|
スクウェアとエニックスの日本2大RPGメーカーの合併後、スクウェアエニックスレーベル初のドラゴンクエストという事で、どの位スクウェアテイストが入るかも含めていろいろと話題の作品となった。
制作会社も当時ほとんど無名のレベルファイブとなり、発売前はかなり不安の声が聞かれたのもだが、今やレイトン教授シリーズで開発会社としての地位を確固とし、メジャーゲーム会社のひとつとなっている。
また、ドラクエでは初のフルポリゴンかつ後方視点の移動画面となっており、戦闘シーンではパーティメンバーがアニメーションするというのが、大きな変更であった。
それより、本作は毎度お馴染みの、堀井雄二、鳥山明、すぎやまこういち、山名学、真島慎太郎の面々から、山名学(ハートビート)がいなくなり、真島慎太郎(アルテピアッツァ)もグラフィックの中心人物ではなくなったのが、ドラクエオタク的には心配の種となっていた。
さて、本作は結果としてどのような仕上がりとなったのか。
同様に2D見下ろし型から3Dフルポリゴンへとシリーズのシステムが変更されたものとしてメタルギアシリーズがあるが、最初の変更であるメタルギア・ソリッドでは、極端に言えばグラフィックがポリゴン描画されるようになっただけで、レイアウトはほぼ前作までのものを踏襲していたため破綻がなかった。
前作に当たるドラクエⅦではメタルギア方式に近い斜め見下ろしで背景だけポリゴン化、というシステムを採用していたし、更にその後作られたリメイク版ドラクエⅤも、Ⅶを踏襲した斜め見下ろし型のシステムにプレイステーション2のハイクオリティな画像を乗せる、という方式で作られた。
対して本作ドラクエⅧは移動は後方視点な上に視点変更自由という、2Dから3Dにシステム変更された例でいうとスーパーマリオ、あるいはゼルダの伝説に近い変更で、ゲームを根底から変えてしまうほどの変更と言える。
結果としては、単純にリアルな方向へ行くのではなく、全体に布っぽいテクスチャを使い、軟らかな質感の「どー見てもドラクエ」というところに落ち着いているのが素晴らしい。
イベントシーンも、ゲーム本編と同じグラフィックでシームレスに違和感なく行われる。
とは言え多少、演出にぎこちなさも感じた。
フィールドのできも素晴らしく、最初のうちは不安に感じるほど広く思えた。
行き止まりには宝箱を置いて、そこまでプレイヤーが来た苦労をねぎらう、というのがRPGの定石だったが、本作ではそこに「絶景ポイント」を置く事でご褒美としている箇所が幾つもあり、その美しさはゲーム中でも風光明媚という言葉を使いたくなるぐらいで、アイテム無しでもご褒美としての役割をきちんと果たしている。
また、走り回っているぶんには行けそうなところには行けるようになっており、透明な壁で行動を邪魔されるということがない。
そのぶん、飛行している時に着地できそうなのに着地できないところが多いのは残念。
映像表現の根本に大きな変更が入ったのに伴い、他のシステムが大きく整理され、単純になっている。
ドラクエⅦの時点で多少整理されたとは言え、システムが肥大化していたのは間違いなく、これは英断と言える。
例えばダメージ地形は本作では「どくぬま」一種類のみだし、持ち上げられるものも「タル」「ツボ」の2種類だけ、移民の町システムもなく、馬車のキャラクタとの入れ替えもなく、転職もなく、「かっこよさ」パラメータもなく、モンスターはシンボルエンカウントとして用意されているものしか仲間にできない、「しらべる」コマンドもない、などなど。
新たに入ったシステムは練金で、アイテムを合成して新たなアイテムを作り出せるというもの。
これは間違いなく面白いと他のゲームで散々証明されたものをドラクエに持ってきたものなので、当然面白いけど、ゲーマー的には「ドラクエも練金かよ!」と少々辟易。
ただ、ドラクエは大量に売れるため、常に「初めてゲームに触れる人」に向けたチューニングを求められるわけなので、そう文句も言えないところ。
ちょっと細かい新システムとしては、ペットの鼠を操作して移動できる場面がある。同じマップでも小さいキャラだと別世界に感じて面白い。…まぁ、これもいろんなゲームで既にやっている事ではあるが。
3Dを利用した立体的な仕掛けが色々と考えられるが、本作ではそれほど多くは使われていない。
特に視点変更をしないと気付かない謎はなく、あってもその場に上を見ろとヒントが書いてある。
おそらくテストプレイの段階で、全然気付かない人が続出したのではないかと思われる。
また、ダンジョンはマップが置いてあり、世界地図は現在位置を表示し、町はいつでも地図が確認できる。
そのため広大さによる不安と期待は序盤しか感じられず、飛行手段を手に入れる後半まで「広くてだるい」状態になってしまったのは残念。
やはりパーティのキャラクタもアニメーションする戦闘シーンは、流石にセガファンタシースターシリーズとかに比べるとテンポは良いもののドラクエとしてはテンポが悪く、これも退屈感を高めている。
テンションというシステムが新たに導入されていて、「ためる」コマンドにより、その後の「こうげき」や「まほう」の威力を高める事ができる。
…のだが、そのために最低1ターン、最高に上げるまで4ターン以上を消費するので、ザコ戦では「ためる」手間で全滅できるし、ボス戦では「いてつくはどう」でキャンセルされてしまうとこもあり、使いどころが難しい。
ただでさえテンポの悪い戦闘が、テンションシステムで更にテンポが悪くなってしまっている。
「ぼうぎょ」でテンションがたまるとか、戦闘が終わってもテンションが落ちないとか、レベルが上がるとテンションの上がりかたが急激になるとか、道具や特技でテンションを上げるための方法がもっと用意されているとか。
そういったテンション使わないと損だと思わせる仕掛けがないので、「使ってみると凄く役に立つ場面もある」という程度では、プレイヤーは使ってくれないんではないだろうか。
テンションシステムは失敗じゃないかなと思ってたら予想通り失敗だった、と言うレベルを超えて、この無策ぶりに逆に驚いた。
後、戦闘行為がビジュアルで表現されるようになったため、文字表現がかなり邪魔になっている。
これまでに比べ、かなりはしょられてはいるものの、「言わずもがな」なことを表示されるのが、少々じゃまに思えた。
逆に、戦闘アニメーション中はHPなどのステータスウインドウが消えてしまうのは、止めて欲しかった。
戦闘中にHPが把握できないと、次の作戦を立てにくいので、結果として戦闘中に「ぼけーっと見るだけ」の状態になってしまい、より一層、戦闘のテンポが悪く感じられた。
登場人物の発言や行動が全般にお行儀が良く、そのあたりでの面白みは少ないと言えるが、本作では戦闘メンバー4人が序盤で全員揃い、以後(ごく一時期を除き)パーティを維持する。
そのため、各キャラクタのエピソードもしっかり描け、引き締まったシナリオとなっている。
移動時にパーティメンバーが画面上をぞろぞろ歩くのがドラクエシリーズの特徴であったのだが、本作ではなんと先頭の一人しか表示されない上に常時走っている。
時のオカリナ以降のゼルダの伝説とめちゃめちゃ絵面が似ている。このため「日本のゲームは男が剣を持って走っているものばかり」などと揶揄されたりもした。
操作感もかなりゼルダっぽくなり、Ⅶの時点でかなり近づいたと言っていた両者が、もうこの時点ではしばらくプレイしても区別できないレベルまで近づいている。
もともと鳥山明の絵はデッサンがしっかりしていて、思いの外3D向きであることはスクウェアトバルNo.1の時点で証明されていたし、ドラゴンボールのゲーム化で何度も見ていたので、そう酷い事にはならないだろうと思ってはいたものの、お膝元のドラクエⅦの3Dムービーのできの悪さに、一抹の不安も抱いていたのも確か。
実際に見たゲーム画面は、そんな不安を一掃してくれる素晴らしいものになっていた。
町娘にⅦのマリベルっぽい格好をしているキャラがちょいちょい居たのも良かった、Ⅶの思い出はこの映像で上書きしたい。
装備した武器と盾は画面に反映され、特にゼシカに関しては全身のグラフィックが変更される防具が一部ある。
これは、グラフィックデータが大きい割にメモリの少ないPS2としてはけっこう頑張っていると言えるが、前述のように先頭の一人しか移動中は表示されないため、移動画面には先頭のキャラではなく主人公が出るもの、と最後まで思っていたプレイヤーも多いかと思われる。
また、グラフィックがリアルなので、ゼシカが「あぶない」系の服で町をウロウロしていると、痴女以外の何ものでもないという問題もある。
まぁ…痴女仲間の女戦士とかがいるので、恥ずかしくはないのかもしれないが。
全体としてのシナリオ(テキスト)量が、以前と比べると少なめということもあって、そうおかしな文章もなく、安心してプレイできた。
全体の流れも破綻も少なくまとまっているが、悪くいうと無難な仕上がりとも言え、全体の印象は薄め。
夢の中での語りかけや、別(二重)世界など、ドラクエ定番のシナリオシステムも面白くはあるが、定番なので使ってみました感があり、シナリオやゲームシステム根本に根ざしたものではない。
ドラクエⅥでも感じた、ドラクエ世界を利用したスピンオフ作品、的な印象は拭えなかった。
外伝として出ていたら「本編にしていいんじゃないか」との感想を持ったと思うが。
広い世界を移動する事が退屈と書いたが、本編に直接関係のない脇道シナリオが後半に集中しているのも、退屈さを強める原因の一つとなっている。
本編を進めるイベントしかない場合、それは作業、つまり退屈になりがちだからだ。トロデ王を筆頭に、キャラクタが本編を進めよう進めようとしてくるのもうざい。
プレイヤーの行動は、常に選択可能な状態が望ましい。
半透明ウィンドウがⅦよりちょっと濃くなって見やすくなったとか、左アナログスティックで移動して押すことで決定ができるので片手操作できて快適とか、細かい部分でのブラッシュアップも進んでいる。
ただ「はなす」と「なかま」コマンドって別に必要だったんだろうか、目の前に誰もいないところで「はなす」で仲間に話しかけるか、「しらべる」と同様に「はなす」コマンドは廃止した方がよかったかと思う。
代わりに「れんきんがま」コマンドを上の階層に置いて欲しかった。
左アナログスティックを動かすとメッセージを進められるのは便利だが、対応してない箇所もあったりして中途半端。
全体にインタフェースの完成度の高い本作だが、まだまだ洗練の余地があるものとも言える。
色々と苦言は書いたものの、やはりそこらのゲームとはレベルが違う。
ドラクエと思ってプレイするから気になる部分もあるが、一つのゲームとして見ると有り得ないぐらい快適に作られている。
例えば、読み込みに「Now Loading...」とか一切出ない。
ちなみに、スクウェアっぽさを感じたのは、フィールドの曲の入りがファイナルファンタジーのクリスタルのテーマっぽかったところぐらいだった。
リアル方向に舵を切った本作だが、さらにその先の路線に未来があるのかと言うと、ドラクエはあくまでも「テキストのゲーム」であり、堀井節を堪能するゲームであるので、どうもその先に未来はないように思えた。
このベクトルだと、次はキャラクタに声優を付けて音声でしゃべりだすしかなく、それをドラクエと言って良いかといえば「否」としか言えないだろう。
そこで結論。
一番ビジュアル化されたドラゴンクエストであり、まとまりも良い