ハイパーテキストの可能性

『Web上ではVRMLとか色々花盛りみたいだが、根本的な部分の成熟がもっと必要と思う』

 従来のメディアのミミック(物まね)も、やってはいけないものとか、やる意味ないもの、まったくばかばかしいものとは言えず、勿論重要なことなのだが、HTML(ハイパーテキストマークアップランゲージ)の特徴を生かした作品というやつがもう少し有ってもいいと思う。

 なかなか新しいパラダイム(判断・評価の基準)に適応していくのは大変であるということは見えないものは怖い多機能・高機能神話で述べた通りである。
 しかしながら、常にフロントライン(最前線)はエキサイティングなものなので、チャレンジするにしくは無し。

 ハイパーテキストによる小説は従来の小説と大きく異なった形態をとって然るべきであるが、まずは従来の紙メディアでハイパーテキストにフィットしやすい、もしくはハイパーテキストの方が良いものを考えてみる。

 火浦(注釈小説家)功氏の作品のように、やたらと文中に注釈を施してザッピングする感覚で読む小説などは、非常にハイパーテキスト小説と相性がいい。
 また、SFの「デューン」(フランク=ハーバート 早川文庫)等その世界特有の用語・ガジェット(道具)が頻出するものも実に相性がいいといえる。
 ただ、リンク先の情報と本文との整合性や、ネタバレになることをどれくらい受容するか等、従来の小説では気にする必要のなかった部分での問題が出てくる。

 また、一時非常なブームとなったゲームブック等は、ハイパーテキストのためにある様な形態の本である。これに近いものは多くのサイトで公開されていることと思うが、こなれるにはプロフェッショナルが積極的にゲームブックタイプのハイパーテキストを製作する必要がある。

 もっと積極的にハイパーテキストのリンクを使えば、上記のような従来の紙メディアからスピンオフしたような形態ではなく、さらに新しいタイプの小説(もはや小説と言えるかも定かではないが)も生まれる可能性が有る(もう生まれているかもしれない)
 その可能性の一つとして「物語」の提供よりも「世界」の提供に主眼を置いたものが有るだろう。
 紙メディアのものでは、TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)の世界設定を扱ったサプリメントが、もっとも近いものといえる。

 そういうものでは、紙メディアよりももっと積極的に「世界」を作っていくことができるはずだ。今までは強烈な「世界」を持っている作家がいたとしても、「物語」が書けなければ事実上「世界」を表現する手段がなかったのだが。ハイパーテキストによって「物語」は読者にゆだね「世界」だけを作る作家というものが現れる土壌ができるのではないかと思う。
 勿論これまでも「世界」を書いた書物はある、水木しげる氏の妖怪の本などもそれと言っていい。また、永野護氏のエルガイムの本(ファイブスターストーリーのもととなった「重戦機エルガイム」というTVアニメーションの裏設定(というにはあまりに壮大・膨大だが)を書いた本 角川書店)なども「世界」を提供している本であるといえる。

 作り方としては、例えばひたすらキャラクターを並べていってもいいし、地図を事細かに記述していってもいいし、年表を作っていってもいい。
 そんなものが面白いのかといえば「書き手がよければ抜群に面白いものになる」と私としてはにらんでいる。

 とりあえず、このサイトで書いている小説はハイパーテキストでの書き方を模索しながら書いていて、そのうち「世界」に関するハイパーテキストも執筆してみるつもりではあるのだが、なかなか新しいパラダイムを作り上げるのは難儀しそうである。
 まあ、それなりのものが完成するには数十年の時間が必要と思われるが、流れの速いコンピュータ世界に一緒に流されてどこかへ行ってしまわないとも限らないところが、少々不安なところではある。

「ハイパーテキストは新しい作家を発掘する。今後期待していい」

私に期待しろというわけではないですよ、期待してもいいですが裏切られるかも(笑)


1997-09-16 1998-01-29