亜鉛の匣舟

対応機種・周辺機器
Nintendo DS
ジャンル
ミステリーアドベンチャー
著作・制作
(c)fonfun corporation / althi inc. 2009

基本情報

「琥珀色の遺言」に続く(DSでの)「藤堂龍之介探偵日記」第弐弾。藤堂龍之介の最初の事件が語られる。

 個人的には本当の第弐弾「黄金の羅針盤」がけっこう好きなので、シリーズ第弐弾は名乗って欲しくないのだが…、もう「黄金の羅針盤」をリメイクする気ないの?
 そういや、携帯版の「瑠璃色の睡蓮」があるからシリーズナンバー的には4なのになぁ…。
 本稿で「前作」と書く場合、DS版「琥珀色の遺言」を指す。と注釈入れておかないといけないあたりがややこしい。

 ちなみに本作「亜鉛の匣舟」も携帯版が先にあり、その移植版である。
 なお、フルタイトルは「藤堂龍之介探偵日記 亜鉛の匣舟~相馬邸連続殺人事件~」。
 後、ほぼ同じ内容のiOS版もプレイしたので、その情報も入れておく。

システム

 例によって、コマンド選択型のとにかく登場人物へしつこくインタビューしていくことで話を進めるゲーム。
 システム的には、前作をほぼ踏襲。

 変化の一つとして、マップがクオータービュー表示になったことがある。
 暗めの色調とグラデーションのマップ、主人公アイコンの形と相まって「女神転生」シリーズっぽさ満開。悪魔が出てきそう。
 正直なところ、このゲームでクオータービューを採用する意味がよく分からない。移動の操作がやりにくくなった分のデメリットばかりが気になる。
 タッチペンで移動する分には、さほど引っ掛かりはないが、一気に移動してしまうので屋敷の構造が印象に残らない。
 クオータービューの利点である箱庭感も、壁との重ねあわせ処理をやってなくて単に一枚絵だったり、屋敷の外が描かれていなくて真っ黒だったりして、さほど立体感がないし。
 クオータービューはどうしてもドールハウス的印象を与えるので、前作の図面的なマップよりも、むしろリアリティは落ちる。
 前述の「黄金の羅針盤」がクオータービューだったのと合わせようとしているのかもしれないが、あちらは豪華客船という構造物としての面白さや広さがあったからハッタリが効いたところがあるが、屋敷一つではゲームのマップとしてはさほど広くなく、家具の模様や調度が確認できるほど細密な絵でもないため、よりオモチャっぽさが出てしまった感がある。
 後、部屋の中に人がいる場合に、主人公アイコンの上にキャラクタが表示されるが、これは逆に少々分かりにくい。
 ちなみにiOS版の2階のマップに1階の部屋が彩度も明度も落とさずに描いてあって、隠し部屋かと思ってたら限りなくバグに近い仕様のようだ。

 もう一つは、会話中の人物以外を暗めに表示する事で会話者を分かりやすくする、などの工夫が見られるところ。ただし何故か最終章ではこの工夫がなく、発言が非常に分かりにくい(iOS版では改善されている)
 ただ表情パターンは前作より少ない、というよりほとんどない。これは残念。

 人物相関図の部分に出る状況アイコンが、前作に比べて減っている…ここはちゃんと作り込みましょうよ!(iOS版では改善されている)

 他、細かいブラッシュアップがなされているが、システム全体に影響を与えるような変更はない、相変わらす手書きメモは雰囲気だけのシステムである。当然だが、リバーヒルソフトがパソコン用の製品につけていた、実物の探偵手帳ほどの雰囲気は味わえない。

 iOS版は、オプションがほとんどなく、難易度設定もなければ、文字表示速度設定もない。難易度はDSの「普」にあたり、そこが一番楽しめる難易度だろうからいいとして、文字表示速度が変更できないのは弱った。
 また、iOS版は文字自体は解像度が高いので読みやすいのだが、文字表示行数が少ない上にバックログ機能もないので読み辛い。
 ついでに、iOS版はコマンドが多いとスクロールして選択するのだが、スクロールがiOSの標準の滑らかスクロールではないので、そこもストレス。

ストーリー

 時系列的には(DSでの)前作「琥珀色の遺言」の少し前の話になる。
 登場人物は前作の半分程度の十数人に整理され、非常に分かりやすくなっている。
 超能力というオカルト要素が導入されているのが、探偵ものとしてはどうかなと思う。作品のリアリティの置き所がどこか、プレイヤーとしてはよく分からなくなってしまうからだ。

 ゲームとしては、そんなに酷い部類の文章に入らないとは思うが、もーちょっと頑張って欲しい。さほど印象的な台詞も出ず、説明し過ぎに感じる部分も多いし、言い回しにひっかかる感じのものがちょいちょいある。
 前作からそうではあったが、台詞も全体的に現代的すぎて大正の雰囲気を感じにくい。本当にリアルな大正の言葉にすると、プレイヤーが理解できないだろうから、現代的にするのは全然間違いじゃないが、もっと大正フレーバーば濃くていい。

 龍之介が人に頼り過ぎというか、登場キャラの方が先に真相にたどり着いているのが、初仕事の初々しさと見るべきなのかもしれないが、探偵ゲームとしてどーよ。

 戦争の愚かさ的なところがテーマにあると思うが、超能力研究やら血族の問題やら精神病問題とか、もう一歩上手く絡ませることができずに、幾つものテーマが消化不良のまま浮いているように思える。逆に言えばもう一歩なところまでは来ているとも感じる。
 ストーリーはともかく、キャラクタの精神が崩壊していく様の表現は、こういうコマンド選択ならではの、なかなか面白い演出。

 病院が併設されているという設定だが、病院の方へは一切行けない。
 …併設されているって設定にしない方が良かったんじゃないかなぁこれは、ゲーム的に。
 横にあるって言われると行きたくなるでしょ。プレイヤー心理としては。

 このシリーズ、フラグ的にちょっと変なタイミングで先が分かっちゃうところがあって、その辺あんまり神経が配られてないなぁ…と思う。
 まだそういう発言を聞いていないのに、周知の事実として会話に出て来たりとかする。
 フラグ管理大変だとは思うけど、コレをやられると「推理する雰囲気を楽しむ」というレベルでもムリな感じになってくる。

その他

 前作でお手伝いさんは和装だったのだが、本作ではメイド服が1人登場、これはいい。
 しかし、病院設定なのに看護服のキャラがいないのは失態だよ! メンソレータムのイラスト的なアレを期待するでしょーがっ!!

 グラフィックはDS版「琥珀色の遺言」を踏襲したものだが、多少アニメよりのキャラクタデザインとなっている。
 その後発売されたiOS版は、さらにアニメよりに描き直されている。
 このベクトルで行くと、洋館+メイド+美少女アニメ的なものになっちゃうんじゃなかろーか、とか余計な心配をしてしまう。
 そこまで行くとやり過ぎなので、踏みとどまって欲しい。

 なお、2編の短編小説がクリア後のオマケとして読める。これはもう…オマケですな完全に。
 ここで、主人公の龍之介の他にもう一人が主人公となった短編があるのだが、ちょっと本編の時点からキャラ推しが強すぎるように思う。主人公が霞んで良くない。
 ちなみにiOS版には、このオマケ小説はない。

 あちこちに携帯電話用に開発された制限故の仕様が散見される。
 登場人物を絞り込むことができたのは良い方向に働いている。
 逆に、表情とか相関図とかは移植の際に充実させて欲しかった。

 そこで結論。

「プチプチシートに大正浪漫のストーリーもついてきて面白い」


2012-05-05