アルスラーン戦記×無双

対応機種・周辺機器
PS3・PS4・Windows(1〜2人/ネットワーク対応)
ジャンル
戦術アクション
著作・制作
(c)田中芳樹 / 荒川弘 / 講談社 / 「アルスラーン戦記」製作委員会 / MBS / コーエーテクモゲームス / オメガフォース

基本情報

 無双シリーズと人気小説の漫画化のアニメ化(ややこしい)のアルスラーン戦記が組み合わされた、原作もの無双。
 前にアニメ化された際にゲーム化されており、メガドライブのシミュレーションRPGとしてセガアルスラーン戦記として発売されてから22年ぶりのゲーム化となっている。

 当初は小説の無双化の方向で動いていたらしいが、講談社に相談しに行ったら(再)アニメ化進行中と聞かされ、アニメ準拠に舵を切った、ということだ。
 そのおかげもあって、アニメの絵を素材として豊富に使用し、声優もアニメ準拠、そしてアニメ1期の放送終了時に合わせるように発売されるという、理想的なコラボレーションが成立した。
 逆にアニメの合戦シーンなどで多用されたCGによる兵士など、ゲームのデータを素材として流用したのではないか、というほどゲームシーンでアニメの雰囲気がする。

 本作はPS3/PS4で同時発売され、のちにWindows版が発売されている。
 ここではPS3版を元にレビューを行う。

システム

無双の基本を押さえつつ着実な進化

 基本的な操作系は無双のスタンダードの通常攻撃xN+チャージ攻撃で、安心感のある作りとなっている。

 特徴的なのは1キャラで複数の武器の持ち替えができ、それが十字キーの左右で一発でできること。
 さらに、チャージ攻撃の後R1ボタンを押すとチャージシフトが発生し、武器を切り替えてさらにコンボの継続ができる。
 敵の密集具合などが上手く揃えば、ずっとコンボを継続できる感じで、ちょっとやり過ぎじゃないかという感じもするが、やり過ぎぐらいが無双のちょうど良さだとも思う。
 副作用的に弓が使えるキャラが多く、他の無双シリーズと異なるプレイ感が出ているのは面白い。

 ボタン一発で馬呼びができるのは今までもあったが、本作では押しっぱなしにすると騎乗まで自動で行える。
 これは走りながらも可能で、めちゃめちゃ快適。前に戦国無双3Zのレビューで書いた欲しい機能だったので、素直に嬉しい。
 無双シリーズは、なんだかんだ言って着実にシステムが洗練され良くなっているのは強い。
 ただ、もっと一気によくなって良さそうに思えるくらい、ダメな部分も残り続けてたりするが。

 回避動作がボタン一発ではなく、ガードボタンを押しながら左スティックという操作になっている。
 移動中にガードボタンを押すと単にガードになるので、スティックニュートラルでガードを押し、改めてスティック入れ、という操作の必要がある。
 かなり出しづらい。スティックニュートラルの時だけガードになり、他は回避で良かったのでは?
 回避成功時に敵の動きが遅くなる効果があったり、移動距離や硬直時間も適切で、回避動作の性能そのものはいいのだが。

マルダーンラッシュ

 で、今回減った回避ボタンが何に使われているかというと、マルダーンラッシュという新システムの発動に割り当てられている。
 マップの特定の場所で発生するヒートエリアでボタンを押すと、周囲の味方兵士がプレイヤーと一丸となって移動するようになり、集団での突撃が可能になるというシステムだ。
 コーエーが決戦ブレイドストームで培った、群れ制御エンジンの有効活用。
 これはなかなか集団戦をやっている雰囲気を持たせてくれるし、原作の決め台詞である全軍突撃!(ヤシャスィーン)との馴染み具合も素晴らしい。
 ただ、実行時はカメラが引くので迫力は薄れ、任天堂ピクミンっぽさが出ちゃうことは如何ともしがたい。
 また、ほとんどの場合シナリオ進行上の障害となる物を破壊する目的で使うので、作業感が強いのも残念。
 発動の面倒臭いQTEと言うとちょっと言い過ぎだが、まぁそういう事だ。
 強敵の体力も突撃でみるみる減って行くので、マルダーンラッシュで倒した時の達成感が弱すぎるのもまずい。
 ついでにいうと、貴重な資源であるボタンを割り当てるなんてことはせずに、例えばアイテムを取ると発動するシステムにして欲しかった。
 とはいえ、集団戦の雰囲気は抜群なので、洗練させて今後も無双シリーズに取り込んで欲しいシステムと言える。

マップ

 せっかくはしご登りアクションがあって、城壁に登ったり櫓に登ったりできるが、いまいち利用しきれてない。
 攻城兵器や槍の射出機、戦象などの巨大兵器も出て来るのに、今ひとつ印象が薄いのも残念だ。

 イベント発生に従い、マップ全体の1/3ぐらいを走り回ったところでステージ終了となる感じなので、実際より狭く感じる。
 そしてイベントが発生しないで自由にプレイできるモードがないので、かなりプレイが窮屈。
 そもそも転戦する地域が広くないため、景色に変化が少ない上に使い回しのステージも多い。
 マップ的な面白みは、かなり低いと言えそうだ。

成長システム

 基本的にはレベルアップによって、パラメータはもちろん、武器の種類、武器の技、さらに属性までもが増える、レベルアップ依存のシステムだ。
 わかりやすいといえば分かりやすいが、特に何も考えず育てれば手に入るので、達成感が弱い。

 副次的なものとしてカードの装備があり、単体でも強力なカードがあるが、特定の組み合わせだとより強力になる。
 そこそこ面白いが、キャラものはカード集めと相性はいいし、悪くないんじゃないの、という程度。

下手くそなヒント

 相変わらず、ヒントの出し方が洗練されない。
 注目箇所がズームアップされ、その後プレイヤーがいる場所までカメラが移動してくるのだが、カメラワークが早過ぎて、全然位置関係が理解できない。
 ゲームに戻るボタンを押すまで、注目箇所と現在位置の間をプレイヤーがカメラ操作できるようにして欲しいぐらいだ。
 逆に、ヒントの間はストーリーイベントのように飛ばせないのもテンポ悪い。

 強敵との戦いで、火を使えとか、荷物や壁にぶつけろ、みたいな指示が出ることがあるが、活用方法が全然わからない。
 よくこの説明でプレイヤーが理解できると思ったなと、びっくりする。結局、自分のカンに頼って試行錯誤したあげく、指示を無視した方が効率よく倒せたりするのもぐんにょり。

 ボリュームが少ない印象の本作だが、本編終了後に割とボリュームのある外伝シナリオが追加される。
 これがメインメニューに戻ったときにダイアログで追加されたのが知らされるだけなので、かなり多くのプレイヤーが気づいてないように思う。
 無双シリーズは「文章で知らせたから伝わってる」と思ってる節があるが、大抵のプレイヤーは文章なんか読まないですからね!! そこに気づいて!
 本作の場合は、ストーリーモード、フリーモードのメニューと同じ階層に外伝モードのメニューが欲しかった。

 他も、ヒント系の情報はことごとく分かりづらく、実際に伝わっているかどうかではなく「伝えようと努力した」ところで良しとしてしまった感じだ。

薄く雑なやり込み要素

 トロフィーは、特に狙っていかなくてもプレイして行くとうまる感じのもの。
 他にも武器探し、限定カード探し、カード錬成、料理帳探し、などある。
 そういう探し物でプレイするフリープレイの作りが、ストーリーモードと全く同じ指示に沿って行動しなきゃいけなくて、繰り返しやりたくなるものではない上に、ヒントで取る方法がある程度事前にわかるので、それもまた作業感を強くしている。
 キャラ変えしてもセリフやムービーが同じで、「ダリューンどの助かりました」とか言われて、心の中で「俺はイスファーンだっ! 間違えるならシャプールにしてくれ!!」って怒鳴ってプレイするのも辛い。
 カード錬成など、使ったカードのレア度と枚数と金の合計で良いカードが出る率が上がるだけっぽく、組みと合わせの面白みがない。
 とりあえず「広告に書く宣伝項目を満たした」という作りでしかなく、どうにもやり込みの気を削ぐ。

オンライン

 ネットを介しての共闘ができるモードがあるが、接続できてないので評価はなし。
 接続できていると、期間限定キャンペーンで経験値が増えるなどのボーナスが通常プレイでも付加されたりしたみたいだ。

 DLCに関しては、30本近く追加シナリオがあり、これは本編に最初から入れられなかったとしても、大半は無料にすべきだったと思う。
 なんでも無料で欲しがるのは良くないが、本編のボリュームが無い状態で発売して、追加は有料ですというのは印象悪すぎる。
 追加コスチュームはオマケ感が強いので、有料追加でよかったかもしれないが、壁紙を有料にするとか「守銭奴」の文字を頭に浮かべずにはいられない。

 ローカルでの2人プレイはちゃんとできるのは偉いが、マルダーンラッシュは2人プレイを一切考慮していないのでは?

その他システム

 近くに仲間がいるときに必殺技を出しても協力技にならないのは残念。
 武器切り替えがあるためキャラ毎の特徴が薄れてしまった面もある。
 キャラゲーとしては、むしろキャラ毎の性能差は極端にして、キャラ間の関係性が見える協力技に凝って欲しかった。

 強敵にはシールドゲージというものがあり、ゲージがある間はいわゆるスーパーアーマー状態になり、攻撃をしても怯まず、体力の代わりにシールドゲージが減る。
 これは、ボス級の敵がなんのアクションもできないうちに一気に倒されることを避けるシステムで、これまでの無双シリーズだと、闘気を出してプレイヤーを弾き飛ばしていたものの変形だ。
 理不尽にダメージを受ける闘気よりはマシなものの、シールドゲージ減らしている時間の方が多く感じるような調整で、まだまだボス級の敵を弱過ぎず強過ぎずに調整するシステムの決定版とは言えない感じだ。

 割と対戦格闘ゲームのように1対1になるシチュエーションが多く用意されていて嬉しいが、シールドにしても、利用できる背景のギミックにしても、あと2歩ぐらい作りきれてない。

 あと壁際、特にカドでのカメラワークに難があり、ちょいちょいプレイヤーキャラが消えてしまう。
 無双シリーズのカメラワークは今までも快適と言えなったが、これは酷い。

原作付きとして

 アルスラーン戦記はその名の通り戦記ものであり、その意味では集団戦闘のゲームである無双との相性はいい。
 ただ、一騎当千の無意味さをちょいちょい持ち出す原作なので、そういう意味ではガンダムと同じ相性の悪さがある。
 おそらく十人並みな強さだった劉備が一騎当千の活躍ができるのが無双であるのなら、並どころかまだ少年で筋力レベルで劣っているアルスラーンが一騎当千になるのも無双、そういう「らしい原作無視」がなされているのは正しい選択と言える。

グラフィック

 前述のようにイベントシーンやカードなどにアニメから素材を持ってきているので、再現度どうこう以前に「絵的に同じもの」だったりする。
 ゲーム中はトゥーンレンダのモデルが使われており、これのできがかなり良く、アニメの再現度が高い。
 これには自信があったようで、パッケージの絵も荒川弘描き下ろしではなく、3Dモデルを使ったものになっている。
 ただ、ゲーム中のレンダリングが、輪郭のジャギーが強いのは気になる。サンプルムービーを見た限りでは、PS4でも少々改善している程度だ。

イベントシーン

 アニメから持ってきた絵を一枚の絵として取り込み、揺らすとかカメラが平面移動するとかで動きをつけつつ、口パク目パチを加えるという、手法的には20年以上前のPCエンジン的なイベントの解像度が上がった感じのものになっている。
 見た目のしょっぱさはあるものの、おそらくそのおかげで、イベント中にセーブと先のステージのデータ読み込みが行えていて、ゲーム本編とのつながりがスムースだ。
 原作付きではありがちな、文章(ナレーション)であらすじを説明してお終い、というパターンに比べると断然良い作りとも言える。
 また、副作用的にセリフ単位でのスキップも可能になっており、快適にゲームを進められる。

 さらに戦闘前の作戦会議(ブリーフィング)の部分もイベントシーンに組み込まれているので、この辺でやめようと思ってたのに気づくと次のステージを半ばぐらいまで進めてたりして、なかなかやめどきが見つからない。
 作戦会議がないことの副次的な効果だと思うが、ゲーム中いつでもメニューを開いて装備を入れ替えることができ、「あっ装備忘れてた」と最初からステージやり直しになるパターンがないのも嬉しい。

 1ステージが、だいたい10分程度、長くても30分というぐらいの短さなのも、テンポの良さに繋がっている。

 ただ、途中セーブするとフリーモードで少し鍛えようと思った時に「途中のデータは消えます」とか言われるので、ストーリーモードを一旦始めると離れづらい。
 ここで途中セーブしない場合の開始地点はここですよ、と説明してくれるぐらいの親切さは欲しかった。

ストーリー

 原作が16巻あるうちの4巻までの再現で、王都奪還まで行ってないのは区切りが悪いの甚だしいが、アニメ1期と同じところで終わり、漫画原作よりは先までやっているのは、なかなかの頑張りと言えるだろう。
 私は小説を読んだ上でアニメも見た後でゲームやっての感想だが、割とこのゲーム単体でも面白いストーリーとなっているように思う。
 洒落たというか頓知の効いたというか、若干イラっとする感じの皮肉な言い回しというか(笑)、原作はその辺が抜群なので、それらを再現したキャラのやり取りだけでも面白く見られる。

 また、ちょこちょことアニメでやってない原作小説の再現をやっていたり、ゲームらしい対戦相手の変更などのアレンジも加えられていたり、単純にアニメの再現ではなく、ゲームを面白くする作りにもなっている。
 それに、戦闘に直接関係しない話は、かなりバッサリ切られているのも良い。

 例えば原作には、魔物たちの王である蛇王ザッハークと、それを唯一倒せると言われる伝説の宝剣ルクナバードという、めちゃめちゃにゲームっぽくて使いたくなる設定があるのだが、そこをほぼ無視しているのは英断だ。
 正直、ここまでのストーリー展開では邪魔なだけだし、原作ファンの間でも「蛇王いない方が名作だったな」という声も少なくない。

 ゲームをプレイしていくと追加される外伝ステージは、本編以上に指示が多い作りなのは止して欲しかったが、話的には、本編の隙間を埋める感じのオリジナルストーリーが多く、かなり面白かった。

キャラ

 最終的なプレイアブルキャラは15人と、新規タイトルとしてはかなり頑張っている。
 漫画に登場してなかったり、アニメでの活躍が少ないキャラも含めて、いい感じに歴史物の光栄的な、そして無双的な奇想天外なアレンジがなされており、アクションゲームとしてなかなか楽しい。
 パルスが騎兵の国であることもあってか、前述の馬呼びの便利さに限らず馬の取り回しがしやすく、特にダリューンの愛馬黒影号(シャブラング)は、特殊な攻撃モーションを持ち強い。
 また、アルスラーンの攻撃に鷹の告死天使(アズライール)が加勢してくれるのも嬉しい。

 ただ、物語序盤なので味方キャラも揃ってないし登場敵国数も少なく、バラエティに乏しいのは否めない。
 さらに残念なことに、本作のプレイアブルキャラは、敵対するものも含め主人公のいるパルス由来のキャラばかりなので、戦記物ゲームでの面白みの大きい部分を占める敵視点がほぼ存在しない。
 ギスカールとラジェンドラ、できればボダンとエトワールも使いたかったなぁ…。
 隊長クラスのキャラは全部一般名(千騎長とか)なのも、寂しい感じに輪をかけている。

 割と無双シリーズにありがちな、ものすごく強いはずの武将が開始後数分で敗走する、ということがない。
 これは全力で褒めたい。
 おそらくシミュレーション的に処理していたのを、画面外にいる場合は数分は絶対敗走しないような体力の減り方をする単純な数式にしただけだと思うが、特にキャラクタゲームとしてはすごく正しい。

 敗走といえば、ラジェンドラの逃げっぷりが凄まじく、逃走経路を把握するまで数回ゲームオーバーを食らったのは、原作ファン的には嬉しい苦笑いだ。

 あと、味方武将が結構プレイヤーの近くに寄って戦ってくれるのも嬉しい。
 コンボを決めようとしているときに割り込まれるのは困るが、敵将をプレイヤーが倒すことが条件の褒賞は少ないので、「助けてくれようと必死になってくれて嬉しい」って気持ちの方が勝つ。

まとめ

 小説の読者でアニメも見るような私からしても、ネームバリュー的にアルスラーン戦記を選択した理由はよくわからない。
 無双的に見て無双空白地帯であるペルシャのゲームを作っておきたかった、ということかもしれないが、ファランギースのあの格好はイスラム圏では売れないんじゃないの? とか思う。
 売り上げ的にはPS3と4合わせても国内4万本行くかどうかという「絶対開発費回収できてないだろ」って数字に終わっているので、もし海外展開などの目論見があったとしても砂漠の蜃気楼と消えた感じだ。

 作品そのものは無双シリーズ全体の中でも非常によくできている。
 馬呼びからの騎乗のスムースさや、味方武将の敗走しづらさなど、確実に改良もおこなわれている。
 それにマルダーンラッシュという無双シリーズに相応しい新要素を追加するなど、手堅くまとめるだけではない面白みもある。

 ストーリーモードは、テンポが良いし話も面白いし、適度に別キャラに切り替わるため飽きにくく、加えて難易度も低めであるため、一気にプレイしてしまい、実際以上にボリューム不足を感じるところはある。
 プレイしやすさで2週目もそれなりに楽しめるものの、一本道傾向が強いし難易度を上げても基本的に敵が硬くなるだけなので、底の浅さは否めない。
 加えて、やり込み要素の類が完全に付け焼き刃なのは残念ではある。

参考

 そこで結論。

ボリューム不足は否めないが、ファンも楽しめる上に、無双シリーズでも上位のでき