脱出ゲームのパターン(1)

典型的な脱出ゲームのパターンを抜き出してみよう

弟をもてあそぶ姉である
枕の下とかね…あ、脱出ゲームの話ですよ

脱出ゲームは定番化した

 Googleトレンドで調べたところ、「脱出ゲーム」の検索回数はぐらいから順調に数を伸ばし、以後は安定した検索回数となっている。
 そう、脱出ゲームはもはやブームではなく定番となったのだ。

 てなわけで、定番の脱出ゲームのそのまた定番を調べてみようと言うのが本稿。
 定番と私が思っているものを適当に並べているだけなので、人によっては「他にもこれがあるだろー」的なことがあるかもしれない。
 教えてもらえると、適当に記事を更新したりしなかったりすると思うのでよろしゅうに(連絡先は鳶嶋工房 / 著作者情報(About))をご覧ください)

 性質上「メタネタバレ」になるので、まだまだ脱出ゲームを楽しみたい人は見ない方がよろしい。
 逆に脱出ゲームを作ろうとする人には大いに手がかりとなるものと思われる。

 ゲーム全般の仕掛けを考察する前に、ジャンルを限定して肩ならしをする意味もある。
 今後やる予定の特にアドベンチャーゲームシステムのパターンの解析とモロかぶりだと思う。
 このゲームエッセイ、わりと人気コンテンツなのに更新しないにも程があるので、今年は気を引き締めて更新していきたい。

最初Flashで操作できるようにページを作っていたんですが、Flash廃止の流れを受けサンプル画像貼り付けに変更しています。

まず基本設定

 以下、典型的な基本設定を並べる。このへんを軸として各ゲーム作者は、ちょっとずつズラして工夫をしているが、あまり外れると逆に魅力が無くなってしまうか、もはや別ジャンルになる。

  • 主人公は部屋に閉じ込められている
  • 目的は部屋から出る事
  • 部屋はひとつだけ
  • 主人公以外に登場人物がいない

 ゲームシステム的には次のような特徴がある。

  • 主人公の主観視点
  • マウスのクリック操作のみでプレイ可能
  • ダウンロード不要のブラウザゲーム

 既に脱出王のゲームデザイン(1)であらかた語っている気もするが、このあたりを踏襲しておけば間違いなく脱出ゲームを名乗れる。

動く


意外に脱出ゲームでは東西南北は意識されない

 大抵は画面端のクリックで視点が左右に回り、何回か繰り返す事で部屋を一周する。
 それに加え、画面中の特定箇所をクリックすると視点が変更される。
 妙にクリックポイントがシビアなことがあり、一度視点を変更する事ができたものの、二度とその画面が拝めないということも多い。これを不親切ととるか、探索の楽しみととるかは微妙なバランスだが、見た目を裏切るクリックポイントは避けた方が良いだろう。
 実際ならちょっと覗き込むのぐらい簡単な箇所も、グラフィック的にもシビアに (見える範囲を狭く)しておくと、なんだかクリックポイントがシビアである事が納得させられる。

 視点の変更は四方の壁に加えて「位置を変える」「拡大する」のような変更が付随することが基本だが、「位置変更して拡大」というように複数の段階を踏む場合もある。
 しかし複数の段階があるとユーザに現在の状態を理解させるのが難しくなる。また移動も単純な「ハブアンドスポーク(※)」から外れるので、移動の操作比率が増え脱出ゲームの面白さの中心のひとつである調査に対するストレスとなりかねない危険がある。

※「ハブアンドスポーク」とは自転車の車輪のように中心(ホームメニュー)があり周辺に行っては戻る([戻る][ホーム]ボタン)というタイプのユーザインタフェース。
 脱出ゲームの場合はホームがひとつではなく4つ(壁)である時点で単純な「ハブアンドスポーク」ではない。
 ちなみにこの「ハブアンドスポーク」という言葉はユーザインタフェース以外でもよく使われる喩え。ハブ空港という言葉は聞いた事があるかと思う。

参考: GOT mail /「脱出ゲーム」の作り方

位置を変える


脱出ゲームばっかりやっていると、現実でも壁との隙間が気になってしょうがなくなる

 さて、ではその視点変更の定番箇所を並べてみよう。

  • タンスなどの家具の裏→壁との隙間が覗ける視点へ。
  • 画面上 → 天井を見上げる。
  • 棚の上 → 棚の上を見る。
  • ソファなどの家具の下 → 這って床との隙間を見る。
  • 鉢植えなど → 上や横などの別角度。
  • ゴミ箱などの筒状のものの口 → 上から覗く。
  • カウンターの入り口 → カウンターの向こう側へ移動。
  • 梯子 → ロフト(あるいは2段ベッド)の上に移動。

 この辺りが定番だろうか。
 カウンター内やロフト上でさらに視点変更が可能である場合、それらは実質上の2部屋目になる。
 部屋の中に車などの乗り物がある場合もあるが、これも別の部屋があるのと同等の効果がある。

 変更された視点から戻るには「画面の下側をクリックする」というのがパターン。

拡大する


図書館に行くとどこかにスイッチがあるんじゃないかと気になってしまう

 視点変更の一種であるズームは、特別な意味を持つ。
 細かい情報が得られるというだけでなく、多くは近づいたものが「操作できる」ということを意味する。

  • 机や小物入れラックなどの引き出し→引き出してアイテム入手。
  • コンピュータ・本・ビデオデッキなど → 開いて情報入手。
  • 絵や掛軸・ボスター・タペストリー・時計 → 取り外すと裏か壁に情報・アイテム入手。
  • 宝箱・金庫 → 鍵・パスワードで開き情報・アイテム入手。

 その他、レジスターやらコンロやらの定置型の機械類は全て、拡大視点へと移行する契機になる。

道具による変更

 道具を使う事による視野の変化も、視点変更の一種と言える。

  • 鏡 → 鏡像により情報を得る。見づらい箇所を反射で見る。
  • 眼鏡をかける → 辺りがはっきり見える。
  • 双眼鏡 → 窓の外などの遠くにあるヒントが見える。
  • 顕微鏡 → 拡大して小さなヒントが見れる。
  • 監視カメラ → 棚の上や部屋の外など意外な場所が見れる。

 ちなみに、鏡が登場するゲームは少なくないが、主人公の顔が映る事は稀。監視カメラも同様。

動かす

 画面をクリックした時に、視点(主人公)が動くのではなく画面内のものが動く場合がある。

開閉箇所


子供の頃、カーテンをひたすら開け閉めして怒られた事はないだろうか

 最終的には脱出するためのドアを開ける必要があるが、それ以外の扉はどんどん開ける。
 扉(蓋)の存在によって、1部屋しかない脱出ゲームも奥行きと情報密度が出てくる。

  • 押し入れ、天袋・地袋など作り付けの収納扉。
  • 戸棚、引き出しなどの家具。
  • カーテン・ブラインド。
  • 床敷物、布団、シーツ、枕、クッション。
  • 床下(天井)収納。
  • 本棚など、家具そのものが動く。
  • 壁紙やポスター、絵などを剥がしたり破いたりする。
  • 段ボールなどの箱。

 これらの扉には錠がついている場合も多く、探索箇所を狭めてクリアまでのルートを整える効果がある。
 錠が付いていれば、その先は調べようがなく、自然調べる箇所は少なくてすみ、プレイヤーのストレスを軽減する。
 一見すると鍵がかかっている方がストレスが貯まるように思えるが、実際はその逆で、最初からあまりにも全て探索できる状態になっていると、組み合わせパターンが膨大になり攻略難易度が極端に上昇する。

 開けるために必要なのは必ずしも鍵ではなく、例えばナイフがあれば布で覆われた部分は開ける。
 無理矢理こじ開けるというパターンも意外に多いが、知恵の輪を筋力で外したような感じでプレイヤーとしてはあまりスッキリしない。

定番家具

 脱出ゲームに登場する「持ち運べないが動かせる(可能性のある)道具」それが家具。
 壁あるいは床との隙間は全ての家具でのアイテム隠しのパターンとなっているため、まず隙間をクリックするのが定石。
 そんな脱出ゲームに登場する代表的な家具を並べてみる。

ベッド・ソファ

 枕(クッション)の下に何か隠してあるのがド定番。
 しかし所詮寝る場所であって人が活動する場所ではないので、情報量はさほど多くない。

 意外に衣装箪笥は出てこない。出すと隠せる場所が多すぎる上に、衣服を広げて戻すことの手間が尋常ではないので家捜し対象には向かない。
 これがクローゼットになると数着がかけられている程度でも変な感じではないので、脱出ゲームではまずまずの出現頻度。
 脱出ゲームの舞台は寝室が一番ポピュラーと思われるが、台所が舞台となる事も珍しくない。
 その際は食器棚、戸棚、冷蔵庫、床下収納と収納箇所のバリエーションが一気に広がる。
 本棚について詳しくは次回、本の項目で解説する。

椅子

 椅子はそれのみではさほど重要ではないが、複数存在する事が多いのと比較的容易に移動できるものである事が特徴だ。
 そのため、その位置や色・形が、暗号あるいは鍵になっていることもある。
 移動可能なため、机の下や床の上に隠された物に対する扉の役割をしている。
 また、高い場所にあって届かないものに対する足継ぎの役割もする。
 ゲームによっては家具ではなく持ち運べる道具の扱いになっている事もある。

ゴミ箱

 ゴミ箱があると一直線に漁りにいくのが脱出ゲーマーの悲しい性。といってもいいぐらい良く出てくる上にほとんどの場合にアイテムが入っている。
 もう脱出ゲーム世界の中では「ゴミ箱=宝箱」と言っても、さほど間違いではないだろう。

 机は部屋の中にあるもうひとつの部屋と言ってもいいだろう。
 本棚や敷物、引き出し、照明、鉢植え、部屋の中にあるものは一通り机にもありうる。
 部屋の中で最も人が活動する時間が長い場所であるだけあって、様々な道具が集中して存在する。
 下手に作ってあると「机の上で遭難して部屋の中に戻って来れない」という事すらある。
 前に書いた通り、カウンターとなると部屋の中を区切る意図が大きくなる。

まとめ

 長くなってきたので、脱出ゲームのパターンは分割する。
 今回は、主人公の移動と家具の開閉という大きなグラフィック変化のある部分を取り上げた。
 多くのプレイヤーは、この時点でかなり楽しいと思えているのではないいだろうか。
 逆にこのクリックしたあとの変化がなくなってくると、多くのプレイヤーが投げ出すタイミングではないかと思う。
 プレイし始めてしばらく知らない画面を見ていく事だけ楽しみ、クリアせずにいるプレイヤーも少なくないと想像する。

 そこで結論。

クリックすると変化がある、結局そこが脱出ゲームの魅力ではないか