七ツ風の島物語

対応機種・周辺機器
Saturn (初回限定版のみCD-ROM2枚)
ジャンル
アドベンチャーロールプレイングゲーム
著作・制作
(c)GIVRO・CROUD・BUDDY ZOO・TWO FIVE・ENIX 1997

 ワンダープロジェクトシリーズを作っていたギブロが、鬼才雨宮慶太をゲームデザインとシナリオとキャラクターデザインに迎え、今度はサターンにリリース。

 ゲームはサイドビューでキャラクターを操作する、見た感じは大まかにスーパーマリオを初めとするゲームゲームした感じである。
 しかし、このゲームはリアルタイムではあるがアクションゲームではないので、素早いコントローラーさばきは一切必要が無く、アクションが苦手な人も問題なくプレイできる。
 営業的な目論見、ゲームの方法論的不安など様々な要因があるだろうが、大体この手のものでは最後まで我慢しきれずに、アクションゲーム的なシーンを入れてしまいがちなものだが、このゲームの場合最後までひとかけらも器用さを必要とするシーンがない。
 この点は非常に高く評価できる。

 本作は、多くのロールプレイングゲームと違い、戦闘も無いし経験値も無い。
 だがそもそもロールプレイングゲームとは、自分ではない人物を体験する遊びであるのであるから、本質的には戦闘や経験値と無縁のものである。
 主人公である竜人を体験すると言う意味で、このゲームは最もロールプレイングゲームらしいゲームの一つであると言える。
 またゲームは、ロールプレイの部分とは別に、アドベンチャーゲームのような謎解きを軸としていき、ストーリーをすすめるようになっている。
 ゲームジャンルの「アドベンチャーロールプレイ」とは言い得て妙と言えるだろう。

 登場するキャラクターに人間はいない。島は不思議なファンタジックな「不思議の国のアリス」を彷佛とさせるキャラクターで彩られている。
 マップ画面も、マップチップを組み合わせたタイプでは無く、一枚絵に判定をつけたもので、非常に変化に富んだものに仕上がって、島の雰囲気を上手く演出している。
 世界観の良さは、古今東西のゲームの中でも一ニを争うのでは無いだろうか。

 途中に実写(人形アニメーション)によるムービーが挿入されるのだが、ムービー部分=夢という形をとっているので、むしろ違和感がある事そのものがゲームとの整合性を良くしている。
 また、その人形アニメの出来そのものも非常に良い。
 大抵のゲームのムービーシーンはゲーム本体との整合性が悪く、いかにも後から付けましたという感じで、ゲーム本編とのつながりが無いのは勿論、世界観を崩す役にしか立っていないので、このゲームがいかに凡百のものと異なるかが、うかがえようというものだ。

 ブックメーキングシステムという、自分の行動が本に綴られていくシステムを備えており、基本的に一本道シナリオとはいえ、自身の行動をかなり上手く生成し記述してくれるのには感心した。

 ギブロはメガドライブに「マジンサーガ」(だったと思う)を作って以来、サイドビューと多関節のキャラクターにこだわってゲームを作っている。
 キャラを腕や頭などのパーツに分けて、それを組み合わせてアニメーションしているわけだ。
 このキャラクターの出来が、物凄くいいのである、雨宮氏の原画が動き出したと言いたくなるくらいだ。
 残念ながらギブロは、この作品を最後に解散しもはや次回作は望むべくもない。折角育ててきた技術をここで手放してしまう事になるのは残念。

 雨宮慶太と言えば、ゲームでは「未来忍者」や「ハカイダー」を初めとして、作品的にもセールス的にもパッとしないものが多い。
 残念ながら、それらの作品では雨宮慶太氏が深くかかわっているわけでは無いこともあったと思うし、映画やイラストストーリーなどの他の仕事を見るとどんどん完成度が上がっている事を見ても、氏の円熟味が足りなかった事もあるのかもしれない。
 本作の場合は、キャラクターデザインとシナリオにフル参加し、ゲームシステムにも相当に手を出している感じがする。
 そのおかげだろう、この「七つ風の島物語」では雨宮氏の才能が非常に良い形でまとまっている。

 ちなみに、初回限定版にはプレミアムディスクというCDがついてきて、高解像度の原画や設定を見る事ができて、雨宮ファン涙チョチョ切れものなのでぜひ初回限定版を手に入れたい。
 ただし、残念な事にこのゲーム全く売れていないので、初回限定版以外の版を手に入れる方が難しいかもしれない。

 全体に大人の鑑賞にたえ得る、子供騙しでないゲームである。
 できるだけ、多くの大人にやってもらいたい。
 パソコン(特にMac)への移植を強く希望したいところだが、制作会社が無くなった今、実現不可能といってもいいのが返す返すも残念。

 そこで結論。

「雨宮慶太の魅力だけで無く、ゲームとしても大傑作」


1998-08-21