巨人のドシン

ジャケット
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対応機種・周辺機器
ジャンル
南国アクション
著作・制作
(c)Param/Nintendo 2002

基本情報

 南の島に現れた巨人を操作して、住民に優しくしたりいじめたりして交流するゲーム。
 のんびり南国リゾート気分を満喫するも良し、せっせと集落を大きくする手伝いをするもよし。

 本作は アートディンク「アクアノートの休日」で一躍注目されたゲームデザイナー飯田和敏が独立して作ったパーラム(現バウロズ)の作品。
 Nintendo64のDD(ディスク)用のソフトとして作られた「巨人のドシン1」の移植版である。
 持っている事は勿論、見た事あるどころか知ってる人も少ないDD用のソフトとして発売された前作は、完全に幻の名作扱いとなっていたが、GC版はどうなったろうか。

ルール

 地面を上げたり下げたりしたり、木や住民を移動したりして環境を良くすると、住民が増えて集落が発展する。
 このあたりは要するにブルフロッグ「ポピュラス」なのだが、その発想の源となっている所は相当に違うと思われる。
 ポピュラスは見えない神が奇跡を起こすという立場だが、本作の場合まず巨人ありきで作られたようだ。
 巨人というモチーフの選択が素晴らしい。人と同じ形で大きさが違うだけ。そこには神の属性と人の属性があるが、完全に神ではなくて、人が神と勘違いしているだけかもしれないという、微妙な立ち位置。

 巨人の行動によって、住民はハート(愛)かどくろ(憎しみ)を与える。
 通常の発想では大きくなる方法と小さくなる方法が用意されると思うが、巨人は愛を得ても憎しみを得ても、とにかく大きくなる。
 一日が終わると巨人はいなくなり、また次の朝に新しい(最初の大きさの)巨人がやってくる。

 巨人は優しげなドシンと禍々しいジャシンの二つの姿を持っている。
 通常の発想では、ハートを集めるとドシンに、どくろを集めるとジャシンになるというルールになりそうだが、このゲームは違う。この切り替えはいつでもボタン一発で可能である。他にはなんのきっかけも無い。住民にとっては、まるっきりの気まぐれにしか見えないし、実際プレイヤーも気まぐれで操作したりすると思う。
 ドシンはものを持ち上げたり運んだりでき、ジャシンは地面を叩いたり衝撃波を撃ったりできる。地面の上げ下げなどはどっちでもできる。多くの能力は共通だが性能差もあったりする。

 優しい姿で悪い事もできるし禍々しい姿で良い事もできる、住民が愛情を持とうが憎しみを持とうが巨人は好きに姿を変える。
 小さいと移動速度が遅いし力も弱くて不便、大きいといろんなものを簡単に壊してしまって不便。
 このあたりには禅の哲学を感じる。そして、住民を潰すと蓮の花になりやがて木になる輪廻。

 他にも様々な要素やルールが存在しつつ、うまーくバランスがとられており、奇跡的な結実を見せている。
 こんなに変なゲームなのに、しっかりゲームになっているし、「ストーリーではなくルールで語る」ことができているのだ。

ゲームの目標は

 先ほど「ポピュラス」とは違うと書いたが、本作にはポピュラスの持つ箱庭的面白さが十分に含まれている。
 地形を作る楽しみ壊す楽しみ、住民を眺める楽しみいじめる楽しみ、集落を育てる楽しみ破壊する楽しみ。
 このあたりは、ウィル・ライト(Maxis)の 「シムアント」の面白さに近いかもしれない。
 しかも、本作の場合は敵の種族が存在しないので、完全に自分のペースで楽しむ事ができる。

 とりあえずの目標として、16種類のモニュメントを建てるということが設定されている。
 マップが追加されるものの、さほど種類があるわけではないし、新たな目標ができるわけでもない。
 贅沢を言えば、建物や住民、テクスチャー、それに目標を変更したものがもっと欲しかった(もしかしたら、あるのかもしれないが…)

 とは言え、6種類のモニュメントを建てる事はとりあえずの目標であり、それぞれのプレイヤーが他に目標を見つけて遊べるようになっている。
 ちなみに私は、住民そっちのけで、山で滑り台を作って滑る事にハマってたりした。

 短期的には巨人を育てるゲーム、中期的には集落、長期的には島を育てるゲームとも言える。
 巨人の記録は残り、レーダーチャートで特徴を見たりできるのだが、もう一つ踏み込んで住民の数や島の変化をグラフにして見せてほしかった。

写真という仕掛け

 Rトリガに写真のシャッターを割り当てているのが、なかなか思い切った配置であると言える。
 他にも写真を撮れるゲームはあるが、大抵はカメラモードに切り替えて写真を撮る。
 しかし本作は、何時でも何処でもRトリガを押せばすぐに写真が撮れる。そしてこの写真は「ルール的には全く意味がない」。

 しかし、ゲームの思い出を残しておく、また逆に被写体となる島を作るという目的意識を持たせるということでは、非常に意味のあることである。
 そのような役割を持った行動をRトリガという貴重なスイッチに割り当ててあるのは、ゲームの方向性をかなり変える決断だと思う。
 私はこれを、ゲームクリアに「しゃかりきになるな」という、制作者のメッセージと受け止めた。

ゲームに流れるリズム

 島の1日はだいたい30分で終了し、タイトル画面に戻る。
 すぐに次の日が始まるのではなくタイトル画面に戻るので、ゲームをやめる区切りが付けやすい。
 ここでも、「しゃかりきになるな」と言われている気がする。

 一応はアクションに分類されるものかと思うが、手先の器用さを必要とする部分はほとんどないし、不器用なら不器用でも、非常にゆとりのあるバランスで作られているので、器用な事はやらなくてもいい。
 だいたい、巨人の動作はのんびりしたものなので、忙しくコントローラを操作しようにも無理。

緒川たまきボイス

 ゲーム中に時々状況を説明する声に緒川たまきを起用しているのだが、この声が抜群にいい。
 例えば巨人が巨大化すると「すごく…大きくなったね」とか言う。マニュアルに書いてある通りぐっとくるね。
 緒川たまきを採用するとは素晴らしいセンス。大絶賛したい。
 ビバリウム「シーマン」で、細川俊之を採用したのに匹敵するナイスキャストだ。

 ただこの声、追加マップでは無くなるんだなー。なんでだよー。

追加要素は

 私も含めて、ほとんどの人は前作を遊んだ事は無いだろうが、一応前作との違いを書いておこう。

 まず、フレーム数の増加を含めた全体的なグラフィックのパワーアップ。これは、画面写真で見る限り、圧倒的パワーアップと言える。
 夕日を眺めるだけでも一見の価値あり。

 住民に男女の別ができ、それによる集落作りのルールの変化、行動の増加。魚・鳥・家畜等の様々なオブジェクトの動きや種類の増加。と言った所。
 これらの動きは、ローポリゴンながら良くできていて、観察意欲を高めてくれる。

些末な問題点

 AB同時押しでしゃがむ事ができるのだが、この同時押し判定が意外にシビアで、しゃがむつもりがジャンプしたりする。

 高さで色を変えるといった、高さが大切なゲームが取らなければいけない対策は取られているが、多少見辛さもある。
 自由に視点を変更できるだけでなく、いくつかの高さを確認しやすい等のオススメ視点を切り替えられるようにしてあると、より良かったかと思う。

 集落ができる条件や、花が生まれる条件が、多少不明瞭。
 ゲーム中のヒント通りにやったつもりでも、集落が発生しなかったり、花がすぐ消えたりする。
 もしかしたら、遊び人は遊んでて集落作らないとかの隠し条件があるのかもしれない。

 ドシンの昼寝の方法が分からん…。多分放っておくと寝ると思うんだが、我慢できないで操作しちゃうよー。

 ところでDDで出た「巨人のドシン解放戦線チビッコチッコ大集合」の移植予定はあるのかなー。書き込み可能なディスクじゃないと「ダシ・イレ」ゲームは無理なんかなー。

 そこで結論。

「楽しい哲学のゲーム、こいつは名作だ」


2005-02-16