振動機能を考える

いまや標準装備となった振動機能って必要なの?

エアバイクとフライングプラットホームの違いは、たぶん乗りかただけ
振動がOFFにできる乗り物はゲームの中だけ!

今、振動機能が注目されている…変な所でですが

 米Immersion社が2002年2月、SCEI、SCEA、Microsoftを、振動機能の著作権侵害で訴えた。
 MSは2003年7月に和解金を支払い、現在許諾を受けてコントローラを製造している。
 ソニーは突っぱね、2005年4月に、米カリフォルニア州オークランドの連邦地裁がPSの販売差し止めを命じ、振動技術だけに業界を震撼させている。
 ソニーは今後も販売は続ける、と強気だが、ソニーが特許チェックを怠った、もしくは故意に無視した、というのが現実の所のようだ。

 MSだけでなく任天堂やセガも、Immersion社に使用料を払っているようだし、各コントローラを製造販売しているサードパーティーでも、ロジテックはImmersion社の許諾を受けているようだ。

 ゲーム業界にとって、振動機能が大ニュースとなるほど、振動機能は成長し浸透している。
 何故これほど普及したのか歴史を振り返りつつ、その意義や適切な振動の使い方を考えてみよう。

 この訴訟は、2007年3月に和解に至り、ソニーが以前の使用料及び和解金を支払った。
 その間に発売されたPS3のコントローラには振動機能が搭載されていない。
 ソニーは「ユーザのために、この前時代的な振動機能は取り払った」などと嘯いていた。
 しかし、和解が成立したその年の2007年11月には振動機能を搭載したDUAL SHOCK3を発売し、さらにその後PS3本体の同梱コントローラもDUAL SHOCK3となった。
 結局、振動機能を切ったことはPS3普及の足かせのひとつとなり、ユーザおよび開発者が迷惑を被る結果となった。

振動機能の歴史

業務用(ゲームセンター)での歴史

 ゲームセンターでは、1987年のタイトーダライアスが採用した、重低音とともにシートを振動させるボディソニックが振動機能の先鞭となった。
 当時は3画面の迫力もさることながら、ボディソニックによるシートの振動に、戦闘機のコックピットに座っているかのような興奮を覚えたものである。

 また、セガアウトランスペースハリアー等の体感筐体で使われたムービングシートも、大きな意味では振動機能の始祖と言えるものだ。
 他にも、ナムコスティールガンナー等の銃が筐体に固定されたタイプのガンシューティングの多くにも、振動機能が搭載された。
 業務用筐体ではないが、撃たれると振動するヘッドバンドが特徴的な光線銃、トミーサバイバーショットが、1987年に発売されているのも、興味深い。

 しかし、90年代のゲームセンターでは「対戦」がクローズアップされたこともあって主流とはならず、振動機能は家庭用での登場を待つことになる。

家庭用(コンシューマ)での歴史

 ダライアスから10年、1997年4月に広末涼子の「しびれるー」のCMが印象的なスターフォックス64と同時発売されたNintendo64の振動パックが家庭用初となる。
 1997年11月に、プレイステーション用コントローラデュアルショックが振動機能を内蔵し、振動機能付きコントローラの普及は決定的なものとなる(ちなみに、PS用アナログコントローラ、通称シングルショックは4月に出ているが、これはN64の振動パックへの当て馬以上の意味は無い)
 さらに1999年4月には、ゲームボーイのカートリッジに振動機能を組み込んだポケモンピンボールが発売され、振動するという触覚に訴えかけるインタフェースが、携帯ゲーム機にまで普及を果たす。

 家庭用のものとしては他に、1997年8月発売のマイクロソフトのパソコン用コントローラSidewinder ForceFeedback Proがある。
 サイドワインダーが搭載したフィードバック機能は、単なる振動機能とは違い、操縦桿の「重さ」なども表現できる高度な機能であるが、日本においてはフライトシミュレータFPSというジャンルは人気がなく、当然操縦桿コントローラも全く普及しておらず、多くの人はフォースフィードバックコントローラを知らない。

 1990年代後半に入って爆発的普及を果たした携帯電話には振動機能が組み込まれており、コストダウン、サイズダウン、消費電力ダウンが進んでいたことが、ゲームコントローラの振動機能登場の大きな要因であったのは間違いない。

振動機能の問題点

 まず、ゲームプレイ時に、振動によって操作が狂うという基本的な問題がある。
 これが振動機能が嫌われる第一の理由だろう。
 とはいえ、振動機能が家庭用ゲーム機に装備されてから10年程度で、そこまで派手にゆらさなくても演出効果としては十分であることが分かってきたので、いまやあまり問題ではない。

 触感に訴える装置であるので「触られている」ことに近い事もあり、パーソナルエリアを侵されたうるささを感じる。
 感情に訴える事ができるという利点と表裏一体であるのだが、残念ながら、乙女の手で触れられているような繊細さは、現在の振動機能には無く、不快が先に立つ人が少なからずいる。

 現状では、メトロノームのようにタイミング取りに使えるほどの精度は無いようで、今の所、音楽とぴっちりシンクロした振動をするゲームの記憶は無い。
 これは、技術が進めば解消される問題であろう、現在も、釣りのタイミング取り程度には使われている。

 チェーンソーを使う仕事に付いている人などがかかる白蝋病にかかったゲーマーもいるので、健康の面からも、あまりに頻繁な振動や長時間の振動は勧められない。
 病気になるまでゲームばっかりやっている方が悪いというのが、一般的な感覚ではあるだろう…。
 また開発の方も危険性を考慮して、しょっちゅう派手に振動するゲームは作らないようになっている。

 手に障碍を持つ場合等は、振動が痛みを与えてしまう事も、大きな問題である。
 逆に、視覚障碍者向けでは、音以外の情報としての振動は重要でもある。

 これらの問題もあり、音を切るオプションがないゲームでも、振動を切る事は必ずできるようになっている。
 つまり、振動がないとプレイできないゲームは基本的に作れない、ということでもある。

振動機能の使われかた

触感の表現

 一番当たり前の使い方が、爆発がおきた、地震が起きた、でこぼこの路面を走った等、プレイヤーの体全体が振動していることを表現するために使う事。
 この場合は、状況が継続している間、振動させ続ける。単純に同じ振動を続けるのではなく、強弱を付けたりして振動する。
 先に書いたボディソニックや重低音スピーカ内蔵シートのような、体全体に感じる振動を発生する機器との相性が良い。

 キャラクターが持った綱や釣り竿が引っ張られているとか、暑いものや冷たいもの、ざらざらしたものに触った等の触感の代用としても、振動が使われる。
 このような手で感じる触感は、手で掴むタイプのコントローラとの相性が良い。
 ゲームセンターで主流の、スティック+ボタンの方式ではちょっと使えない。

 振動ではなく、衝撃の表現にも振動を代用する。
 ジャンプの着地の衝撃、攻撃を受けた、又はプレイヤーが固いものを直接攻撃した時の衝撃等。
 このような場合、一瞬だけ振動させる。

雰囲気の表現

 プレイヤーキャラクターに物理的な振動や衝撃が無かったとしても、心的な衝撃、つまり驚きの表現として使う場合もある。
 多くの場合、瞬間的に振動させる。

 他に、「なんだか怪しい雰囲気」を振動で表現する事もある。
 そのような使い方をしているのは、あまり多くないようだが、例えば任天堂ゼルダの伝説 時のオカリナのもだえ石、セガエターナルアルカディアのキュピルなどはそうである。
 怪しい場所に近づくと振動が強くなり、離れると止まる。

振動ゲーム密度

 振動の種類を分ける重要な要素がある。それはプレイヤーの判断を左右するような振動かそうでないか、というもの。
 つまり以前ゲーム密度で書いた、ゲームと画面の関わりの振動版を考えれば良い。

 しかし、先に書いたように様々な問題があって、振動が無いとゲームが成り立たないようなものは作りにくい。
 そこで、次善の策として振動を映像や音に変換することになるのだが、それが非常に困難である場合もある。
 例えば、レースゲームで路面が悪くて振動する場合、振動によって操作しづらくなる事自体が面白さとして成立するので、映像や音の情報に変換すると完全にゲームの質や面白さが変わってしまうこともある。

 映像や音に変換できるようなものであれば、振動させる必要もあまり無い訳でもあるので、なかなか悩ましい所ではあるのだが。

振動の意義

 インタフェースというものは、入力装置と出力装置が一体化しているべきである。
 石を押したら石が動くのが当然で、石を押したら鳥が鳴くなんて事は無い。
 コントローラ(ボタン)を押したら、コントローラが震える。これは実に自然な事なのだ。

 例えば、コントローラ(入力装置)に画面(出力装置)が付いている携帯ゲーム機というのは、実に自然なインタフェースを持っていると言える。
 そしてNintendo DSのタッチパネルは、入力と出力がより近づいた、非常に正しい進化だと言える。
 振動コントローラという装置も、また正しいといえよう。

 以前遠隔操作という感覚で、離れた所にあるものが動くということ自体が面白い、と書いた。
 それは「非日常的であるから面白い」のと同時に、「非日常的で分かりにくい」のである。
 そこを埋める意味でも、分かりやすい振動というインタフェースの妙味がある。

 また、現在のコンピュータゲームの多くは、ディスプレイの中で終わってしまうことに、遊びとしての広がりの無さがある。
 振動は、ゲームがディスプレイの外へ出るための橋頭堡でもあるのだ、これを切ってはいけない。

 振動は、黎明期にあるゲームの中でも、まだ進化の初期段階に位置している。
 ソフトウェア的にも、ハードウェア的にも、まだまだ進歩する余地が大いにある。

 そこで結論。

映像、音声に続く第三の出力「振動」、まだまだ広がるぞ

追記

 振動機能の使い方はかなり洗練されてきているが、本文にも書いたように、振動を前提としたゲームが作りにくいこともあり、洗練はされても革新はない、というのが現状だ。

追記

 当初ONとOFFぐらいしか感じられなかった振動機能は世代を経るごとに高度化し、Switchに搭載されたHD振動はこの記事でも書いた「触感」をかなりリアルに再現できるレベルに到達した。
 ミニゲーム集である任天堂1-2-Switchには、多くの振動前提ゲームが含まれている。これは今後の振動の使い方のデモとして興味深い。