感情漫符

感情表現には漫画らしい表現手法が多く現れる。これを分類してみる

感情表現を分類する

 今回は感情表現に関する漫符について分類してみる。
 顔だけではなく、体全体のポーズやジェスチュアも感情表現の一つであるが、これらについてはまた改めて語りたい。

エモティコン

 エモティコンは感情を表す漫符のうち、顔から分離可能な部品、集約。これらは人間以外の物体などにもよく使われる。
 写実的である場合は描かれる位置が限定される、記号化が進むと位置が不定となり、さらには顔を離れ空中やフキダシの中、あるいは非生物にも描かれるようになる。
 以下のものが考えられる。

体から分泌 アセナミダチノリハナヂハナミズハナチョウチンヨダレツバエクトプラズム
記号化された体 タレ線怒りマークテレ線キズタンコプ
アイコンの転用 バンソーコー三角巾エンジェルリング天使悪魔ドクロ電球
イメージ記号 アワイキダシケムリツギユゲダシキラキラ気付き線ニコ線
文字の転用 音符ホシハートドルマーク!(感嘆符)?(疑問符)感嘆符疑問符疑問符感嘆符Zzz

 簡単に誰にでも描ける(書ける)ので、絵が上手く描けなくても、キャラに感情をつけることができ、かなり正確に見るものに伝わる。
 漫画の代表的な表現でありすぎるため、シリアスな漫画では抑制される傾向が強い。
 線でいえば、線種に近い。

表情

 人間の顔を構成している部品の描き方によって作られる表情。顔に合成されているもの、ということ。
 表情に近いものとしてキャラ記号がある。キャラを特徴づけし、区別をするための記号だ。表情が常態化するとキャラ記号となるし、逆にキャラ記号が表情になることもある。
 表情は基本的にはそれぞれの漫画家が工夫して描くものだが、ここでは記号化して漫画全体で共通化しているものを取り上げる。

 眉はそもそも記号的な器官なので、特に漫画として記号化を進める必要がない。口も眉程ではないが、記号的な器官である。
 耳については、聞き耳を立てる場合に大きく描かれる程度で、さほど表情作りには使われない。これがエルフ耳や猫耳(ケモミミ)となると、俄然表情器官となる。同様にシッポやハネも表情器官となる。また、筋肉が入っている筈のない髪も、アホ毛となると表情器官となる。
 これらも漫画の記号的表現としては興味深いが、それはまた記事を改めて書きたい。

 以下、ざっと取り上げたものだが、目に非常に多くのパターンがあることが分かる。目は口程にものを言うとのことわざ通り。

怒髪天
びっくり目玉ベタ目ホシ目玉炎目玉ぐるぐる目玉点目白目十字眼バツ目しょぼ目波目
天狗鼻
波口

 表情は、それなりに絵を描けないと上手く表現できないものだが、漫画ではかなり記号に近いものとなっており、絵心がさほどなくても表情をつけることができる。
 これは「上手い人が速く描ける」ということでもある。量産することが求められる漫画には不可欠の特性であると言える。
 表情は、線でいえばタッチに近い、漫画家の個性となるものでもある。

まとめ

 手塚治虫は、漫画は記号であると言った。
 感情表現のための記号(エモティコン)を使えば、表情が一切なくても感情を表現することができる。
 能面のような顔でも、というか鉄仮面でも、あるいは無機物でさえも感情を持つことができる。

 と同時に、手塚治虫の表情は極端なデフォルメで豊かに表現された。
 自分の絵を記号だと言った手塚治虫ではあるが、それは同時に極めて個性的な表現でもあった。
 これは、手塚治虫個人だけではなく、漫画全体に言える特徴である。

 表情そのものと、それに付加される記号が独立しているということは「満面の笑顔で怒る」という複雑な表情でも、漫画なら笑顔を描いて怒りマークをつけるだけ、これは表現の深さ広さを一挙に広げる発明だ。

 そこで結論。

「漫画のキャラの演技は、個性的な記号でなされる」