朧村正

対応機種・周辺機器
Wii(ヌンチャク・クラシックコントローラ・ゲームキューブコントローラ・SDカード対応) / PS Vita
ジャンル
絢爛絵巻和風アクションRPG
著作・制作
(c)マーベラスエンターテインメント/ヴァニラウェア 2009

基本情報

 プリンセスクラウンそしてオーディンスフィアと、サイドビューのアクションRPGという割とニッチというか、ほとんど絶滅危惧種なジャンルを作り続けてきた神谷盛治が、Wiiをプラットフォームに和風の世界観に挑む。

ストーリー

 忍者「鬼助」と女剣士「百姫」のストーリーが用意されていて、物語的にはそれぞれのキャラで目的は異なり、ゲーム的には、全国に散らばる妖刀を集めまた鍛造し、究極の「朧村正」を手に入れることが目標になる。
 ゲームデータをロードした後に物語を切り替えることができるので、ゲーム開始毎に気分を変えて別のキャラを進められる。
 これだけの自由でも、かなりやらされている感が解消されているように思える。

 ただ両者の操作感やシステムには大きな差はなく、忍者の鬼助は壁登りができるとかの差をつけても良かったように思う。
 また、同じ舞台でザッピング的に遊べるので、片方の行動がもう片方に影響を与えるというシステムがあっても良かったかもしれないが、終盤に収集した刀が両者共通に使えるようになる程度しかない。
 とは言え、あまり両シナリオが密接に繋がっていると、結局一本道なシナリオになりかねないし、シナリオを頻繁に行き来することが面倒くささに繋がらないとも限らないので、このくらいの繋がりの緩さで良かったかもしれない。

 シナリオは主張しすぎないが先を見たくなる魅力はあり、妖刀を集める理由づけもできており、ゲームのシナリオとしてちょうど良い塩梅となっている。
 また、落語や昔話の登場人物が一般人にちらほら紛れ込んでいて、安直ではあるもののニヤリとさせる。
 ただ想定していた量を入れきれてないようで、特に終盤が駆け足で密度不足を感じた。

 なお、PS Vita版はダウンロードコンテンツとして別の主人公による物語が4本追加されている。

 ちょっとクセのある声優を集めてある感じだが、非常によくハマっている。
 本作の百姫は可憐な囁きから、裂帛の気合まで見事に演じ分けられている。ちなみに沢城みゆきだ。流石である。
 悪辣な剣士が百姫の体を乗っ取っている設定で、その剣士は中田譲治。沢城と中田の発声の癖に似たところがあるので、この辺も見事なキャスティング。
 時代ががった台詞の言い回しが、なかなかに見事。なんちゃって時代劇な感じがしなかったのは嬉しい誤算だ。

 ムービーを使わず、サイドビューのゲームシーンからそのままイベントシーンが展開される。
 面白いのはイベントシーンの前に数名に話しかけるシーンが挿入され、操作不可能な場面を極力減らそうとしているところだ。これはとても良い。
 また、セリフは全て音声付きが基本だがOFFにもできるし、ONの場合でも簡単にボタンで飛ばせるので煩わしさがない。

グラフィック

 手描き多関節のサイドビューのグラフィックとして、他の追付いを許さない美しさであり動きである。
 一部3Dで作った部品も組み合わせてあるようだが、やっぱり全パターン手描きなのでは? と思ってしまうぐらい自然に馴染んでいる。
 これだけ作り込んでいるにもかかわらず、ほとんど処理落ちがないし、データ読み込みの時間が短いのも素晴らしい。

 基本移動は走りで、特にボスを倒した後など延々走らせる場面があったりするが、絵と動きの力が凄まじいので退屈はなく、むしろボスを撃破した余韻に浸れる演出となっている。
 とはいえ、以前に寄った祠まで瞬時に移動できるアイテムはあるので、飛ばすこともできる。

 特筆すべきなのは、料理屋・茶屋で出される料理の絵と動きが尋常でなく作り込まれていること。
 恐ろしいことに、この部分の絵や動きは、ゲーム的には一片の意味もない。
 しかし、雰囲気作りには大いに貢献しているし、戦いに次ぐ戦いの殺伐とした世界観に対する一服の清涼剤となっている。
 贅沢を言えば、食べているキャラクタの絵が欲しかったところだが、あえてそこを抜いてまで食べ物の描写に力を入れた意味はある。
 ちなみに、各地の温泉も食事と同様に息抜きとして有効に働いている。

システム

ゲーム密度のあるマップ

 これまでのプリンセスクラウンオーディンスフィアのレビューで、散々背景のインタラクションのなさを腐してきたが、ついにジャンプして飛び乗れる背景が導入された。
 キャラは両名ともジャンプ力があり2段ジャンプも備えているため、画面の縦の動きが大きく気持ちいい。古参ゲーマー的にはタイトー影の伝説を彷彿とさせる。

 移動中に敵と遭遇すると、画面が切り替わったりせず、そのまま戦闘に突入する。
 よく見ると基本的に地面が平らなところでしか敵と遭遇せず、地面が平らでない場所では飛ぶ敵かワープする敵が出てくる。
 このため、地形を考慮して敵の動きを作り込まなくても良いようになっている。
 ずるいとも言えるが、プレイしていてもなかなか気づかない上手いやり方だ。

 移動中の背景には、刀を打つために必要な魂が、ジャンプしたり飛び降りたりしてみないと画面に映らない場所を中心に置いてあり、ちょっとした探索要素となっている。
 こっちじゃなくて、あっちから飛ばないと届かない、という程度ではあるが、謎解き要素もあって退屈させない。
 それに、ごく単純に枝から枝に屋根から屋根に飛び移るという操作そのものが楽しい。

 サイドビュー考察でも書いたが、サイドビューはどこをどう移動しているのか分からなくなりがちだ。
 本作では移動中は、エニックス/チュンソフトトルネコの冒険のように周辺の半透明マップを画面中に表示するという方法で解決している。
 全体マップ画面をメニューを開いて表示する、といったワンクッションがないので、テンポがいい。

 部屋の中に宝箱があって調べるとアイテムが手に入るし、道中のマップでも光っている場所を調べるとアイテムが手に入る。
 マップは数画面毎に区切られ、その区切りの中にアイテムがあれば全体マップに表示される。
 この機能により探索要素としては弱くなるが、アイテムが存在しない場所を延々探す無駄な時間が発生せず、探索要素を入れつつ全体のテンポを落とさずに済んでいる。

 前述の通り、移動は基本走りだけなので、マップが広がった後半は流石に移動がダルくなってくる。
 一応、籠や船によるショートカットは可能なのだが、乗り降りの場所が固定されていたり、移動距離が半端だったりして使いづらく、あまり移動のダルさの解消には役立っていない。
 (Vita版の終盤は祠を自由に行き来できるらしい)

操作

 メニュー操作も含め、操作感が良い。
 多くのコントローラタイプに対応しているが、どれでも快適に操作可能だ。
 逆に言うとWiiらしい操作でないわけだが、Wiiだからリモコン活用しなきゃ! と言う方向にビタ一文動いてない潔さは清々しい。

 移動はレバーだけで走りジャンプする。特に↑でのジャンプは十字キーでもアナログスティックでも違和感なく操作できた。
 (Vita版はジャンプボタンでの操作も可能らしい)
 地上でも空中でも攻撃と組み合わせるとダッシュ切りができ、連続攻撃と組み合わせると長い時間の空中アクションができるのも気持ちいい。

 Aボタンを連打するだけで連続攻撃が発生するし、防御や飛び道具の跳ね返しもAボタンで可能、というか攻撃しているとついでに防御や跳ね返しもできている、という感じだ。
 また、奥義や居合といった技もボタンひとつですぐに使える。
 あらかじめセットしたアイテムを使う場合もボタン一発で、アクションのテンポをよくするのに寄与している。

 基本、画面内にアイテムが落ちていることはなく、当然それを拾うというアクションもない。
 サイドビューといえばコレというぐらい楽しいアクションではあるが、本作はテンポを落とさないように導入を見送ったものと思う。これは英断と言える。

 全体に操作感は良いとは言え、買い物の際に手持ちのアイテムの個数が表示されないとか、細かい部分での使い勝手の悪さは若干残っている。

刀の切り替え

 刀には霊力ゲージがあり、防御を行ったり奥義を使ったりすると減り、0になると刀が壊れる。
 壊れても鞘に入れておけばゲージが回復し刀は復活する。
 一度に3本の刀を装備できるので、ローテーションして刀を壊す前に霊力を回復しながら戦うのがミソ。
 敵を倒しても霊力が回復するので、うまく霊力を切らさないような立ち回りの工夫ができるし、防御を行わずに回避や奥義の無敵時間を活用することで、ゴリ押しではないスマートな戦いもできる。

 また、時間によるチャージが完了していると、切り替え時に居合切りが発生して画面の敵全体に攻撃できる。
 このことも切り替えを積極的に行う理由になっている。

 強くて使いやすい武器をずっと使って、武器の切り替えに意味がないシステムになっているゲームも多いが、本作はこのような工夫で、切り替えに面白さが生まれている。
 108本もの刀が登場するが、このシステムのおかげで、わりと満遍なく刀を使う。

 武器もそうだが、アイテムも死蔵せずに使わせる力が働いている。
 アイテムは売れないので、入手したら確実に増えていき、最大9個しか持てないので使わないともったいない。
 エリクサーを最後まで使わない問題に対する、スマートな解決法だ。

難易度

 難易度は開始時かメニューを開いていつでも変更できる。
 無双は敵があまり積極的に攻撃してこず攻撃力や体力も低い。修羅はその逆。
 RPG的にレベル上げしようというときは無双、緊張感が欲しいというときは修羅、という感じで使い分けられる。
 レベル上げや強い刀の入手によっても楽になるし、戦闘前に食べる鍋料理によるブースト、戦闘中のアイテムによる回復や強化もできるので、ほとんどボタン連打だけのゴリ押しまでもが可能になっている。
 ただし、食べ物には満腹度があり、その満腹感が消えるまで次のものを食べられないという制限がある。これはリアリティがあって良い。薬を使えば連続して回復できるので、満腹度は雰囲気作りのシステムと言っていいだろう。
 戦闘終了後ではなく戦闘中にレベルアップし体力が完全回復するので、無理目かなと思ったボスでもなんとかなったりするのもいい調整だ。

 修羅だとヒットアンドアウェイなども行っていかないと、雑魚でも手間取る感じの調整で、なかなか歯ごたえがある。
 また、ひとまずのクリアには行く必要はない魔窟という場所が用意されており、これがなかなか手強い(慣れると経験値稼ぎの場所になるが)
 クリア後はさらに高難度のモードも用意されていて、アクション苦手な人から手応えが欲しいアクションゲーマーまで広く対応する難易度となっている。

まとめ

 神谷盛治の作るゲームは、絵や動きは素晴らしいし基本的なシステムも面白いんだけど、中盤以降どうにも作業的になって退屈な面が大きい印象だった。
 本作では、様々な点がびっくりするぐらい改善されていて、クリアまで退屈に感じる場面がほぼなかった。
 レビュー中で何度もテンポが良いと書いているが、ここで書き連ねた以外でもゲーム進行が引っかかる部分を丁寧に取り除いてあって感心する。
 結果として、時流に流されず同じジャンルのゲームを作り続けることの意味が、しっかり現れた傑作となっている。

 事実、ファミ通でゴールドを獲得し、みんなのおすすめセレクションにも選ばれ、WiiUダウンロードコンテンツにもなり、PS Vitaに移植され、Bestも発売されと、高い支持を受けている。
 そして、フィギュアなどのグッズはゲーム発売から8年たった今も人気があり、まだ(フィギュアの)新作が出そうな勢いすらある。

参考

 そこで結論。

遊べばわかる。十数年の積み重ねが実った傑作痛快時代劇!