クオータービュー考察
2Dゲームの視点の一つ、クオータービューの利点・欠点
クオータービュー(等角投影図)とは
クオータービューは、正確にはxyzの軸が平面上で120度になるように描かれた図で、建築関連で使われるアイソメ図もこれにあたる。
ゲーム用語としては、マップの構成単位となる箱が斜めに置かれているもの全般を言う。
この「箱」というのがミソで、トップビューやサイドビューでは奥行きの存在が希薄で画面が「板」で構成されているが、クオータービューは「箱」なのである。
このため、3次元的なマップを作りやすい。
実のところ、視点としてはトップビューの一種であるのだが、オブジェクトを斜めの角度に配置することで、立体感を強くしたのがクオータービューである。
クオータービューの特徴
トップビュー考察サイドビュー考察に続く2Dゲームの視点シリーズ最終回。
事前にゲーム密度を参照しておくと、より面白く読めるかと思う。
では、クオータービューの特徴を並べていこう。
立体的な表現に優れる
クオータービューを採用する、もっとも優先順位の高い理由は立体的な表現が可能であることにつきる。
この角度で描いた図は、プラモデルの組み立て図や家電の取扱説明書でよく見る。
箱庭感
見下ろしで立体的なこの視点は、強烈な箱庭感がある。
箱庭感とは、立体による「現実感」と同時に、上空から見た事による「客観性」を同時に持つ感覚。
それは、模型感覚、ジオラマ感覚、人形遊び感覚、と言ってもいいかもしれない。
クオータービューは、奥の方が小さく表示されるという遠近法(パース)がないため、画面全体が大きなものに見えない。
人間が見下ろしたところにあるものがこのように見えるため、自然と机の上のような雰囲気が出てくるわけだ。
MAXISシムシティやアートディンクA列車で行こうのような街を育てるものはシリーズ途中に、このクオータービューを経験している。
またウォーシミュレーションの戦術シーンにも、よく似合う。
クエストタクティクスオウガや日本一ソフトウェア魔界戦記ディスガイアが印象深い。
つまり、武将の視点である光栄三国志、神の視点Bullfrogポピュラスなどの客観性の高いプレイヤー視点に良く合っている。
パターンは少なめ
クオータービューのパターン数は、トップビューの2/3、サイドビューの2倍という中間的な量である。
プログラムに高い技術力やマシンパワーを必要とする割に、パターン数は少なくて済むのである。
ちなみに、8方向となるとクオーターもトップも同じだけの数が必要になる。
一見パターンは描きにくく感じるが、ある程度のドット打ちの実力と解像度・色数があれば、トップビューよりむしろ角度がはっきりしているぶんクオータービューの方が描きやすい。
方向の均等化
地面(床)となる四角の4辺が、同じ角度と長さの斜め線になるので、方向や距離が均等化している。
この性質は方向による距離の測り間違いを生まないので、ウォーシミュレーションに向いている。
それと同時に方角が分かりづらいという問題を生んでいる。
だいたい右上が北となっているが、トップビューの上ほどの共通認識は無く、左上が北、又は上が北という理解があってもおかしくない。
ヒントとして方角が良く使われるRPGには向かない視点だ。
奥行きが存在する
立体的な表現が可能であるという事は、まともに作れば必然的に重ね合わせが起きる。
奥方向に圧縮されているとも言え、同じキャラクタの大きさでも、トップビューやサイドビューに比べ、画面中の情報量(床面積)を増やせる。
しかし重ね合わせが行われているということは、プレイヤーの目からは隠れた部分が沢山出てくるという事でもある。
キャラクタは見えている筈のものが、プレイヤーには見えないという矛盾が出てくる。
それどころか、下手をするとキャラクタそのものが見えなくなってしまう事だってある。
そこで、プレイヤーキャラクタの頭身を高くする、頭上にカーソルや、クライマックスランドストーカーのフライデーのようにお供の妖精を置く、壁を半透明にする等して壁の裏に回っても見失わないようにする必要がある。
さらに極端な段差を置かないなどマップ制作上の工夫も必要となる。
入力が難しい
クオータービューは、一般に入力が難しいとされている。
単にクオータービューのゲームが少ないので慣れていないのと同時に、十字キーは上下左右4方向への入力が楽なように作られているため、斜め入力が相対的に難しいという理由がある。
ちなみに、十字キーは機種によって斜めに入りやすいものとそうでないものが存在し、おおざっぱに言えばサターンやメガドライブは斜め入力が楽、プレイステーションは困難、任天堂系はその中間。
そこで、入力しやすい上下左右を斜め移動に対応させる方法が、多くのクオータービューで取られている。時計回りに45度、入力方向と移動方向をずらす訳である。
この方法は、入力方向と移動方向がずれるので直感的でないが、わりと短時間で慣れる。
クオータービューのゲームでは、斜め入力にストレスの無いトラックボールを使用しているものが比較的多い。
アタリマーブルマッドネスは、トラックボールとクオータービューの組み合わせで成功した例である。
アナログスティックも全方向に均等にアナログ入力可能というトラックボールと同じような性質を持っているので、クオータービューとの相性はいい筈だが、特にうまく使ったタイトルは思い浮かばない。
家庭用ゲーム機においてアナログスティックは3Dポリゴンよりちょっと後に発生した。そのため、立体表現にはクオータービューではなくポリゴンが採用されたということが理由だろう。クオータービューとアナログスティックの相性が良くない、という事を意味するわけではない筈だ。
軸合わせが難しい
斜めになっているので、軸合わせが難しいという問題もある。
例えば、弾や敵がまっすぐ進むと、キャラクタにぶつかるかどうか、という事の判断が困難なのである。
当たり判定が分かりづらい
クオータービューのシューティングゲームは、アタリザクソン、ナムコメルヘンメイズ、サミービューポイント、アトラスプリクラ大作戦等があるが、ごく少数である。
というのも、シューティングゲームで一番大事な当たり判定が分かりにくいという欠点があるのだ。
だから、シューティングゲームで立体的な背景を描きたいという場合、多くはトップビューやサイドビューの画面に、一部斜めに配置したモノを置く、ということで実現されている。
離れた場所の高さ関係が分かりにくい
3D眼鏡を使用したり、任天堂バーチャルボーイや3DSでもなければ、結局表示するのは2次元のディスプレイなので、本当の立体ではない。離れた場所にあるものの高さ関係が案外分かりにくい。
この事が、クオータービューでのジャンプアクションを非常に作りにくいものとしている。
ほとんど唯一成功したと言ってもいいクライマックスランドストーカーも、高さの分かりにくさは全く解消できていない。
というかオブジェクトに影がついていないので、クオータービューのゲームの中でも特に分かりにくいと言ってもいい。
後にクライマックスが開発したスティールプリンセスではオブジェクトに影がつき分かりやすくなったが、それだけで解消できる問題でもなかった。
そこで、色(主に明るさ)や模様を高さで揃えたり、高さ情報を別に表示したり、空中にオブジェクトを置かない等の工夫が必要になる。
トップビューやサイドビューではあまり考慮の必要が無いところでも、クオータービューでは見やすさの面から制限されることが非常に多い。
大抵のゲームでは、ある程度の不具合はご了承下さい、という態度で作られているし、見やすさを優先させすぎると折角の立体の面白さがなくなってしまう。
そこで結論。
没入と客観、トップとサイド、中間視点の優越とジレンマ