『情報の洪水は結構スカスカの情報を産んでいる』
世は情報化社会と言われて久しい。情報量は確かに増えるだけ増えている、しかし欲しい情報をどれだけ的確に受け取っているものだろうか。
これまで情報をどのように整理し、活用してきたかを見てみると、これからどのように情報を活用していくべきかも見えてくるだろう。
情報が大量にあって大変な時、先ず思い付くのは、大量の情報を効率良くまとめあげて、圧縮することが考えられる。つまり、単位量(例えば1ページとか1分とか)あたりの情報量をできる限り増やそうという試みである。
情報量の多いものといったら、まず地図である。地図は必要な情報を、実に巧みに二次元の上に表している。
その情報は地形、地名、建造物、道、土地利用状況、etc.実に様々な情報を含んでいる。
文字だけで無くアイコン(地図記号)を併用していたり、グラフ(等高線)を重ねたり、色分けしたりと、その繊細的確な工夫は、情報を提供する者として実に参考になる。
特に地形を表す時に、地上から見た図だと、何方向も用意せねばならず制作も大変な上に、使う側も不便であることや、鳥瞰した時の高さの不明瞭さなど、地図を作る時には様々な問題点があった。
これらの不具合を、高さを表すグラフ(等高線)をのっけて、一挙に解決するという手法には、まったく感服するしか無い。
地図を見るだに、その情報量の豊富さに感動してしまう。
沢山の情報があったとして、所詮は一人の人間が処理できる情報などたいしたものではなく、一度に入力できる情報もたかがしれている。
そうなると、情報量をできる限り増やそう、というアプローチとは逆に、どれだけ不必要な情報を削るかというアプローチがでてくる。
となると、一番情報を削った効率的な伝達手段は何か、それは俳句である。
俳句は、不必要な情報を削るという段階から、もう一歩踏み込んで、脳に入ってから情報が膨らむ(想像が膨らむ)ことを前提としている。
俳句は、読者の知識を尊重し、最小限の情報で巨大で大量の情報を伝えようとしている。
想像力を刺激するキーワードを組み込むことにより、その、コンピューター的に言うと(5+7+5)*2=34バイトという小さい範囲に、膨大な情報を圧縮することに成功しているといえる。
現在の「少なくとも日本のいわゆる民放」TVでは、情報の空洞化が著しいが。その中にキラリと、情報を見事に扱っている部分がある。CMである。これは、現在の俳句と言ってもいい。
15秒(若しくは30秒)という極々短い制限された時間で、どれだけメッセージを伝達できるか、視聴者を引き付けることができるか、ありったけのテクニックと金が凝縮されており、実に贅沢な映像を見ることができる。
私なんぞはCMが終わるとTVがつまらなくなるので、チャンネルを変えてCMを探している有り様である。
さて、今度は情報を上手く伝えきれていない方を見てみる。
多くのマニュアルは情報の圧縮率が高く、むしろ上手く伝えている部類に入るのだが、一部にどうしようもないものが存在するために、悪い例として取り上げてみた。
本体もしくはキーボードのADBポートに接続された、滑走型ポインティングデバイスを板状のものの上で滑走させ、画面に表示された標準ダイアログボックスの、「キャンセル」と書かれているボタン状の部分に座標指定用矢印型カーソルを移動し、滑走型ポインティングデバイスの前方(すなわちコード接続部方向)にあるスイッチを押し、信号出力状態にすることにより、進行中の作業を中止させて下さい。
とか書かれても、全くもって困ってしまう。
上の文は単に、
キャンセルを選択して下さい。
と、書けば済むことである。
得にコンピュータ関係のマニュアルには、この手のどうしようも無く回りくどく、何が言いたいんだかさっぱり判らないものが多く、多くの読者を閉口させていることと思う。
読む方の意識が低すぎる場合もあるが、判らないように書く方が悪い、と断定してもかまわないのではなかろうか。
詰まるところ、情報は何を提供するかよりも、何を提供しないか、のほうが重要であると言える。
沢山情報があればいってことは無い。
「持っていることよりも、持たないことに価値があるものもある」
1998-04-14