CUIコマンド短縮入力
いかに日米のアドベンチャーは違う進化を辿ったか
CUI入力とコマンド選択の道
さて、CUIコマンド入力の問題点は、基本的にはコマンド選択より面倒、と思われている事である。
本質的には、CUIコマンド入力がコマンド選択より面倒とは限らず、面倒かどうかは最終的な各ゲームの作りに依存する。
とはいえ、単純にコマンドとなる単語を全部入力するのは面倒なのは間違いない。そこでどんどん入力を簡単にする方法が進化していった。
米国でCUI入力型が選択型にならずに、快適な方向を目指して進化していく様子と、対して日本では一目散にコマンド選択型へ進んでいく様子を追って見よう。
これは、どちらが良いという話ではなく、目指す方向は色々あるという話だ。
また本稿は、年代のアドベンチャーゲームの総括としても読める。
省略コマンド
CUI入力の名前からも分かるように、これはUNIXシェルやDOSなどのCUIOSのコマンド入力と極めて近い操作法である。
当然、「CHANGE DIRECTORY」が「CD」に略されるような、コマンドプロンプト的発想が発生する。
そもそもが、MITのメインフレーム上で生まれた遊びだけに、省略という方法はジャンル発生当初から装備されていた。
とにかく場所を移動する事は、絶対不可欠と言ってもいいコマンドなので、ほとんどの米国のCUI入力型アドベンチャーゲームに装備される事となる。
方角を指定して移動する事が多かったので、イク(GO)を使わずに、ニシ(WEST)、ヒガシ(EAST)、キタ(NORTH)、ミナミ(SOUTH)のみで、その方向に移動できる場合も多く、さらにW、E、N、Sと一文字だけに省略できるゲームも多い。
つまり、「GO SOUTH」が「S」に短縮されたわけだから断然簡単!
WESがキーボード左上に集中して、その方角と同じ並びで存在するのも分かりやすい。
更に細かく、ホクセイ(NORTHWEST=NW)、ホクトウ(NORTHEAST=NE)、ナンセイ(SOUTHWEST=SW)、ナントウ(SOUTHEAST=SE)が使えるものもある。
船や飛行機の上、宇宙空間などでは方角が一定しないか無いので、ヒダリ(LEFT)、ミギ(RIGHT)、マエ(FRONT)、ウシロ(BACK)を使う事になるが、これらもL,R,F,Bと省略される。
同様に、上下方向はウエ(UP)、シタ(DOWN)で、略はU,Dとなる。
UPなんかひとつ減るだけじゃーんとか思わなくもないが、「移動というモード」を考えると、その一文字が与える影響は小さくない。
文字を入力した後にリターンキーを押さなければいけないものの、リアルタイムゲームに近い感覚で移動可能だ。
ただしテキストアドベンチャーならともかく、当初のグラフィックアドベンチャーは描画が遅く、入力を省略しても大した時間の節約にはならず、リアルタイムゲーム感覚には間違ってもならない。
特にテキストアドベンチャーでは、現状を確認するには周りを見るコマンドを入力せざるを得ない。
「ミル マワリ」は「LOOK AROUND」だが、これは「LOOK」でも可能であり、さらには「L」のみでも行なえるゲームも多い。
同様の理由で、シラベル(EXAMINE)はXに省略可能、モチモノ(INVENTORY)はIに省略可能なものが多くある。
また、マツ(WAIT)は、休むからの発想か「Z」となっている。何か起きるまで連続入力することになるので、省略形があるのも当然。
でもサラダの国のトマト姫は、Zで待つってシステムじゃないのに待つ必要があるってのは凶悪だった…そんなんわかんねーよハドソーン!!
ファンクションキーに単語登録
使用頻度の高いコマンドをファンクションキーに登録して、ファンクションキーを押せばそのコマンドが入力される、というシステムは、日本製のほとんどのゲームが採用していた。
TRS-80やPET-2001,AppleⅡのようなファンクションキーがなくDOSが標準のパソコンが主流の米国と違い、日本のパソコン(マイコン)がBASICをOS的に使っていて、ファンクションキーにより使用頻度の高いプログラムコマンドを入力できる、という仕様から実に自然に導きだされた手法だ。
更には、状況によってファンクションキーに登録されるコマンドが変わる、といったゲームも発生し、ますますCUI入力の必要性が無くなっていく。
このコマンドが常に画面に表示され、キー(ボタン)を押すだけで入力されるという方法は、ほとんどのプレイ時間はキーボードのメインからCUI入力しない、という状態を発生させた。
それじゃあもう、最初からファンクションキー(テンキー)に使えるコマンドを全部登録しちゃったらいいじゃん、という発想が生まれるのは自然な流れと言える。
ファンクションキーが、コマンド選択という手法への転換のハードルを下げた一因なのは間違いない。
カーソルキー・テンキー移動
ファンクションキーと違い、主に移動に使われたのが、カーソルキーやテンキーだ。
これらのキーの4方向が方角(EWNS)や方向(LRFB)に対応していて、コマンドを入力しなくても、移動は3Dダンジョン風にできるというもの。
これもまた日本のアドベンチャーゲームに多く、当時爆発的人気のファミリーコンピュータの影響や(アクション)RPGの影響を感じる。
W,E,N,Sにしてもコマンドであるため、その後にリターンキーを押さねばならない。そこにワンテンポずれが出る。
カーソルキーを押した時点で移動すると、入力と移動までのテンポのズレは無い。
ファミリーコンピュータで十字キーの甘さを知ったプレイヤーと制作者にとっては、当然の帰結だ。
ただし、リターンを押さなければ何も進まないというCUI入力の持つテンポとの激しい落差を生むため、プレイヤーに「極力CUI入力を回避してゲームを進めたい」という心理を発生させる、CUI入力を否定する手法でもある。
これもまた、ファンクションキーとともにコマンド選択型への移行を押し進める要因となった。
代名詞
動詞に関しては、よく使うものがかなりはっきりしているので、省略語を作るという発想である程度解決を見た。
移動方向・方角にしても、実用上は動詞(GO)に名詞も含めたものである。実際は単純な名詞ではない。
動詞に比べて、名詞は幅が広すぎる。イス(CHAIR)はCだとか決められていても、覚えておく方が面倒だ。
人間の行動は、「何かに注目し、それに対して行動を行なう」という段階を踏む。
そこで、直前に使った名詞は代名詞で指定できるという、正にソレ(it)が使えるというシステムが作られた。
特に長い名詞は入力の手間が馬鹿にならないので有難いし、CUI入力の利点を損なう事も無い。
コマンド>ミル ハンドヘルドコンピュータ コマンド>ツカウ ソレ
直前に使った動詞や名詞を、ファンクションキーで選択できる、というシステムもある。代名詞と似ているようで、実はかなり違う。
というのもファンクションキーは文章を入力するという行為とはまた違う思考や身体感覚を発生させる。
ファンクションキーは文章を書くというより、「ボタンを押して操作する」時の思考に近くなる。
日本では名詞指定は、という早い段階(T&Eソフト惑星メフィウス)からカーソルキーで画面を指定するという方向に進む。
これもまたCUI入力を否定するシステムである。
対して、米国では(Lucasfilm Games Maniac Mansion、Cyan the Manhole、ICOM Simulations Shadow Gate)というマウスが一般的になる次期まで、アドベンチャーゲームはとにかくCUI入力だった。
Sierra On-Line King's Questのようにキャラクタをカーソルキーで動かしていながらも、CUI入力だったのである。
繰り返し
もう一回という行動は結構ある。ゲームパッドでアクションゲームしている人をCUIコマンドで表せば、「ボタン オス」「ボタン オス」「ボタン オス」「ボタン オス」「ボタン オス」…って行動になる。
CUI入力システムで本当にこれを入力するのは、あまりに面倒。ならば省略を行ないたい。
そこで、直前の入力を繰り返す、AGAINというコマンドが採用される。繰り返しを簡単にするためのコマンドが直前の入力より入力数が多かったり、同じ位だったりするのでは意味があまり無いので、当然これにも省略「G」が用意される。
日本のゲームで採用されているものは記憶に無い。ここまで発達する前に絶滅したということか、私が気づいてないだけかはちょっと分からないが。
総括
つまり日本のアドベンチャーゲームは、CUI入力が面倒だという問題を「CUI入力を簡単にする」という発想ではなく「CUI入力をさせない」という発想で解決しようとしてきたのだから、自然とその先にあるのはCUI入力の絶滅である。
コマンド短縮手法という面から見ただけでも絶滅への道を感じるが、日本でのCUI入力の絶滅要因は他にも沢山ある。
一番大きいのは「堀井雄二という才能の存在」と言い切ってもいいかもしれない。
少なくとも、ログインソフト北海道連鎖殺人オホーツクに消ゆがつまらないゲームだったら…。
エニックスドラゴンクエストの衝撃がなかったら、また別の進化があったのは間違いないだろう。
逆に言えば、これからも日本ではテキストアドベンチャーはダメという理由は特にない、映画があるのに本を読む人間がいるなら、テキストアドベンチャーをプレイする人間も必ずいる。
以前は問題だったキーボード入力の敷居も、パソコンによる文章入力、特にチャットが普及するにつれ確実に低くなっている。
対して、米国ではタイプライター文化や、CUI入力ゲーム時代の長さ、パソコンの作り、家庭用ゲーム機との住み分け、クリアできないゲームを許容するプレイヤー、その他諸々の事情が絡んで、CUI入力は生き残りプレイされ続けている。
そして、おそらく文字を読む行為が絶滅する前に絶滅する事も無いだろう。
ちなみに、コマンド選択型アドベンチャーゲームがアメリカに無いわけではない。日本より発生は遅かったし、その作りもかなり違うものだ。これはまた別に語りたい。
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そこで結論。
CUI入力でもプレイは楽に、コマンド選択でもプレイは面倒になる