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前作メタルギア・ソリッド2から3年、プレイステーション3用に開発されていた次回作。
最終的にはPS3ではなくPS2へとプラットフォームを落として作成された。その決断は吉と出たのか、凶と出たのか。
近未来から、第二次世界大戦の影響も大きい冷戦時代へと大きく転換し、メタルギアシリーズの前史を描く。
タイトルこそメタルギア・ソリッド3だが、実質メタルギア0である本作は、オリジナルのスネークを主人公とし、コンピュータが一般化していなかった時代をどう描くのか。
なお、今回はさらに1年後に発売された決定版であるサブシスタンスを中心にレビューを行う。
もともとPS3をターゲットに制作がスタートしていたため、PS2では困難というか実現不可能に近かった森、それもジャングルを舞台にしている。
CGは人工物を描くのは比較的容易だが、自然物はその形も表面のテクスチャも複雑で、「自然」に表現する事が困難を極める。
本作では、ファンタジーよりにしてデフォルメでごまかす事なく、驚くほど見事に自然物を表現している。
新しいシステムとしてカモフラージュの要素が取り入れられており、「着せ替え」を行う事で敵からの発見率を落とす事ができるようになっている。
多くのバリエーションが用意されているので、単純にコスチューム変更の楽しさもある。
そして、後述の通りこちらも敵兵を視認によって捕捉する必要があるため、敵が迷彩服を着ていると本当に見つけにくい事が実感できる。
気付かないうちに敵が近くにいて「うわーーっ!!」となることがあるわけだ。これはリアルだし、自然にこちらのカモフラージュの重要さが認識できる。
特にデモシーンで照明(ライティング)技術の向上が顕著で、カット・レイアウトと合わせて、映画的演出に定評のあった本シリーズでも、抜きん出た映画っぽい仕上がりとなっている。
全体としては前作よりさらにイベントシーンが長くなっているように思うが、通信も含め、ひとつひとつは短くなっているので、前作ほどのストレスはない。
単純なイベントではなく、視点変更ができるシーンが挿入されたり、カーチェイスなどミニゲーム的にプレイヤーの操作が入るのが多いのも良い。
とは言え、途中で退屈になって内容を聞きそこねる程度の冗長さはあり、相変わらず一時停止もできない。
個人的にはQTE大好きなので、イベントシーンにもっとボタン押させてくれると嬉しい。
時代を前に戻した事でストーリーがリセットされており、前作までをプレイしていないと置いてけぼりなセルフパロディは少なくなっている。
その代わりというか、映画のパロディ(あるいはオマージュ)的な要素が多く、映画好きな小島監督の面目躍如というところ。
もちろん、前作までのプレイヤーを無視しているわけではなく、雷電ネタなどでクスリとさせてくれる。
前作と比べ、パートナーとなる女性キャラクタも、通信先・潜入先ともに足手まといなところが少なく、ちゃんとこちらを助けてくれる。
また、大きな障害となるザ・ボスも女性で、イベントシーンでたびたびコテンパンにスネーク(プレイヤー)を伸してくれる。
このザ・ボスのキャラクタモデルが良くできており、また声優の演技が上手く、説得力が半端ないので、普通なら嫌なプレイヤーキャラがイベントで負けてしまうシーンも納得させられる。
ちなみに、ザ・ボスの声優である井上喜久子は「おっとり系お姉さん声優」の認識が大きかったが、セガサクラ大戦3のロベリア役を経て本作で、「修羅場くぐった系お姉さん声優」の立ち位置もほしいままとしたと言えよう。
さて、ザ・ボス以外のキャラクタとしては、前作・前々作でもお馴染みのリボルバー・オセロットが若き姿で登場し、大げさな演技で実にいい味を出している。
リアル指向のゲームではあるが、そのリアルさは伝奇小説的リアルさであり、兵器・銃器のスペックにはこだわりを見せる一方、登場人物は常軌を逸した超人ぞろいだったりする。
アクションゲームとして中ボスの舞台・攻撃バリエーションから導きだされた結果のキャラ立ちであり、ストーリーがゲームの面白さのために存在しているように思える。
その辺、戦記物的リアリティを期待すると呆気にとられるかもしれないが、このケレン味はシリーズの大きな魅力となっている。
冷戦時のソ連は情報があまり外に出ておらず、国全体が神秘のベールに包まれている所がある。その上、とにかく国土が広いので、何があっても不思議じゃない舞台だ。
本作ではそこを利用して、かなり奔放にウソをついている。もうほとんど「ソ連は宇宙人と技術協定を結んでいた」レベルのトンデモっぷりだが、「ソ連だしな」の一言で、結構アリにさせられてしまう。
本作では前作からさらにアクションを追加しているため、操作が少々煩雑にすぎるきらいがある。
前作までの操作方法に拘らず、整理し再構築する必要があったと思う。
とは言え、それぞれのアクション自体はより洗練され使いやすくなっているし、新たに追加されたCQC(近接格闘)は、コンバットアクションとしての面白さを格段に高めている。
メタルギア・ソリッドシリーズではソリトンレーダーという、マップを上から見た周囲の建物および視線を含めた敵の状況がわかる機器が用意されていた。
このシステムはレーダーが高性能すぎて、極端な話、レーダーの表示だけ見ておけば、メインの画面を見る必要がない状態に陥っていた。
本作ではソリトンレーダーは廃止され、敵の位置だけ分かったり分からなかったりする低性能レーダーになっている。
このため基本的には視認(+指向性マイク)で敵を発見しなければならず、潜入の緊張感は大きく高まった。
しかしながら、その方法では敵を見逃してしまう事が多いのも確か。
新たなマップに到着したら、ともかく突撃して敵の位置を一通り確認し、死亡するかリセットしてやり直す方が確実なやりかたとなってしまっている。
これでは覚えゲーだ。二度プレイするのも面倒だし、主人公の体力(LIFE)が非常に高い上に、体力はじっとしている(かセーブしてしばらくする)と回復するという事もあって、突撃してそのまんま突破してしまう事もしばしば。
どちらにしろ、隠れて進むという主題を削いでしまう。
また、敵が警戒態勢に入った後、通常状態に戻るまでの時間が長く、警戒態勢に入ったらリセットしてやり直した方が、むしろ早い。
見つかる事のデメリットとして長い警戒時間が用意されたと思うのだが、同時に隠れることのメリットが低くなっていて、見つかったらそのまま銃を乱射して突破することに流れがちになる。
実力行使で突破できること自体は、プレイの幅を大きくする意味で非常に良いのだが、隠れるのは面倒という調整になってしまっているのは残念。
前述のカモフラージュの他に、大きな新システムとしてキュアとキャプチャーが用意されている。
キュアは身体に負った傷や毒などを自分で治療するシステムで、ゲームシステム的には単に面倒なだけに近い。
基本的にはランボーなどのサバイバル映画の治療シーンの再現をするため「だけ」のシステムだ。
雰囲気の演出としては非常に良いものだが、できればもう少しゲームのルールとして面白くする方向に働いて欲しかった。
システムをシンプルにする意味でも、無いほうが良かったかもしれない。
もうひとつのキャプチャーは、動物や植物を捕獲し食べるシステムだ。
本作ではLIFEゲージの他にスタミナゲージ(満腹度)があり、時間と行動で減っていくので、食料を補充する必要がある。
空腹要素を取り入れた多くのゲームでは、単に面倒になるだけで失敗に終わっているものが多いが、本作では成功している。
ひとつは、食料の解説および飲食時のリアクションの面白さがある。解説は通信先のパラメディックというキャラクタが行い、単純な博物学的面白さと、会話の面白さがあり、飲食時のスネークの「うますぎる!!」などの感想には笑いを禁じえない…てゆーかスネーク面白すぎる。
このリアクションの面白さは、やりこみ要素として全食料を手に入れるモチベーションにもなっている。食料の種類は豊富だが多すぎないのも良い。多すぎるとやりこみプレイ時に作業感が強くなってしまうからだ。
もうひとつは、アルファシステムリンダキューブや任天堂ポケットモンスターのような狩猟の楽しさ。
そもそも敵兵を刺殺・射殺ができるゲームなので、そこに狩猟の面白さを見いだせなくはないが、潜入ゲームとの折り合いは悪い。
動物なら、遠慮なく倒したり捕獲したりして、存分に狩猟の面白さを味わえる。
罠を設置できるなど凝っているが、食うときはすべて生食いと、ゲーム本編を置き去りにするほど凝ってはいないのも良い調整だ。
更に、手に入れた食料は装備して投げる事により、音を立てて敵兵を引き寄せることができる。
食料は簡単に手に入るので、前作までと比べ、ものを投げる際に躊躇する必要がなくなった。麻酔銃なみの便利さでバランスを崩している気もするが、壁叩きが通用しない箇所が増えたので、難易度調整的にはトントンというところか。
また、麻酔して手に入れた動物は、生きたまま持ち歩け、それを投げつけると、敵兵を驚かせたり毒を食らわせたりすることもできるという便利ぶりだ。
音に敏感になったり、通信兵を先に倒しておくと通報されなくなる、前述のように動物に驚くなど、敵兵のリアクションも更に細かくなっており、それを確認するだけでもかなり楽しい。
ここまでやると、誰を相手にしてるんだか分からない芸というか、余計なところに凝ってるという唐沢なをき怪奇版画男のようなメタなギャグの様相を呈している。
絶対これでないと抜けられない、という場面は少なく、ダンボールや雑誌などのアイテムを使わないでクリアした人も多い気がする。
こうなると逆に、○○を使ってクリアという条件制のゲームも別作品として作って欲しいと思うが、本編の完成度が高すぎて不満があまり出なかったのか、前作・前々作のVRミッションや前作のスネークテイルズのような、バリエーション展開はない。
舞台も森・湿地帯・基地・軍事工場・研究施設・洞窟・山岳地帯など、非常にバラエティに富んでいて飽きさせないし、同じ場所を通る場合でも時間や天候、警備状態などの変化を持たせてある。
マップ自体の作りも、色々な潜入方法が使える工夫がされており、ぶら下がりでショートカットして良し、屋上を回って良し、床下を這って良しの幅の広い遊びを提供している。
本作でも移動時は斜め見下ろし固定視点だが、直線(建物)の少ない本作では、今ひとつ収まりが悪い。
サブシスタンスでは、右アナログスティックで視点を自由に動かせる3rd Person Viewが導入され、わりと一般的な3Dアクション的に遊べる。
もともと斜め見下ろし固定視点で調整されているにもかかわらず、むしろ3rd Person Viewの方が快適な場面の方が多い。
なお、サブシスタンスでは妙にタイムラグがあったり音声が悪かったりした無線部分が快適になっており、視点の面と合わせてサブシスタンスのプレイをお勧めする。何といっても音声が英語じゃないし。
と言っても、既にPS3でHDリマスター移植版が発売されているので、環境があればそちらが良いだろうとは思う。
サブシスタンスではオンライン対戦ゲームや、おもしろ映像集、サルゲッチュとのコラボレーションミニゲーム(の追加ステージ)、更にはMSX2で発売されたメタルギア、メタルギア2 ソリッド・スネークの復刻版、さらに初回限定版にはゲーム中のイベントシーンを新規編集した、映像を見るだけのディスクもついてくる。
このへんについては、今回、特に語らない。
そこで結論。
確実に次のステージへと上がった名作。美味すぎるっ!!
2013-06-10