|
新宿に似た「神室町」を舞台とした、ヤクザの抗争を描く、アクションアドベンチャー。
子供の遊びとして作られてきたゲームも、遂に任侠の世界へと踏み入れた!
声優は、渡哲也や三原じゅん子、藤原喜明をはじめ、役者を中心にキャスティングされており、作品のリアリティを支える役割を担っている。
ムービーシーンでは、台詞の音声と画像の口の動きがシンクロするリップシンクが施され、細かい部分までの作り込みがなされている。
基本的なシステムは、傑作「シェンムーII」をさらにブラッシュアップしたもの。
町の中を移動し、会話し、喧嘩して、ストーリーを進める。
このシステムは、一旦Rockstar Games「グランド・セフト・オートIII」に取り入れられ、それがセガに逆輸入されたという経緯を辿っているように見える。
その際、Spectrum HoloByte「Vette!」から続く車の部分をバッサリと切ったことにより、「シェンムー」の正当進化としての位置を手に入れたのが、本作「龍が如く」だ。
戦闘は、セガ「スパイクアウト」を彷彿とさせる格闘アクションで、非常に良くできている。
もう少し作り込めば、単体でアーケードゲームにできるんじゃないか、という位。
看板や自転車など、そこらにあるものを武器にして戦うことができるのは、セガ「ダイナマイト刑事」を思い起こさせる。
遡れば、テクノス「熱血硬派くにおくん」やカプコン「ファイナルファイト」などから続く、不良のストリートファイトゲームの系譜に位置する。
特に「熱血硬派くにおくん」シリーズは、RPGの要素を大きく取り入れた「ダウンタウン熱血物語」をリリースりしており、言ってしまえば、くにおくんを3Dにして、主人公を学生からヤクザに変えたのが本作と言っても良い。
キャッチコピーも「ゲームに飽いた人たちへ。」で、一見、突然変異的に現れたゲームだが、従来のゲームの良くできた部分をしっかり受け継いでいるのが本作であり、それがゲームとしての足腰の強さ、安定感となっている。
大抵のゲームで、武器に使用回数が決まっているというシステムは、単に面倒くさいだけだったりするが、本作ではストリートファイトっぽさの演出に繋がっていて、高い効果を上げている。
基本的に素手が強い事と、その場に置いてあるものを武器にできる事も、武器が壊れることが面倒に直結しない理由となっている。
経験値をためて、レベルアップする事により、少しずつ技を手に入れていくので、少しずつ操作に慣れていくことができる。
また、回復アイテムを沢山持っていけるし、手強いボスのいる場所には回復薬や武器となる置物が配置してある。
更に再挑戦3回を行ってもボスが倒せない場合、難易度を落とす事もできる。
これらの工夫で、全体としての難易度はそう高くない。
途中で、セガ「パンツァードラグーン」を彷彿とさせる銃撃戦が挿入される。
これは「バーチャコップ」をはじめとして、ガンシューティングの名作を作ってきたセガらしくなく、作りの粗さを感じさせた。
標準以上のできではあるが、ターゲットのマーカーのデザインが非常に分かり辛く、無駄に難易度を上げている。
個人的には、上下操作を反転できなかったのが辛かった。
後、ガードやシフト移動といった、頻繁に使うボタンはL1、R1でなく、大きなL2、R2に配置して欲しかった。
現代を舞台にしたRPGで問題になるのが宝箱をどうするか、という事だ。制作者としてはマップをよく見た褒美としてアイテムを与えたいわけだが現代では、そのために宝箱を置くわけにはいかない。。
アトラス「女神転生」シリーズでは、ゴミ箱を漁るという事を宝箱の代わりにしていたが、「伝説の極道」がゴミ箱漁りをするのはありえない。
そこで本作で登場する、「コインロッカーの鍵」というシステムは素晴らしい。
箱がそこらにあるのは不自然だが、鍵が落ちているのなら不自然さは殆どないし、ゴミ箱を漁る格好悪さも無い。これは発明だ!
現代を舞台にした際に問題になるものの一つとして、フィールド制限の方法がある。
実際のように、どこまでも安全に歩いていけるようでは、ゲームとして困るのだ。
本作では、内語により自主的にエリア外から戻る、パートナーがいる場合はルートから外れている事を指摘する、工事中であったり、車や人ごみで通れなくする、といった方法が取られている。
それらと同時に理由も無く進めなくなる「透明の壁」も結構多く使われており、現代を舞台に箱庭を作る事の難しさを感じさせる。
カメラ位置が固定で場所によって変わる。これはカメラ切り換え時の操作に戸惑いがでやすいシステムである。
本作ではカメラ位置の変更と読み込み箇所が同じであるため、読み込み中に一旦スティックをニュートラルにしてカメラ変更に備えることができ、比較的快適に操作できる。
町をうろついて不良やらチンピラを倒してレベルアップという仕組みは、「シェンムー」よりRPG的になっている。
そして街中で発生するサブクエストの豊富さは、セガ「レンタヒーロー」を思い起こさせる。
ミニゲームとしてバッティングセンターやUFOキャッチャー、さらにはキャバクラが用意されており、本編が進行しないときの息抜き的な遊びに力が入っていて、アドベンチャーゲームで陥りがちな「何もする事がない」状態を上手く回避している。
ゲームは遊びであり子供をターゲットとするのが基本であったが、2000年代となりコンピュータゲームに拒否感がない世代が成長し大人(30代40代)になってきた事から、ゲーム開発会社は、子供には一切売れなくてもいいゲーム、という選択ができるようになった。
そこで、主人公の年齢も高く、暴力・裏社会について描くゲームも作れるようになってきた。
近い雰囲気を持ったものでは、データイースト「探偵 神宮寺三郎」シリーズが挙げられるかと思う。しかし、主人公はアウトローとは言え探偵、秩序側ではあった。
本作の主人公は「伝説のヤクザ」であり、どー考えても秩序側ではない。発表時には、いよいよゲームもこの段階に来たか! と心ときめいたものだ。
少女を連れ歩くシーンがある。これは「子連れ狼」や「レオン」でお馴染み、ハードボイルドに子供、実は定番と言っていい。
その他、任侠もの、ハードボイルドものの定番を惜しげも無くぶち込んだシナリオで、暴力シーンも容赦なく、堂々のCEROレーティング「18歳以上」(後の廉価版では「D(17歳以上)」)でリリースされている。
シナリオ監修に「不夜城 」の馳星周を迎える事で、セリフ回しの格好良さ、細部のリアリティ強度を手に入れており、実に良く浸らせてくれる。
作中には「ドン・キホーテ」やサントリー「山崎」等、スポンサーとのタイアップがなされており、これもまたリアリティを高めている。
とは言え、本作はリアル一辺倒というわけではない。
例えば車のゲームでリアルにしていった結果、コースを一周回るのですら苦行であるとか、資金集めのためにレースにでる事すらおぼつかないとか、そんなリアルさは本作には無い。
食事を大量に取っても腹いっぱいになったりはしないし、逆に食事をとらないからといって力がでなくなったり、ましてや死んだりする事は無い。
物語のキーとして登場する100億という金の桁もリアリティはないが、そのハッタリがこの世界でのリアルとなっている。
本作では「任侠というファンタジー」を存分に活用した、実際とは異なるリアルを演出しているのだ。
そこで結論。
「新ジャンル、任侠ファンタジー、を作り出した名作」
2012-04-29