サイドビュー考察

2Dゲームの代表的な視点、サイドビューの持つ利点・欠点

使い道の限定される魔法ですね
サイドビューの世界を斜めから見ると、もの凄い違和感

サイドビュー(側面図)とは

ジャンプアクションの画面

 横から見た視点であるサイドビューは、ジャンプアクションシューティングで主に使われる視点である。
 2013年現在4:3のテレビから、人間の視野角として自然な16:9のワイドテレビへの切り替えがほぼ終わっていることもあり、サイドビューは今後さらに重要になるゲーム視点と言える。

 前回のトップビュー考察に続いて、今度はこのサイドビューについて考察する。
 事前にゲーム密度を参照しておくと、より面白く読めるかと思う。

サイドビューの特徴

 まずは、サイドビューの持っている特徴を並べていこう。
 ただし、空中を自在に移動できるシューティングゲーム等では、これらの特徴の多くは存在しないか限定的である。

馴染みのある視点

 横から見るというのは、ものの形も非常に分かりやすく、子供が描く絵は大抵この視点であり、人間の把握している基本の視点と言える。
 実のところ、人間は奥行きはあまりはっきり認識できないのである。

 ところが自機が飛行機だと翼がはっきりわかる上の視点が飛行機らしく、逆に横からだとなんか「棒が飛んでるように」見えてしまう。
 そんなわけで、横シューの自機デザインには、かなり工夫が必要となる。

重力の存在

 縦方向の動きを表現しやすいので、強く上下(重力)を意識させる事ができ、重力を利用した仕掛けを作りやすい。
 例えば、噴射を制御して着陸するアスキームーンランディングが、重力をうまく使ったゲーム。
 ブローダーバンドロードランナー、セガ他テトリスなどのパズルゲームのルールの一つとしても重力は重要。
 とにかく、サイドビューは「重力」が大きなキーワードとなる。

移動場所が床によって制限される

 重力があるため床の上の移動が中心となり画面中の移動箇所は制限され、結果としてマップ密度は薄くなりやすい。

 床が1本しかないアイレムスパルタンXや、セガ北斗の拳なんかは、画面の多くはキャラクタが移動できない場所で、マップ密度はスカスカである。
 だから悪いというわけではないが、工夫しないとプレイ感までスカスカになる。

上への移動が困難

 サイドビューでは、上に移動する場合のストレスが、左右の比では無い。下への移動(落下)がほとんど一瞬と言っていいほどあっという間に行えることが、上への移動のストレスに拍車をかける。
 勢い1次元的な左右移動が中心となり、横スクロール中心のゲームとなることが多い。

 逆に、日本物産クレイジークライマーや任天堂アイスクライマーのように、困難な登攀という行為自体をゲームの中心に据えているものも、縦スクロールのサイドビューには多い。
 他にも、タイトーエレベーターアクションは上下移動にエレベーターという固定装置を利用しなければいけない、ということがゲームの面白さを作り出している。

キャラクタを大きく描ける

 単純に横方向だけの移動となると、キャラクタが小さい場合、特に縦方向の画面がスカスカになってしまう。
 逆に言えば、キャラクタを高い頭身で描けるわけだ。

 等身が上がって実際の人間と近くなれば、実際の人間のアクションが可能になる。アクションを豊富にすることによりゲーム密度を上げられる。
 これが進んでいるのがブローダーバンドプリンスオブペルシャのようなアクションアドベンチャー、そしてカプコンストリートファイターⅡをはじめとする対戦格闘ゲームである。

パターンを増やしやすい

 サイドビューで必要なのは右向きと左向きのパターンだが、これはどちらかを描いて一方は左右反転することで作れるので比較的容易にパターンを増やせる。
 これが4方向移動のトップビューだと、左右はサイドビューと同様に反転で作れるが上下に関してはそれぞれ作る必要があり格段に面倒になる。

結果として

 以上のような基本特徴から、結果として以下のような特徴も導きだされる。

特殊空間になりがち

 ジャンプして上らなきゃいけない空間は、普段の生活では全く遭遇しない。
 そんな訳で、サイドビューのゲームは、任天堂スーパーマリオブラザーズに代表されるように、ブロックは宙に浮いているわ、床は移動するわ、唐突にトランポリンはあるわと、摩訶不思議な世界になりがち。

 方角の切り替えなしのサイドビューで2次元的な全体マップを作ろうとすると、崖の壁面や地中、巨大な建物や樹木など特殊な設定にせざるをえない。
 例えば任天堂メトロイド、コナミ悪魔城ドラキュラのようなメトロイドヴァニアと呼ばれる作品群がそうである。

 セガエコーザドルフィンのように、主人公をイルカという縦方向への移動に慣れている生物にしてしまうという解決方法も存在しているのが、ゲームの面白い所だ。

方角を認識させづらい

緑の部分が、サイドビューの背景

 横への移動を中心として2次元的な全体マップを作ろうとすると、ドミノを縦横に接続したようなマップになる。
 こうなると、一定の方角から見た視点とすることはできないので、画面の左右が東西であったり南北であったりする。
 それほど迷いやすくはないものの、マップのつながりが認識しづらい。
 そのため、ヒントとして方角を使うことが難しい。

 エニックス(制作トライエース)ヴァルキリープロファイルのマップは平面的構造だが、手前・奥方向は方角を変えず奥スクロール方式にすることで、ある程度迷いにくくしている。
 また、アトラス(制作ヴァニラウェア)オーディンスフィアはサイドビューの画面端を繋いで円環状にし、とにかくどちらかの方向に移動し続ければ出入り口にたどり着く構造にしてあり、出入り口からの移動時は全体マップを参照させ、サイドビューでの方向とは無関係に移動する。
 特にRPGでは戦闘(アクション)シーンのみサイドビューとして、通常の移動はトップビューとするスクウェアファイナルファンタジーのようなものが多い。
 そのような工夫なしにサイドビューで立体的マップ構造を作ろうとすると、もの凄く迷いやすい。

野外が苦手

 1次元的な左右への移動が中心となると、どうしても通路に次ぐ通路という感じになるので、田舎の広大な平原なんかの、平面を何処へも行けるような場所の表現はすこぶる苦手で、理由も無く奥や手前には進めないという「透明の壁」問題が出てくる。
 逆に壁で囲まれた、都会の路地や屋敷の中とか地下通路といった閉塞空間が、サイドビューが得意な場所と言える。
 例えば、ヒューマンクロックタワーの洋館が、サイドビューに適した舞台である。

 しかし冒険ものの場合、閉塞空間ばかりという訳にもいかない。そこで、サイドビューで場面ごとを表現し、トップビューの全体地図を別に用意するという手法がとられる。
 任天堂リンクの冒険がそうであるが、この方法は著しくゲームの統一感を削ぐ。

 あるいは、アトラスプリンセスクラウンのように、街から街への移動とは道(1次元)の移動に他ならない、と割り切ってしまう方法もある。

サイドビューは舞台

 舞台のようなレイアウトとなりキャラクタを大きく描けるので、演劇的表現が可能である。
 加えて、パターンも増やしやすく、キャラクタの演技が見せやすいとも言い換えられる。

 ギブロ制作のワンダープロジェクトシリーズや七ツ風の島物語が、サイドビューゲーム中の演技という意味では出色である。
 また、前述のオーディンスフィアドラゴンズクラウンを制作しているヴァニラウェアもサイドビューでの演技という部分では突出している。
 逆に他ではほとんど見かけない。演技や演出という意味では、まだまだ掘り下げがいのあるレイアウトと言える。

 海外ではグラフィックアドベンチャー初期のSierra On-LineKing's Quest(1980)、少し時代は下ってドッグショーゲームのAddison-WesleyPuppy Love(1986)やLucasfilm GamesManiac Mansion(1987)などのスカムアドベンチャーシリーズでサイドビューが採用されている。
 時代が進むにつれアニメーションパターンはどんどん凝っていき1990年代にかけてかなり一般化したが、サイドビューにポリゴンキャラを取り込んだDelphine SoftwareAnother World(アウターワールド)(1991)などを経て、3D表現へとゲームの軸足は移って行った。

 アドベンチャーゲームやRPGでよく見られる「立ち絵」という会話システムも、サイドビューの舞台的利用法と言えるかもしれない。

アクロバットの視点

 視点としては馴染みのあるサイドビューだが、行動としてみるとジャンプや上り下りという非日常的行動が多くなる。
 ゲームの目的は非日常を表現することにある、とも言えるので、ゲームとしてはむしろ利点と捉えられる。

 人の目は横に並んでいることもあり、横方向に敏感である。
 そのためサイドビューは横方向の間合いが判断しやすく、この事がジャンプアクションや格闘ゲームの作りやすさにもつながっている。

 絵的にもキャラクタのアクションを表現しやすく、アクションゲーム向きの視点と言える。
 例えば「ジャンプ」は勿論、「しゃがむ」というアクションが可能なのは、圧倒的にサイドビューが多い。

サイドビューの亜種

 完全なサイドビューだと、奥行きが表現できない。そこで、少し視点を上に移動して見下ろしの視点とすることで、奥行きの表現をする方法がいくつかある。

マルチライン

左は画面上がスカスカ、右は上下をひらりひらり

 サイドビューでも、上下を移動することで、奥行きに近い効果を上げているものも多い。
 この手法はカプコンソンソンや、ラインが常にある訳ではないがナムコローリングサンダーがそれと言える。
 しかし、画面を横に分割するようなこの方式は、大きなキャラクタと沢山のラインを両立させることが難しい。

左は2ライン、右は3ライン

 そこで、奥の方向にラインを何本か設定してライン移動ボタンをつけることで、画面前後に避けることを実現しつつ、サイドビューの操作感を保つ手法を取っているゲームもある。
 サイドビューにレイヤーを作った、と考えれば理解しやすいかもしれない。
 SNK餓狼伝説2やトレジャーガーディアンヒーローズ、アガツマ・ エンタテインメントコード・オブ・プリンセスが、このタイプのゲーム。
 どうしても、ライン移動の不自然さがつきまとうのが欠点。

ベルトスクロール

左3ライン、右ベルトスクロールはラインに依存しない奥移動

 上下に入力することで、トップビューと同じように画面の奥や手前に移動可能にしたタイプもある。
 ベルトコンベアのように地面がスクロールするので、ベルトスクロールとも呼ばれ、ナムコメトロクロスや任天堂エキサイトバイク等が採用している。
 サイドビューの操作感を保ちつつ、奥行きも表現できるこの手法は、テクノス熱血硬派くにお君、カプコンファイナルファイトなど格闘アクションではよく使われる。

 ただ、マルチラインに比べると、当たり判定が分かりにくいのが難点。特に飛び道具を工夫無しに出すと、大混乱となる。
 当たり判定の分かりにくさはキャラクタの高さを低くすることで回避できるが、それでは折角のサイドビューの利点を消してしまうことにもつながる。
 カプコンエイリアンVSプレデターは格闘ゲームに分類されることが多いが、むしろ縦方向も意識したベルトスクロールシューティングゲームと言え、地面への着弾から射線を理解させる等の様々な工夫が凝らされ、このタイプのゲームの頂点と言える完成度を誇る。

 こうなると、トップビューとの区別が曖昧となってくるが、正面や後ろ向きのアクションが横向きと同じだけ用意されていないもの、ジャンプのような縦方向を意識したシステムがあるものは、サイドビューに分類していいだろう。

 そこで結論。

重力、アクション、演技、それがサイドビュー