴなのに、せめてフランスぐらいにしてよぉ」

「なんだと、私たちは日本人なんだから、日本国籍を持って当然なんだ」

「お父さん、本気でいってんのー。お兄ちゃんなんかソマリアなんだから、そんなこといってるのお父さんだけだよ」

「なっ、タカオもか!!
 おまえ達いつから日本人じゃなくなったんだ、お父さん気づかなかったぞ!!」

 ハンドヘルドコンピュータを片手に、妻トミ子がとんとんと、階段を下りてくる。

「あらどうしたの?それよりみてみてアナタ、あたし今日からオーストラリアンよ、オーストラリア人だと、オージービーフが安くなるのよ、それに所得税だってずっと安いし」

「トミ子、おまえまで・・・」

 ひっくり返るお父さん。

「あら、やっぱりイタリア人のままが良かったかしら」

 てな社会が、もうすぐあなたの目の前に来る、かもしれない、なんて大胆に予測しちゃったりする。

あんたなに人?

 そもそも国なんてモノはなんの実体もないものだ。「バーチャル国家」なんてタイトルをぶち上げているものの、国はそもそもバーチャルなのだ。
 あなた国に触れますか、国を見ることができますか?

 純粋な情報と言うやつは、金であったり、宗教であったり、惚れたのハレたのなんてのも、実体の無い情報ってやつで、これについては「見えないものは怖い」に書いたことに通じるところもある。

 しかし、以前書いたものでは実体のあるものもあったので、そう言うものについては、まだ扱いやすい、実体を特定できるからだ。

 純粋な情報というやつは、それらのものに比べるとまっことたちが悪い。そのモノが何であるかが特定できたと思っても、また違うモノに変容してしまったり、違う属性が付加されていったりする。

 一つの国に住んで(属して)いても、時事刻々とそのモノは変容していく。

 それなら、自分から積極的に国を変えてもいいんじゃないの?

 というわけ。

 以前から船籍なんてものは、持ち主の国籍にかかわらず、税金的に有利だったり、他に優遇措置があったりする国のものになっている。
 「ギリシア船籍のタンカー」なんて言葉を見たり聞いたりしたことがある人も多いことと思う。あれはそう言う理由がある、ギリシアって結構船で儲けているらしい。

 インターネットの事も考えてみればそうだ。サーバなんかは利用者にとって何処に存在しているかは全くどうでもいいことだ。サービスのよい所だったら「火星にあったっていい」
 実際カリブ辺りの国では、サーバ管理を国の事業にしようというところもある。東南アジア辺りでもかなり盛んだ。

 もはや、多くの人のデータは「特定の国籍を持たなくなってきている」
 このへんで、持ち主の方も国籍を変えてもいいんじゃないだろうか。

 そこで結論。

「コラ日本政府っ!今のうちからいい政策打って海外にアピールしておかないと、日本国籍なんぞ誰も持たんぞ!」


1997-07-25 1998-01-29